一幕・九月の十四日 そのさん
いつまで経っても、かばねのこれにはまだ慣れねぇ…
もう諦めはしたが、いきなり見るとやっぱ少しギョッとするのは仕方ねぇだろ。
「……うぉっ!?」
「あ、れおれおー。おかえりぃ?」
しばらく体を動かしてからダイニングに行くと、かばねが既に居やがった。
「おや、戻ってきましたね脳筋が。回りすぎでバターにでもなっていれば、朝食に役立ったのですがねぇ。」
……いけすかねぇ野郎も一緒に。
…つーかなんだよバターって…。
「あははっ!ラグ、れおれおは虎じゃないよー?」
かばねはそう言って笑っている。
……わかんねぇのは俺だけなのか?
…わかんねぇが、とりあえず…
「バカにされてんのだけはわかるんだよ…っ!ざけんなよ!!ラグ!!」
「揶揄の元ネタさえ理解できていない馬鹿に激昂する資格などありませんよ。」
ラグは飄々とそんなことを言いやがる。
こいつ…!
イラつくんだよ、いちいち……っ!!
「しかも、なんですか?先程入って来たとき…。レオンハルト、貴方たじろぎましたよね?まだ慣れないのですか?情けないですねぇ?」
さっきのことも流すつもりは無いらしくラグはいやらしくネチネチと攻めてきやがる。
だからこいつは嫌いだ…っ!
あーーー殴りてぇ…っ!!
てめえと俺ではかばねとの付き合いの長さも、裏に居る期間も違うんだよ!
こいつが先達だって認めんのはムカつくけどな…っ!!
「まーまーラグ。僕は気にしないから大丈夫だよー。プラたんだっていまだに五月蝿いし。まぁ、プラたんはお母さんだからねー。」
かばねはひらひらと手を振りながらフォローなのかよくわからないことを言う。
そして手に持った手にあむっと齧りつき綺麗に手の肉を齧り取って、骨だけにしていく。
机の上にも髪や指が乗っている。
…こいつの食事風景はいつ見ても驚かされる。
人の肉に齧り付いている様子もだが、どうやったらあんな綺麗に食えるんだかよくわかんねぇ…。
しかもこいつ…人、丸ごと食うからな。
裏でのかばねの通り名は『食屍鬼』
そして『屍食らい』
それがかばねの呼び名の由来だ。
「……それ、この前の仕事のターゲットか?」
俺は尋ねる。
「そーだよー。切り裂き魔のお姉さん。女の人はお肉が柔らかいからいいよねー。」
かばねはそう答えて笑う。
…いや、俺に同意を求めるなよ…。
かばねは取りあえず手の肉を食い終わったようで、残った骨は瓶に詰めている。
曰く、腐りやすいとこから食ってるらしい。
骨もあとで暇なときに齧ってんだよなぁ…。
どんな歯してんだよ……。
「つーか昨日はちゃんと加工して焼いたりしてたと思うんだけどな。また退化してんのか、お前。」
「だってプラたんの前で生の食べると、ちゃんと加工して食べなさーいっ!!…って五月蠅いんだもん。生で食べるのも美味しいのに…。…ってゆーか、退化って…ひどいなぁもうっ!」
かばねはそう言ってぷくーっと頬を膨らませる。
…これで腹壊さねぇんだよなぁ…こいつ…。
こいつが体調崩すのは普通の飯食った時だけだ。
何故だかこいつは人肉以外を受け付けねぇ。
無理に食わせると吐いたり、腹を壊す……らしい。
いろいろ実験はしたらしいが、どうしても人、及びその分泌物しか食べられないっていう結論が出たって話だ。
ただ、人体の一部であれば状態が生でも、腐ってなけりゃ腹も壊さねぇらしい。
…あと腐ってんのは匂いですぐわかるとか。
獣かおまえは。
「…かばねの胃袋はつくづく不思議ですねぇ。本当に人間なのでしょうか?」
「……てめえと同意見なんざごめんだが、こればかりは同意せざるを得ねぇな。髪の毛とか消化されねぇって聞いたことあるんだが…。」
「そうだねぇ…。髪の毛が胃に絡まって、手術しなきゃいけなくなったって人知ってるよ。摘出した髪の毛がまんま胃の形してたんだって。笑うよねぇ。」
「いや、それ笑えねぇだろ。」
かばねは何がおかしいのかくすくす笑いながら、丁度話題の髪の毛を口に入れる。
黒くて長い髪の毛を、束でもしゃもしゃ食ってやがる。
そういや、髪の毛だけ、とか分泌物…汗とか涙とかってやつ…だけ食っててもかばねは駄目らしい。
絶対に肉を食ってねぇともたない…つまりは、こいつは人を傷つけずには生きていけねえってコトだ。
でもって、肉を提供してくれるなんて頭おかしい人間なんていねぇだろうし、殺して食っていくしかない。
「…おまえそれ、ホントに大丈夫なのか?」
髪の毛を食い続けるかばねを見て、若干心配になった俺が聞くと
「大丈夫だよー。だって僕が今までどれだけ食べてきたと思う?その手術した人となんか比べ物にならないよ。もし消化できてなかったなら確実にアウトだって。あー……む……っ…。」
かばねはそう軽く答えてまた髪を口にいれる。
確かにそれもそうだけどな…。
こいつが、今までどれだけの人間を食ってきたかなんて数えるのも面倒なくらいだろう。
しかも大体は、余すところなく全部…爪の先から髪の毛の一本まで。
けどそもそもの話として、気になっているところがある。
「…それ美味いのか?肉はともかく髪なんて味しねぇだろ。」
かばねは一瞬きょとんとした。
そして口のなかのものを飲み込んでから答える。
「んー…一応するよ、味。うーん…でもこれはあんまりかな。結構傷んでるもん。その点、ラグの髪はほんと綺麗で美味しそうだよね。齧ってもいい?」
ちょっと待て。
いきなり話が飛び火したぞ…おい。
ほんとこいつ掴めねぇな…。
「嫌です。」
ラグが答える。
そりゃそうだろーな…。
「むぅ……けち…。」
「私が死んだ時に残っていればいいですよ。」
「ほんと!?じゃあ焼死とか駄目だからね?」
「さぁ…どうでしょうね?」
……何の話だよ。
こういう話に平然と答えられるラグには、賞賛を送ってもいい。
呆れ混じりだが。
「れおれおは腕とか美味しそうだよ?」
「……勘弁しろ。」




