六幕・九月の二十日 そのに
人通りの多い表通りから、暗く影を落とす路地裏へ。
目の前でみっともなくギャーギャーとわめきたてる男。
必死すぎだろ。
笑えるな。
別に死ぬわけでも無いってのになぁ。
まぁ、これから死ぬほど苦しくなるかもしれないけどなぁ?
しびれを切らして暴力に訴える。
その拳が当たる…
直前に、
「おに―さんたち何してるのー?」
無邪気に雰囲気を壊す声がした。
見ると声の主は猫耳付きのフードを深く被った、この場には全く似つかわしくない子供。
顔は見えない。
それでも、子供の口元が笑っていることだけは分かる。
子供は続ける。
「こーんなところでだめだよー?今、僕の連れに警察の人連れてきてもらってるからねー。」
「なっ…!?」
ちっ…台無しだ。
この子供がはったりを言っている可能性もあるが…そんなリスクは冒せない。
この場で警察に捕まるのはまずい。
俺は襟元を掴んでいた男の手を振り払い、壁を使って背後のフェンスを飛び越える。
フェンス越しにチラリと子供を見ると、驚いた様子はない。
それどころかポカンとしている男たちが見ていないのを良いことに、こちらにひらひらと手を振っている。
成程…俺は見事に引っかかってしまったらしい。
全くそんな感じはしないが、あれも裏の人間なのだろう。
そんな人間が警察を呼ぶ、なんてありえない。
俺は目元を隠すほど長く伸ばした前髪を少しだけかきあげて、青碧の髪の隙間から子供に視線を向ける。
「お前、名前は?」
俺は一言だけ尋ねる。
「教えると思うの?」
子供は返した。
「だろうな。」
俺はククッと笑ってその場から踵を返す。
ああいう行動をためらいなくするのは実動で戦闘慣れしてる奴だ。
裏方の俺が正面から対するには荷が重い。
懐の注射器も相手に警戒されていると役に立たない。
残念。
アイツらが注射器の中の麻薬に狂って、俺に懇願する姿を見てやろうと思ったんだけどな。
懇願するアイツらを存分に踏みつけてやって、そのまま放置でもしてやろうってさ。
絞り取ってやろうにも、こんな奴らじゃどうせろくな客にもならないし?
勿論、薬中で苦しんで死ぬかもしれないけど…まぁ、運と根気が強ければ立ち直れるだろ。
俺をカツアゲしようなんて、アイツらには本当にムカついたしね。
けど、もっと面白いものが見られたから良しとしといてやるよ。
立ち去る俺の背中に
「じゃあね、お兄さん。」
…と、明るく呑気な声が届いた。




