二幕・九月の十日 そのじゅうよん
目の前に広がる現状。
嗅ぎ覚えのある濃厚な鉄臭い匂い。
地面に倒れた…人…。
その傍に佇む小柄な人影。
その手には赤に濡れた鋭いナイフ。
…息ができない。
なのに心臓は五月蠅く鳴り続けている。
……どうして…?
どれだけ考えても答えが出なくて……。
そんな僕に気付いたんだろう…。
人影…かばねが俯けていた顔を上げて…。
ゆっくりとこちらに顔を向け…。
「…あちゃー…戻ってきちゃったの?お兄さん。」
そう、軽い口調で言った。
「…なん…で……?」
僕は緊張に震える声で、血だまりに佇むかばねに問いかける。
するとかばねはさっき別れた時と同じような笑顔で答える。
「仕事だからだよ。」
…仕事……?
じゃあ…かばねは…。
この少年は…。
…この殺人鬼は……。
「うーん…見られちゃったものは仕方ないなぁ…。」
かばねは困ったように言いながら、僕の方へ気負いなく歩いてくる。
…そうだ。
どうして分からなかったんだろう。
怪しかったのは〈どちらか〉じゃなく〈どっちも〉だったんだ。
彼女が切り裂き魔だったとしても、かばねが嘘をついていたことには何の変わりもない。
「戻って来なきゃ、ちゃんと表に帰れたのにさ。」
そう言って目の前の少年は嗤う。
…いや、違う。
多分、嘘はついてないんだ。
言わなかっただけ。
どうして、切り裂き魔を追っていたのか。
どうして、あんな詳細な資料を持っていたのか。
どうして、昨日僕が見たことに否定的だったのか。
どうして、切り裂き魔を前にあんな強気な言葉を言えたのか。
気になることは沢山あった。
おかしいことも沢山あった。
それに踏み込まなかったのは僕…。
きちんと考えず、目の前にあったものだけに踊らされていたのは僕……。
そして、上辺だけの正義感に駆られて戻ってきてしまったのも僕……。
「あのね、目撃者は殺しちゃわなきゃダメなんだ。」
殺人鬼は軽く言い放つ。
「だから、ごめんね?」
かばねが手に持ったナイフを振り上げる。
…僕とかばねという殺人鬼の物語は、ここで終わり…。




