十四幕・九月の二十九日
「…あのさぁ…ラグ。」
隣を歩くかばねが不機嫌そうにうつむきながら小声で話しかけてくる。
私はそんなかばねに、にっこりと笑いかけて
「お父さんと呼んでくださいね、かばね。」
と、これまた小声で言う。
「これ何の嫌がらせなのっ!?」
かばねが耐え切れず叫ぶ。
小声で叫ぶなんて器用ですねぇ。
今、私とかばねは一緒に街へ出ている。
かばねは黒髪の鬘に白のワンピース姿。
なぜこういうことをしているのかと言われれば…
「面白いからですね。」
「何がっ!?」
「私が、かばねに、嫌がらせをするのを、楽しんでいるんですよ。」
「ドSだっ!!」
勿論、普通ならかばねとてこんな嫌がらせに付いてくるはずもありませんが…。
「今日一日付き合えばマスターの所の食事を奢って差し上げる約束ですが、要らないのですか?」
「うぐっ…!!」
このように文字通り食事をエサにすれば、かばねは簡単に釣れますからねぇ。
まぁ単に嫌がらせのためだけでなく、こうして変装したかばねを連れ歩いて気付かれないかという実験の意味もありましたが。
大半は昨日、黒髪の鬘を被ったかばねが私の娘に見えなくもないという、プラチナの意見を発端とした悪ふざけですがね。
「う~~…変装はともかく、ラグをお父さんだなんて呼びたくなーいよー。」
かばねはそうぶーぶーと文句を言う。
「酷い言いようですねぇ。そんな風に育てた覚えはないですよ。」
「育てられた覚えないけどね。」
「おや、かばね。それは聞き捨てなりませんね。一体何年の付き合いだと思っているんです?」
私がそう尋ねると、かばねは少し考えて
「んー…七年?」
と返す。
全く……。
「八年ですよ。」
「そうだっけ?」
「ええ。私が二十九の時でしたから。当時貴女は九つ。十分育てたと言ってもいい年月ではありませんか?」
私が言うと、かばねはむぅっと唸る。
やがてかばねは、諦めたようにため息をつき
「もー…仕方ないなぁ…。ご飯も奢ってもらえるし……育ててもらったし?その遊び付き合ってあげるよ、おとーさん。けど僕、遊ぶからには本気でいくよ?今日一日は絶対親子だからね?」
そう、周りにアピールするようにおとーさんの部分を少し大きめに言って、私に向けて挑戦的な笑みを見せた。
なんだかんだ言って、彼女も私もおふざけが好きなのだ。




