六幕・九月の二十日 そのろく
「制圧完了だよープラたん。」
気絶させておいただけの人にも止めを刺してから、僕はプラたんに報告する。
『了解。さっきラグに連絡したから、必要な分は取りに来ると思う。処理屋も呼んだからつまみ食いするなら今のうちにね。』
プラたんは答える。
処理屋っていうのは、こういう裏同士の争いがあったときに使う死体処理のことだ。
勿論、処理屋だからって拠点の露見は避けたい。
だから外だったり、こんな風に相手のアジトに攻めていった時だったりとかしか使えない。
あとは、処理を頼んでそのアジトは放棄するとか。
あの人たちはプロだから、秘密裏に、きれいに掃除してくれる。
ただし、現場が表に露見した時は対象外。
「…って、ちょっと待って!少しマスターのとこに卸す約束なんだ。」
『……ちょっと、そういうのは早く言っ………うん…手早く解体しな?』
「プラたんの鬼っ!!」
僕は急いで卸し分の解体をする。
薬を使ったやつは駄目。
あまり銃のも良くない。
これだけあるし、なるべく傷が無いとこを良いとこ取りっと…。
「おや、かばね。つまみ食いですか?」
「ラグまで何なのさぁ…。お仕事だよぉ。」
しばらくやってるとラグが来た。
丁度いいから、ラグに入れ物を借りて解体した分を入れる。
鮮度が落ちる前に、早くマスターのとこ行かないとね。
マスターはバーのマスターだ。
『ウルス・ブラン』
ホッキョクグマのフランス語らしい。
店のロゴは『Ours blanc』の最後のancが丸に近い字体で、その下に大きめの黒丸が描かれて肉球になっているんだ。
結構可愛いこのロゴは、意外とお茶目なマスターらしいと思う。
僕が中に入ると、店内にまだお客はいなかった。
僕は、カウンターでグラスを拭いているマスターに声をかける。
「ますたぁー、適当に持ってきたよー。」
「ありがとうございます、かばねさん。いつも貴女の解体処理したものは、とても良い状態ですからね。これからもよろしくお願いします。」
「そりゃもちろん!美味しく解体することには慣れてるしね!」
ここは表向き普通のバーだし、マスターの腕もいい。
けど、ここの裏メニューには人を使う。
この店の売りは人料理なんだ。
店の名前がホッキョクグマなのは、ホッキョクグマに共食いの習性があるから。
僕はこの店の常連。
時々こうやって材料を卸したりもする。
マスターの料理は美味しい。
僕の事情を知ってくれてるから、付け合わせの野菜とか余計な物もなし。
しかも、調味料も控えめに出してくれる。
もう、マスター最高っ!!
裏の調理場に入って、マスターは僕の持ってきた中身を見る。
「……確認しました。今回の代金はこのくらいになります。今日は食べていかれますか?」
「うん!食べる―!!」
「では、今日の分を抜いて後でお渡ししますね。」
わーい!マスターのご飯~!!
僕が弾む足取りで店内に戻ると
カランカラン…
と、丁度他のお客さんも来たみたいだ。
人料理じゃなくても、マスターの料理とお酒は美味しいらしいからね。
僕は食べたことないからわかんないけど。
たまに興味本位で裏メニュー食べに来る人もいるらしいし。
けど、ここは扱う材料が材料だし、定期的に店の場所が変わる。
ここの常連になろうと思ったら、ちょっと情報力が要るんだ。
入ってきた二人の男のお客は、僕を見て一瞬驚いた顔をしたけどすぐに視線を逸らしてテーブル席に座る。
このバーにいるおかしな客には関わるべきじゃないと分かっている。
裏の人達だろう。
お互いそんなのは分かっているけど、ここでは争ったりなんかしない。
そんな事をするのはマナー違反だ。
二人のうち一人、若い方のお兄さんはそれでも気になるみたいでチラチラ僕を見ているけど。
よくあることだし、僕は気にせずカウンター席に座る。
マスターも厨房から出てきた。
「いらっしゃいませ、森様。お連れの方は初めての方ですね。」
男の人達の一人は常連さんだったみたい。
「あぁ、マスター。こいつは新入りの部下で…。」
「島野といいます!」
「いらっしゃいませ、島野様。今後ともぜひご贔屓にしてくだされば幸いです。まずは何にいたしましょうか?」
マスターはお客さんに尋ねる。
「俺はいつものハイボールで。」
「えっ…と…俺は…あー…。」
あの人、バー慣れてないね。
「……ウイスキーの水割りでもくれてやってくれ。」
「畏まりました。」
結局、一緒の常連さんが見かねて適当に注文した。
マスターはお酒を作り始める。
僕のは注文取らなくても、マスターは分かってるから聞かないんだ。
どうせ仕入れの問題でメニュー変動するものだし、いつもおすすめを作ってもらうことにしてる。
「どうぞ。ハイボールと水割りになります。」
男の人達のテーブルにお酒を持って行って、カウンターに戻ってきたマスターは僕の前にグラスを置く。
そして一本のボトルを棚から下ろしてきて中身をグラスに注ぐ。
透明度のない赤のどろりとした液体。
ガタンッ
…と音がして、男の人達が驚いて立ち上がりかけたのが見えた。
けど、ちょっとしたら落ち着いたのか椅子に腰を下ろす。
常連だけど、僕と鉢合わせたことは無いみたいだね。
なんて考えながら僕はグラスに口をつける。
マスターは裏の厨房に入る。
今日はどんな料理かなぁ…。
楽しみだなぁ…。




