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食屍鬼と愉快な殺人日記  作者: 莉子
閑話・十月の虚飾の章
121/330

一幕・とある虚飾の独白 そのさん

再会したジャックは前と全然変わらなくて。


話してると楽しくて。



最悪な今の俺の状況なんて忘れるくらいに。



ジャックが『切り裂きジャック』かなんてもうどうでもよくなるくらいだった。








なのにさ。






……ほんと、お前は嘘が吐けない馬鹿正直だ。








落したナイフを大急ぎで拾って、俺から目逸らして……内心めちゃくちゃ焦ってたんだろ?


そんな反応、やましいことがあるって言ってるようなものじゃないか。







あぁ…気付かなきゃよかったな。







けどさ…もう、俺は戻れないからさ。




有名な殺し屋なら、俺の攻撃なんて避けて、そのまま俺を殺してくれよ。












…なんて思ってたのに。









俺が手を差し出した時、おずおずと手を取りながら、ちょっと嬉しそうな顔しちゃってさぁ…。








……やっぱりお前見てると、俺は自分が嫌いになるよ。













注射器に入っていた薬を打ちこんだとき、俺の中ではやったという喜びと、なんで俺の攻撃なんか食らったんだって失望がない交ぜになって、ぐちゃぐちゃだった。




…俺嘘つきだからさ。



口からは天邪鬼な言葉がすらすらと出てくる。





身体の方が幾分正直だ。


ナイフを持つ手が震える。









……俺に、ジャックを殺すなんてことが出来るか…?


なんて疑問も一瞬浮かんだ。



でもその瞬間、体中にある生傷が、その存在を主張するようにズキンっと痛んだ気がした。


一転、頭の中が恐怖に塗りつぶされて。


ジャックを殺さないと、という強迫観念のようなものに完璧に捕らえられて。



俺はナイフを振った。







すると…。







流れるような動作で、目の前に跪いたジャックがポケットからナイフを取り出し開いて、俺のナイフを受け止める。



俺が思考停止してしまったのも無理はないだろう。


だってあの薬は、とても初心者向けとは言えないほどの量と濃度で…。


下手すればこの一回で死にかねないほどのやつだ。


なのにジャックは慣れてる、なんて言って。





そんなのに慣れてるだなんて、俺と会っている時にそんな素振り全然無かっただろ?





『お前、大丈夫なのかよ?』



浮かんできた心配に笑いたくなった。


俺はこんな状況なのにジャックの心配をするのかって。




そんな風に固まっていたら、ジャックがナイフを押し返してきて、俺は焦って飛び退いて。



ジャックは何かを決意したような顔になっていて。







俺は、あぁ…もうこれで終わりなんだなと思った。






ジャックと俺との関係も。








俺の命も。










……なのにさ。




なんでお前は手を差し伸べてきたんだよ…?














許してもらおうとは思わない、だなんてそんな事、お前が言う必要なんかないだろ?


だってお前は悪くないじゃないか。



これは俺のエゴで。


お前を責めるのも筋違いで。



…いくらなんでも馬鹿正直すぎるよ…ジャック…。



「…だけど、俺は…そんな顔のお前に…殺されたく…ない。」



…俺も…お前を殺したくなんかないさ。



「…お前が…俺に嘘を吐いていたとしても、今まで見てきたお前のすべてが嘘だとは…俺には…思えない。……俺は……親…友……だと思っているお前に、そんな顔はさせたく…ない。」



……俺も、お前のことを親友だと思ってるよ。






………だから…っ…。




ナイフをしまったりなんかしないでくれ……っ!







…こんな俺を助けたいだなんて言わないでくれ…っ!!









「…俺がお前を追い詰める原因になってしまっているなら、俺は…責任を負うつもりも…ある。…俺を許せなくてもいい。」



違う。



お前は悪くないんだ…。



…許しを請うべきは俺なんだっ!




「いつか…俺を殺せるようになったら…俺を、殺しても…いい。」



…やめてくれ……。



俺の、この卑怯で最低なエゴを肯定しないでくれ。



「…けど、俺は…まだ……やり直せると思って…いる。…お前との関係をやり直したいと…思っているんだ。」




……あぁ、俺も出来るならやり直したいさ。



でも…。






…もうやめてくれ。










これ以上喋らないでくれ。





その青の瞳で俺を見つめないでくれ。




そんな悲痛そうな顔をしないでくれ。




そんな辛そうな声で叫ばないでくれ……っ!























「~~っ何だってんだよ!!」



俺は耐え切れずに叫んだ。


言葉は上手くまとまらず、相変わらずジャックを責めるような言葉しか出てこない。




でも心の中に渦を巻く黒い感情は言う。







もう、無理なんだ。










もう、俺は……。













俺を認めることができない。













……俺はお前のその手を取る資格なんてない…っ!





















気が付くとがむしゃらに踏み込んでナイフを振るっていた。



ジャックが動く。


さっきと同じように慣れ切った動きだ。



もう反射的に染みついてるんだろう。





もういいよ。





もういいから。













そのまま俺を殺してくれ。






























腹部に走る激痛に意識が引き戻される。



…今、一瞬意識失ってたのか…?


あぁ…すごいな……さっきのが走馬灯ってやつなんだな、なんて今さら気付いて呑気な感想を抱く。



必死な声で俺に呼び掛けて、泣きそうな顔で俺の傷を見るジャックが見える。



……馬鹿だなぁ…ジャック。


なんて顔してんだよ。



今にも死にそうな顔しちゃってさ。


お前は悪くないんだから。



……あーあー。




「…そんな顔すんなっていっただろ…?ジャック。」



お前ホント馬鹿正直だよ。


心配になるくらいさ。


…俺も、死ぬ前くらいは少しだけ…素直に…。



「こんなの…俺の、自業自得だろ…?…俺は、後悔なんかしてない…し…。」




……なれたら苦労しねぇよなぁ…。



後悔なんて数え切れないほどあるよ。



…でも、ちょっとは嘘を吐くのが下手になれたみたいだ。


体は口よりまだマシなようで、笑うのに少し失敗して。







…あー…そういえば、あの映画の主人公も嘘が下手くそだった。


発する言葉は嘘ばかりなのに、行動はいつも正直なんだ。




あんな風になれたらよかったな。




あの主人公も俺と同じように酷い扱いを受けていたのに、彼はそれを飲み込んで、世界を救ってヒーローになったんだ。






俺も、もう少し…ほんの少し素直になれていたら……こんなことにはならなかったんじゃないか?






…仮定の話だ。






俺はあの主人公とは、違うんだから。






でも、俺がその主人公の台詞を口に出したのは、もしかしたらどこかで期待してたのかもしれない。





「『…俺は嘘つきで弱虫で、最低の『悪役』だから。』」



…なんて。


それに対するヒロインの『…貴方は嘘つきで弱虫で、最高の『ヒーロー』だよ。』という返しを、ジャックの口から聞けるんじゃないかって。




今さら、ジャックに認めてもらいたいなんて。


勝手な願望。





…だけど、ジャックは答えてくれた。





「『…貴方は嘘つきで弱虫で、最高の……『俺の親友(・・・・)』…だよ。』」





……そんなアレンジを加えて。







あぁ、もう……ホント、お前は最高だよ。











だから、最後に楔を残してやる。






素直になれない俺の言葉で。








『もう少し嘘も吐けるようになれって。』



『絶対、俺の後追って死んだりするなよって。』







俺はお前のこと殺せない。


握ったままのこのナイフだって、結局振るえやしないんだ。







お前には生きててほしいからさ。






今まで散々俺のエゴに振り回されてくれたお前なんだから…。




この最期の我儘にも付き合ってくれるよな?








…こんな虚飾にまみれた俺を受け入れてくれた。



それだけで俺はもういいからさ。






次もし会えたら、今度はちゃんと…。


お前のこと親友だって口に出して言いたい。






それまでは、もう少しこっちで生きて待っててくれよ。










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