二幕・九月の十日 そのはち
いた。
長い髪に眼鏡…あの綺麗な女の人はあの時の…!
大きな声を出した僕に周りの人達が注目した。
かばねも、女の人もだ。
「お兄さん、どうしたの?」
かばねが僕の顔をのぞき込みながら言ってきたので、僕は女の人の方を小さく指さし小声で答える。
「あ…あの人だよ。昨日の女の人…。」
かばねは僕の指さす方を向くと、
「…ふーん。」
…と一言、言ったかと思うと、僕がどう声をかけようかと考える暇さえ与えてくれずに女の人に走り寄り、
「ねぇ、お姉さん。そこのお兄さんがね、昨日このあたりで切り裂き魔を見たらしくてさ。その現場をお姉さんも一緒に見たはずだって言ってるんだ。心当たり、ある?」
そう言って可愛らしく小首をかしげた。
「えええぇぇぇぇっっ!?」
あまりに直接的な言い方に、僕は驚いて叫ぶ。
いやいや…さすがにもうちょっと遠回しな言い方が…。
これで、昨日のことが僕の勘違いや妄想だったとしたら恥ずかしすぎていたたまれない‼
でも、かばねはそんな僕の内心なんて気づいてないんだろう…。
「お兄さん、五月蠅いよ?どうしたの?」
なんて言って、僕のことを変なものでも見るような目で見ている。
そして…正直目線を向けるのは緊張するけど…。
かばねの目の前の女の人を恐る恐る見ると…。
「………。」
ポカンとしていた。
「えっ…?…それ、私のこと……なのかな?」
何もわからないといった様子で…。
顔に熱がのぼるのがわかった。
……恥・ず・か・し・す・ぎ・る!!!
僕はその場で転がって悶えそうになる。
けど、それをなんとか必死で抑え込んで、真っ赤に茹で上がっている顔を手で隠しうつむくだけに止めた。
かばねは
「ふーん…じゃあ昨日のはお兄さんの妄想って?」
なんて言って傷を抉ってくる。
そう…この人が何も知らないという事はやっぱり昨日のことは…。
…あぁ…恥ずかしすぎて埋まりたい…。
そうやって僕が羞恥に悶えていると、
「え…っと…ごめんなさいね。何のことかわからなくて…。でも、えっと…私、雑誌記者なのだけど、今の担当がこの辺りで最近騒がれてる切り裂きジャックなの‼その話には興味があるわ‼」
女の人がそうフォローするように優しく声をかけてくれる。
そして、名刺を差し出してくれた。
「あ…ありがとう…ございます。」
まだ恥ずかしいのはあるけど、受け取らないのは流石に失礼だから僕はあわてて名刺を受け取る。
受け取った名刺には『ティアーズ 記者・日野 沙紀』と書かれている。
ティアーズ…確か、変わった事件をよく取り扱う結構有名な雑誌だ。
「勘違いでもこんな偶然はなかなか無いわ。きっと意味がある出会いだと思うの。ね、話を聞かせてほしいな?」
日野さんはそう言って笑う。
とても快活な人なんだとその笑顔で分かった。
しかも、記憶の中よりずっと美人に見える。
あぁ…いや、あれは僕の妄想らしいから…。
けど、昨日のこともこうなってみるといいことだったな…。
こんな美人と知り合いになれて……。
「お兄さん、鼻の下が伸びてるよ。」
そう声をかけられてハッとした。
…ここにはかばねも一緒に居るんだっ…!
かばねの声には呆れが混ざっている気がする。
流石に年下の子供に、美人に弱いだらしない奴だなんて呆れられるのは情けなすぎる…!!
僕はなんとか誤魔化そうと、急いで日野さんに昨日からの事情を説明するのだった。




