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食屍鬼と愉快な殺人日記  作者: 莉子
閑話・十月の虚飾の章
123/330

二幕・十月の三十日 そのに




赤、赤、赤。


悲鳴、悲鳴、悲鳴。



目障りだし、耳障りだ。




足元に這いつくばって呻く奴らを殺さないのは、単に止めを刺すことより誰も逃がさないことを優先しているだけ。


俺の目的はこいつらの殲滅なのだから。



ただでさえ面倒な相手に遭遇して時間をとられている。


この組織の人間ではない部外者。


運悪く向こうの仕事と鉢合わせしたらしい。


目撃はされたが、向こうも向こうで裏の人間だ。


通報されるわけでも無し。


俺がここにいたという情報も、別に漏れたところで構わない。


俺がこの組織を壊滅させるに至った動機など分からないだろうし、分かったところで意味は無い。




俺が守りたいと思うものはもうない。





……大罪?


アイツらは俺が何しようが自分の身は自分で守れるだろう。



まぁ、出来れば殺しておいた方が良いことは確かだが、無駄に深追いして、本来の目的(ターゲット)…まだ生き残っているこの組織の連中…に逃走の時間(すき)を与えてやることは無い。




逃げていく奴も、諦めて俺に向かってくる奴も…。



誰一人として逃がさない。













ぐしゃり、床に広がった赤に塗れた肉塊を踏む。



一通り回ったが、どうやらもう動ける生き残りはいないらしい。


後は転がってる奴らに止めを刺すだけ。


…と、駄目になったナイフを別の物に変える。




あぁ…この殺しで使ったナイフは理央を殺したものじゃない。


当たり前だ。


理央を殺したあのナイフで他の奴を殺すなんてありえない。



あの気さくなナイフ職人には悪いが、おそらくこの先もずっと…。




新しいナイフを開いて、動けない程度に傷を負わせて放置した男たちに近付く。


幾人かは出血多量でこと切れているが、まだしぶとく生き残っている奴もいた。


どうせ放っておけば死ぬだろうけど。



……全員ちゃんと殺さないとな?



床に倒れ伏す一人にゆっくり歩み寄りナイフを構えてやると、情けない声で怯える。



…まぁ、逃げられやしないけど。






「…ひっ…!?」



男は引きつった声を上げる。




なぁ。


やられる立場になった気分はどうだ?




無感動にナイフを振り下ろす。


返り血が飛んで頬を濡らす。



…もう全身血塗れになっているだろうな、今の俺は。


なんてぼんやり考えながら、次の獲物の始末を…と思った時…




「…まっ…待っ…!見逃してくれ…っ!!」



そんな必死な声が聞こえ、俺は動きを止める。


声の方に目を向ければ、他と同じく這いつくばりながらこちらに懇願する男の姿。


俺が視線を向けたことで交渉の余地ありとでも思ったのか、下手くそに嫌らしい笑みを浮かべて男は続けた。



「た…助けてくれたら何でもするっ!情報とかっ……そ…そうだ…っ!薬も好きなだけ…っ!!」




…はっ…。




…笑えるな?





俺は最後まで言わせず、血だまりの上をぴちゃりぴちゃり歩んで男の傍に寄り…



「あ…はっ…?」



恐怖と、打算の入り混じった濁った目を見下ろして。







少し笑ってやる。







そして




「…っ!?~~~っがあぁぁぁっ!?」



一瞬、期待を抱いたように笑んだそいつの顔を思い切り踏みつける。


痛みに叫び、のた打つそいつの手にナイフを突き刺し床に縫い付けてやる。


もはや声にならない悲鳴を上げるそいつに聞こえるように、ゆっくり顔を近付けて言ってやる。





『…糞食らえ。』





いくら馬鹿でも、このくらいの英語は理解できるよな?



…理解していようが、していなかろうが…関係、ないけど。




突き刺したナイフを引き抜き、もう一度、今度は首にそれを振り下ろす。


鈍い手ごたえ。



ふぅ…と息を吐く。





……さぁ、あと何人生きてる?





















キィ…と音を立ててアンティーク調の扉が開く。


真っ暗なアジトのバーの店内。



今は三時か四時頃か。



誰かに見つかると問い詰められそうだ。



…そうなると面倒だな。


早めに自分の部屋に帰ろう、そう思った時だった。





「あ、おかーりジャック。」



呑気な声が上から降ってくる。


視線を上げると、かばねが二階から俺を覗き込んでいるのが見えた。



…よりによって一番見つかりたくない奴に。



思わずため息を吐く俺の事などお構いなしに、かばねはひょいっと二階の手すりを乗り越え、器用に一階まで降りてきた。



…階段があるんだからそっちを使え。


……なんてツッコミは胸の内に。




「……何か用?」



いつものようにそっけなく聞いてみると、かばねはその濃赤の瞳で俺をじっと見つめ…。



「ううん!どこ行ってたのかなーって思っただけー。」



そう答えて、にへーっと笑う。


俺は、それに



「…別に。」



と答えて…。



「………この前の、ナイフを取りに行って、その後、絡まれて…イラついたから、組織ごと潰した。」



そう、続けた。



かばねは、俺の言葉にこてりと首を傾げて少し考えた後、



「…そっか!お疲れさま!!」



なんて軽く言って、くるりと踵を返す。


そして、カウンターを乗り越え奥の扉へ、てこてこと去って…。




…行く前に、



「ま、ジャックがすっきりしたなら良かったね!」



そんな言葉を残して。


パタン、と扉の閉まる音。



どこまで気付かれているのか。


…分からない、けど。





かばねに嘘を吐いた。


その事実に、俺は何とも言えないような感情を覚えた。





ある種の達成感のような、優越感のような、そして少し…後ろめたいような。



けれど、俺は軽く頭を振って最後のそれをかき消す。



…俺は《傲慢(スペルヴィア)》だ。



あいつらに後ろめたく思うことなんて、ない。



そうだろ?



だって俺は、自分を悪いと思うことなんて…もう、ないから。



他人がどう思おうと、俺は…俺の為に生きる。


嘘も真実も混ぜ込んで、全てを掌で転がしてやるさ。



もう、馬鹿正直なんて言わせない。








だから…大丈夫だ。





お前に心配なんてされないように生きて、やる。





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