三十幕・十月の二十九日 そのに
カスタードの瞳に俺が映されている。
随分と久しぶりに思えた。
ほんの十数日しかたっていないのに。
久々に見た理央の姿は、前にあった時より、何となく疲れているような気がする。
俺がそう言ったら
「お前のせいだろ!」
と返ってくる。
「そんなに必死に探してたのか?」
とさらに聞けば、
「~~っお前大人しすぎだろ!」
と、何故か怒鳴られる。
「こちとらお前が逃げるのも想定したり、いっろいろ大変だったんだぞっ!!あ~~もう!こっちの気も知らずに呑気にしやがって!」
「…悪かった……?」
「疑問符付きで謝んな!逆に腹立つ!!」
そんなやり取りを一通り繰り広げて、
「……くっ……ははっ…!」
「…ふっ…あー…くくっ…ったくもう………あっはははっ!」
俺達は二人して笑った。
しばらく笑って、普段あまり動かさない表情筋が若干悲鳴を上げ始めたあたりで、何とか笑いをおさめた理央はパッとおれの手を取って言う。
「…時間、あるならもっと話そう、ジャック。聞きたいことも、言いたいことも、こっちは沢山あるんだからな。…まぁ…ここはちょっと……迷惑だし…どっか落ち着いて話せるとこ…。お前この辺りなんだろ?どっか心当たりないのかよ?」
チラリと周りを見る理央につられて視線を動かしてみれば、いきなり叫んだり、笑ったりしていた俺達は随分注目されている。
しまった。
少し油断しすぎたらしい。
こんな公衆の面前で目立つ真似をしたら、確実にプラチナの耳に入る。
裏の人間のくせに目立ったという事もだが、何より理央のことを問い詰められかねない。
一転、焦りが体中を支配した。
ともかく早めにここを離れよう。
俺の右手を握っている理央の手を引いて、足早に歩きだす。
理央は少し驚いたようだが、
「おっ…と。…ったく…お前、言葉が少なすぎ。」
そう呆れたように言って、引かれるまま付いてくる。
理央との関係は何とか隠さないといけない。
…そう、焦りすぎた。
人通りの少ない静かな路地裏へ入ろうとした、時。
「…っ!?」
その路地裏から人影が走り出て、路地に入ろうとしていた俺にぶつかる。
制服を着た短めの髪の女。
肩がぶつかった程度だったからか、その女は少しよろめいただけで体勢を立て直すと、俺達を避けこちらには目も合わせずまた走り出す。
ぶつかっておいて一言もなしに…と、一瞬は考えたが、俺も何も言わなかったから人のことは言えない。
そんなふうに思ったすぐ後、路地裏からもう一人息を切らした男が、女の後を追って飛び出してきた。
そして、少し先を行く女の背に向けて
「~~逃げるなこらーーっ!逃げて結局迷子になるのを探さないといけないこっちの身にもなれーーっ!!」
そう、叫んで女を追っていく。
……どこかで見たような光景な気がする。
…あぁ…うちの獣と世話係か。
なんて…そう、呑気に、見送って…理央に、視線を移した。
理央のカスタードの瞳は俺に向いてはいなかった。
俺の、足元を、見ていた。
…正確には、
おそらくは今ぶつかった拍子に、
俺の、
足元に落ちた、
ナイフを、
見ていた。




