八幕・九月の二十二日 そのに
……何やってんだ…?
俺はキングの部屋の扉のところに立って、かばねとのやり取りを聞いていた。
ホント、あいつらを一緒にしてるといつまでたっても話が進まねぇな…。
「おい、かばね。遊んでねぇでキングに用件言え、用件。」
俺は見かねて、キングに頭突きされて転がってるかばねに言う。
「う~…れおれお…。」
かばねは若干涙目で俺を見る。
かばねとはさっき廊下で会った。
キングのとこに話ししに行くとか言ってたが、どうせこうやって遊んでるうちに用件忘れるんだろう(いつものパターンだ)と思って付いて来てみたら案の定…。
かばねアホだからな。
キングはキングで、面倒臭がってはぐらかそうとするし…。
で、かばねは見事にそれに振り回されるし。
だから誰か仕切らねぇと、うやむやのまま終わっちまう。
ようやく痛みが治まってきたのか、かばねがむくりと体を起こしてはぁ…とため息をつく。
「ぐーたん、あのさぁ…。」
そして本題を…
「僕の頭は鐘か何かじゃないよっ!そんなにゴンゴンされたら馬鹿になるでしょっ!!」
「いいから本題に入れ馬鹿っ!!」
頭突きをされなくともお前はすでに十分馬鹿だっ!!
「……ちょっとふざけただけなのに…。」
「…お前のおふざけはどこからどこまでか分かんねぇ…。」
全く…こいつにはいつも手を焼かされる…。
うちのメンバーの大半振り回せるんだから相当だ。
「うるせぇぞお前ら…。俺は寝てぇ……。」
キングが眠そうに欠伸をしながら言う。
こっちも相当周りを振り回す奴だ。
こいつら親子じゃないって言うが、嘘なんじゃねぇかってくらいの似た者同士だ。
「あ~っ!待ってぐーたん寝ないでよっ!!」
かばねが慌てて言うと、キングは面倒そうに目を開けて答える。
「用件なら早く言えよ…十…九…。」
「ちょ…っ…十秒っ!?えっとねっ!一昨日くらいに会った青碧の髪のお兄さんのことなんだけどぐーたんならわかるかなって思って聞きに来たのっ!!」
「あぁ…それはな…ん、時間切れ。」
「回答時間も込みなのっ!?」
いや、キングのが上手だな。
ここまでかばねを振り回せるのはキングだけだ。
「つーかかばね、お前それプラチナに言えよ。あいつ情報担当だろうが。」
俺が呆れてそういうと
「昨日聞いたよ?情報が少なすぎて無理って言われた。」
…と、返ってくる。
なるほどなぁ…。
それでキングか。
なんだかんだ一番古株だしな。
「……はぁ…面倒臭ぇなぁ……情報は?」
キングは気だるそうに体を起こす。
どうやらキングも答える気はあるみてぇだ。
その言葉待ったましたとばかりに、かばねはぱあっと顔を明るくして
「えっとねぇ…青碧の髪で、裏慣れしてて、懐に持ってたのは銃とかナイフじゃなくて多分注射。身軽で、猫被りで…あ、ちらっと見えた目は紫だったかも!」
そう指折り答える。
いや…それ普通に無理だろ…。
猫かぶりとか身軽とか…そんな情報どうしろってんだよ。
やっぱこいつ馬鹿なんだな…。
そう俺が呆れていると、キングはかばねに
「……食レポ。」
…と、呟くように告げた。
…は?
食レポ?
俺は混乱したが、かばねは意味が分かったらしくポンッと手を打ち、えーと…と言って答える。
「髪の毛は短くて、外はねしてたから癖の付きやすい細めなのかなと思うよ。
やわらかそうだったけどちょっと痛みが見えたから美味しくなさそうだったなぁ。
薬を扱ってる感じの痛み。ラグのみたいなのじゃなくて麻薬系の薬。
男の人としては結構細かったし、筋肉がついてる感じもなかったからあんまり食べごたえはなさそう。
二十代くらいの体だったけど年の割に結構小さい体格だったから、小さいときはあんま良い環境に育ってたわけじゃなさそうだね。
けど、逃げ足とか早いのもあって足は美味しそうだったよ!あれは逃げ慣れてるね、多分!」
おいおい…さっきのより文字数多いじゃねぇか…。
キングは呆然とする俺の方を向き
「レオンハルト、こいつ馬鹿だと思うだろうが、違う。
こいつの頭は食うこと七割、大罪のこと二割、その他一割なんだ。
普段馬鹿なのは当たり前だ。三割しか機能してないからな。
こいつを賢く使うには、食い物を絡めて扱わなきゃいけねぇ。」
と、滅多に話さないほど長文で説明する。
「あぁ…なるほどな…。」
俺は納得する。
流石、付き合いが長いだけある。
かばねの扱い方に関してもキングは一番だな。
なんて思っていると、キングがふぅ…とため息を一つ吐き、若干真面目な声で
「…そいつは龍の一員だろ。放っておいていい。どうせ裏方だ。あいつらにプラチナの守りは突破できない。大罪には何の支障もない。」
そう、淡々とぶつ切りに答える。
相変わらず適当だな…。
意味わかんねぇことも、もっと説明しろよってとこも大分あるが…。
キングが支障ねぇっていうなら大丈夫なんだろう。
かばねもアホだが、俺も考えるのは苦手な部類だ。
頭を使うことは頭使うのが上手い奴に任せて、俺は動くだけだ。
掴めねぇ奴も多いけど信用はしてんだし、そういうのをぐだぐだ考えんのは性に合わねぇ。
大丈夫ってんならほっときゃいい。
それが俺のスタンスだ。
かばねもそう思ってんだろう。
ふーんと一言言ってさっきまでとは違い興味なさげだ。
キングもどうでも良さそうにまた寝ようとして…
「……そういやぁ…レオンハルト、龍の奴らの中に………いや……。」
俺の方を見て、よくわからないことを呟く。
つか龍って何だよ…さっきから…。
怪訝な顔をする俺をよそに、キングはしばらく考えたあと…
「…いい……何でもねぇ。気にするな。」
そう言って結局、体を横たえて寝ちまった。
………何だったんだ?
…よく分かんねぇな…。
俺は多少もやもやとした気持ちが残ったが、まぁキングが今言わねぇなら緊急じゃねぇだろうと考え直し、部屋を後にした。
……こういう時は体でも動かしとくか。




