二二幕・十月の二二日 そのに
小屋の中はナイフがたくさん。
綺麗に並べて棚や壁に置いてあった。
おじさんは部屋の中にあった使い込まれた丸椅子に腰かけ、僕達に尋ねた。
「んで、今日は嬢ちゃんの注文か?」
僕はちょっと、げっ…と思って視線を逸らす。
ジャックに作ってくれた特注ナイフ、僕が手入れ怠って刃こぼれさせちゃいましたーなんて言えないのー。
そんな僕に代わってジャックが質問に答える。
「…違う。俺のを一つ、特注で。」
「……僕は特注じゃなくていーや。適当にそのあたりのから一つ二つもらいたいなぁ。」
僕は誤魔化すようにジャックの言葉に続けた。
なのに、
「…コイツが前のナイフ勝手に使って刃こぼれさせた。金はコイツが出すから、一本作って欲しい。」
って…ジャックが正直に言っちゃう。
もう!
ちょっとは嘘つくか口をつぐんでよーっ!!
おじさんは頭を軽くかりかり掻いて笑う。
「ははっ!全く破天荒な嬢ちゃんだ!うっし、了解。引き受けた!嬢ちゃんはそこらの適当に手に取って見ててくれ。坊はこっちな。」
そう言っておじさんは立ち上がり、部屋の奥にジャックを手招きする。
何するんだろうと思ってたら、おじさんはメジャーを取り出してジャックの手とか腕とかの採寸をし始めた。
なるほどー。
ちゃんとした特注とかにもなると、細かく採寸して本当にその人にだけ合わせて作るんだね。
なんて横目で見ながら僕は周りの壁や棚にあるナイフを見る。
これはタクティカルナイフだね。
あ、ライナーロックだ。
これ片手で簡単に開閉できて便利。
お、これもしかしてブーツナイフ?
普段から隠し持てる武器があるのも良いなぁ。
いろいろ考えつつ、時々手に取って軽く振ってみる。
普段あまり扱わないナイフの扱いに慣れるいい機会だし、いろんな種類のナイフを見境なく試し振りする。
しばらくそうしていると、何だか見られているような気がしてジャック達の方に向きなおる。
すると、何故か二人して僕がナイフを振るのをじーっと見ていた。
「…ふぇ?」
思わず声を上げると、こっちを見ていたおじさんが、
「おー…成程なぁ。流石ジャック坊の姉貴分ってか。どんなものでもナイフに自分を合わせられるってわけだ。しかもジャック坊と違って武器に愛着が無い。こりゃ確かに特注のし甲斐が無いってもんだなぁ。」
と、何故だか感嘆したような声で言う。
まー確かにそーだけどさ。
僕はご飯を食べるのに困らなければ、武器も手段もどうでもいいもん。
ジャックがナイフをコレクションするのも、大事に大事に手入れするのも僕にはよくわからない趣味だ。
道具は道具。
使える道具が増えるのは良いことだと思うけど、一つ一つに愛着なんて持つもんじゃないと僕は思うよ。
…っていう僕の言い分を知ってるジャックはおじさんの横で呆れ顔。
あれ?
そういえば採寸は終わったのかな。
おじさんが僕からジャックに視線を移し、紙に何か書き込みながらジャックに言う。
「…ん、じゃあ坊、前と同じ型で良いんだな?…そうだな…一週間…ってとこだろう。一週間後に取りに来な。」
ジャックはそれに頷きで答える。
それを確認したおじさんは紙を置いて、今度は僕に
「…んで、金の話は嬢ちゃんにすれば良いのか?」
って言ってきたから、僕は気に入ったナイフを手にとって答える。
「うん。えっと、これとこれの会計と同じで。」
そしたらおじさんは僕の差し出したナイフを見て、パチパチと電卓をたたく。
差し出されたそれには…あー…これまた結構な。
近いうちにマスターのとこの仕入れでもして、お小遣い稼ごうかなぁ。
内心ちょっとしょぼんとしながら会計を済ませると、おじさんはにかっと僕に笑いかけて言う。
「んじゃ、嬢ちゃん。嬢ちゃんが自分のために、誰かのために…特別なナイフが欲しくなったらぜひここに来な。腕によりをかけて作ってやるよ。」
もーおじさんってば商売上手!
きっとそんな日は来ないと思うけど、このおじさんのことは嫌いじゃないなー僕。
だから僕は何も答えず、おじさんに笑顔を返して手を振り、用は終わったとばかりにさっさと小屋を出ようとしているジャックを急いで追いかけた。




