三幕・十月の三十一日
「はろはろ~~~…っ…ハロウィンだよ!!」
「……だから何。」
やたらとテンション高く駆け寄ってきたかばねを、俺は一言で一蹴する。
目の前のかばねは真っ黒なマントにフードを被り、骸骨のような仮面をずらして付けている。
明らかに安い作り物の大鎌を背中に背負い、死神の仮装をしているつもりらしい。
何でこんなにノリノリなんだ…?
コイツはお菓子も何も、人間以外は食べられないくせに。
なんて思っていると、
「…ぃよいしょ!!」
というかばねの声と共に視界が暗くなり、同時に頭が重たくなる。
いきなりのことに混乱して目を回していると、
「じゃあ、れっつごー!!」
「…は…!?…な…にっ…!?」
さらに文句を言う暇もなく手を引かれ、困惑しながら、俺はかばねの後に続いて走り出した。
アジトを飛び出して街の中を歩く。
俺はかぼちゃの被り物を被せられたらしく、目の部分の穴から見える狭い視界に、先を歩くかばねの姿。
全く…かばねの勝手は今に始まったことじゃないが…。
「……結局、何なんだ?」
こいつがこのイベントで、ここまではしゃぐ理由が見つからない。
俺がそう尋ねると、かばねはようやく足を止めこちらを振り返る。
そして、
「今日は全面的にコスプレして外を歩いても良い日なんだよ?」
なんて、よくわからない的外れな答えを返してくる。
……正直、イラッとした。
その間抜け面を少し抓るくらいはしても許されそうだ。
「ふぇあっ!?ちょっと何で抓るのジャック!!…あ、いひゃいいひゃい!すみませんでしたぁっ!!」
「……で、本題は。」
「…ジャックがよく行くケーキ屋さん、今日はコスプレしてったらセットで限定プチケーキが付くんだって。」
「それを早く言え。」
今度は俺がかばねの手を引いて、早歩きで先を急ぐ。
わたわたと慌てて後を付いてくるかばねを振り返ることなく、俺は尋ねる。
「…で、お前のメリットは。」
…今のだけじゃ、まだこいつが付いてくる理由になっていない。
そう問い詰めると、かばねは
「んー…じゃあ驕ったげるから今度の仕事の時、僕のおやつ採ってきてよ。」
と、答えるが、どうにも歯切れが悪い。
本当のことを言ってはいないと馬鹿でもわかる。
……本当にイライラする。
「……いい加減…。」
「それよりさ。」
さらに追及しようとした俺の言葉を、かばねは強引に遮る。
歩く速度は緩めず視線だけで窺うと、かばねはいつもの読めない笑顔を浮かべて続けた。
「早くお店行こ?付き合うよ。」
先にそちらを済ませてから、とでも言いたいのか。
…やりにくい。
こういう時のかばねは正直苦手だ。
だが、思い通りになるのもしゃくな気がする。
だから俺はピタリと足を止めてやる。
かばねも俺に合わせて止まる。
振り返って視線を合わせてやると、澄んだ濃赤が俺を見返す。
少しの沈黙。
そして、かばねは口を開く。
「……今日は被り物してても良い日なんだよ。」
…は?
この期に及んで何を、と。
喉まで出かかった言葉は、続くかばねの発言に遮られる。
「だから、被り物の下の顔なんて誰にも見えない。」
そう言ったかばねの目は真っ直ぐ俺を射抜いていて。
「誰も、ジャックの顔は見えない。」
ゆっくりと、ずらして付けていた仮面を付け直すかばね。
仮面に隠され、かばねの表情が分からなくなる。
そして仮面越しにくぐもった声で、かばねは、言った。
「だから…泣いちゃえば?」
その言葉に俺は固まる。
…な…く?
俺が?
混乱する俺の心境なんて構わず、かばねは続ける。
「僕にはよくわかんないけどさ。ジャックは昨日の朝帰ってきてから、ずっと泣きたそうな顔してると思うよ。」
その言葉に、俺は被り物の下で目を瞬かせる。
…は…?
………あれ…?
俺は……。
泣きたい…のか…?
「なん…で…?」
思わず口に出して、馬鹿なことだと思った。
……だって、そんなこと…自分が一番よく分かっているだろ?
「ま、アジトじゃ皆がいるから泣けないとは思うけど、我慢は体に悪いんじゃないかな?」
あ…ぁ…そう、か…。
それで…俺を連れだしたのか。
……『我慢は体に悪い』なんて、本能に忠実なかばねらしい理論。
黙り混む俺に、かばねは一転、おどけたような雰囲気になり、呆れた声で言う。
「大体ジャックはさ、その仏頂面の鉄面皮を何とかしないと友達も出来ないよー?」
…その、言葉に。
どうせ含みなんて一切無いんだろう、からかいの言葉に。
……ふっ…と、思わず笑いが漏れた。
俺のその様子に首をかしげて言葉を止めたかばねに、俺は反論してやる。
「…残念。友達くらい、いる。お前とは違う…とても良い親友が。」
そう嘯きながら俺は、俺の言葉に固まったかばねを、嗤う。
何かが、ぽたり、ぽたりと被り物に隠された頬を伝っていくような気がした。
あぁ、これは確かに店に行ってからの方が良かったな。
今からケーキを食べたって、きっと塩辛い雑味が混じるに違いない。
あぁ…本当に……俺は、馬鹿だな。
そう自嘲し、肩を震わせる俺に何を思ったのか、かばねは一瞬のような、永遠のような沈黙の後
「………そっか。」
と、たった一言だけ呟きを落とした。




