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食屍鬼と愉快な殺人日記  作者: 莉子
一話・九月のかばねの章
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一幕・九月の十四日 そのに

 




 「この……馬鹿ーーーっ!!」





 そんな怒号がアジトの中に響き渡る。



 …また、ですか。


 まあ今回のものは仕方ないでしょう。

 先日の仕事は随分荒っぽかったようですし。



 私は調合をしていた手を止める。


 ここは私達のアジトの一つ。


 表向きには一、二階に潰れたバーの入っている今は使用されていない廃ビル。


 その地下部分が主なアジトスペースになっている。

 たまに、三階から上も実験用に使うこともある。


 私がいる部屋は、地下一階の奥にある私の調合室だ。




 声はすぐ向いのかばねの部屋からのようですね。




 私は部屋を出てかばねの部屋へ向かう。


 一応ノックをしてから扉を開けると案の定、プラチナがベッドに座るかばねに説教をしている。




 「あ、ラグだ。何か用?」



 私に気付いたかばねは怒られている最中だというのに、呑気に私へ向かって声をかけてくる。




 相変わらずの通常運転ですね。




 私は答える。



 「少々五月蠅かったので。プラチナ、もう少し静かにしていただけませんか?集中できません。」


 「…えっ!?こっち!?」



 非難を受けたプラチナが驚きの声を上げる。




 …彼とかばねは、少なくとも私よりは長い付き合いのはずなのですがね。




 「…いい加減諦めたらどうです?貴方が説教してかばねに反省の色が見えたことがありますか?」


 「…ぐぅ…っ!」



 プラチナは言葉に詰まる。



 ぐぅの音は出ていますが、現状としては《ぐうの音も出ない》状態でしょう。


 全く…懲りませんねぇ…。



 とりあえず一番五月蠅いプラチナを黙らせ、私はかばねに尋ねる。




 「それで、今回は何で怒られていたんです?」



 大体見当はついていますがね。



 かばねは一応聞いてはいたらしく、うーんと少し考えてから、



 「まず、ターゲットに利用されたこと。それから一般人に見られたこと。その一般人に顔見せで接触したこと。で、最終的にターゲット以外を殺したことと、それがニュースになったことかな。」




 そう指折り数えて答える。





 これはまた…大量ですね。


 彼女にしては珍しい。



 いえ、今回は彼女向きの仕事ではありませんでしたね。





 しかし…。



 「他はともかくとして、最後のものは確かにいただけませんねぇ…。」



 我々は裏の深層で動く者ですし、表に露見するのは何を置いても避けたいもの。


 私の言葉にかばねはギクッと体をこわばらせ、慌てて



 「だ…大丈夫だよ!切り裂き魔のお姉さんの仕業に見えるようにしてきたもん!!殺した目撃者のお兄さんにお姉さんの名刺を握らせたし、今頃警察が家宅捜索に入ってるよ!!あれだけ自己顕示欲が強いなら何か戦利品もため込んでるはずだし、お姉さんの家からお金とかいろいろ逃げるのに必要そうなのとかとって来たし、犯人逃亡の指名手配で、実際犯人死亡の迷宮入りだよっ!!」



 と、まくしたてる。





 本当にそういうところは、抜け目がない…。


 そして、相変わらず普通なら物騒な話を当たり前のように言う。




 かばねにとってこれは通常であり日常。


 気負うべきことなど何一つない普通の出来事。



 だからなのでしょうかね。



 裏の人間でありながら、そういう雰囲気が全く見えないのはかばねの特殊なところです。






 それにちょくちょくドジを踏んでも、致命的なところを綺麗に避けるのはある意味すごいですねぇ。


 物心つく前から裏の世界に浸りきっている彼女には、そう言うことに対しては本能にも似た勘が働くのでしょう。



 私や他の者はそういう点でかばねを信頼していますし…。



 かばねにいちいち説教をするのはプラチナだけですねぇ。




 全くプラチナもいい加減理解すればいいものを…。


 頻繁に怒るからかばねも聞かないんです。


 私のように滅多に説教をしない者が怒れば、こうしてかばねも焦るんですよ。




 まあプラチナのそれはかばねを信頼していないというわけでなく、彼の性分なのでしょうが。



 

 「プラチナ。結局仕事は失敗せず、接触した目撃者も殺し、後始末もしたというのにネチネチと騒ぐものではありませんよ。私の気が散ります。」


 「…結局はラグの都合…っ!?」


 

 私のからかいにいちいち反応してくれる彼は、虐めていて楽しいですねぇ。

 


 「それはともかくとして…。貴方が仕事に戻らないと、また全員が好き勝手にやり始めますよ。」



 私は諭す。




 彼は情報担当であると同時に依頼請負もしていますからね。


 大罪にではなく個々人にという形で依頼が無いわけではありませんがそういう依頼は自己責任。


 危険性や素性の秘匿性、依頼料から内容や期間まで全てにおいて吟味し、選別するのがプラチナの仕事。



 しかし依頼を待ちきれない馬鹿や、依頼内容をよく噛み砕きもせず受ける馬鹿がここにはいますからねぇ…。


 ああいう馬鹿は依頼を振ってやらねば余計なことをしでかすものです。




 働かない馬鹿もいますが。




 私の言葉に顔を引きつらせ、プラチナは仕方なくといった体で自室へ戻っていく。







 「あんまりプラたん虐めちゃだめだよ、ラグ。」


 「貴女もあまり彼を虐めてあげてはいけませんよ、かばね。」





 私達はそう言い合い、くすくすと笑い合った。



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