表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食屍鬼と愉快な殺人日記  作者: 莉子
二話・十月のジャックの章
103/330

十九幕・十月の十九日 そのに


「あ、ジャック。」


「……。」




……あっさり見つかった。


いや、というかアジトを出てすぐ鉢合わせた。



まさか自分から帰って来たのか?


俺が驚いていると、かばねはにへーっと笑って



「丁度良かったぁ。」



なんて言ってきた。




…嫌な予感がする。









「ちょっと一昨日騒ぎを起こしちゃってさぁ。今厄介なのに追っかけられてるの。手伝ってよー。」


「嫌だ。」



即答した。



本当にこいつは少し放っておくと面倒事を引き起こすな…。



…というか、



「…アジトにその厄介なのを連れてくるな。」



そう迷惑気に言ってやれば、



「一応撒いてきたよ!でも、しつこそうなんだもん。街で見つかるたび付き纏われちゃたまんないよー。」



と、ため息と共に返ってくる。


どうやら、コイツにしては本気で困っているらしい。


協力してやろうとは思わないけど、理由には興味が出てきた。



だが、とりあえずここはアジトの真ん前。


かばねは撒いてきたと言ったが、しつこく追われているならいつ見つかるか分からない。


俺がしゃべり続けるかばねを無視して適当に歩き出すと、かばねは



「あっ!ちょっとジャック!!」



なんて言いながら付いて来る。





俺はその場を離れながら事情だけでも聞くかと、かばねに声をかける。



「それで結局どういう経緯で追われてるわけ。」


「あ、聞いてくれるの?」


「聞くだけ。」


「むぅ…。」



頬を膨らませるかばね。


いつもの子供っぽい拗ね方。


どうせ本気で怒ってるわけじゃない。


その証拠に、かばねはすぐに切り替えて話し出す。



「一昨日さぁ、マスターの所で常連のお兄さんに絡まれたんだよね。勿論、最初は無視したんだよ?けど、しつこかったから、ちょっとお話して帰ってもらったの。けど、お兄さんお金払うの忘れて出てっちゃってさ。マスターに迷惑だし、僕が出しといたんだ。そしたら次の日、そのお兄さんがマスターのとこに来たらしくてー、事情聞いてー、何を勘違いしたのか僕の舎弟になりたいって言って追っかけてきたの。ね?厄介でしょー?」



かばねはそう言って、俺に向かって小首を傾げ同意を求めてくる。





俺は答える。





「別に。」



「僕の長文説明を二文字でっ…!!」


「厄介なら殺せばいい。」


「そう簡単じゃないんだよー…。一応ちゃんとした組織の人ではあるらしいからさー。勝手に殺すのはトラブルのもとだよー。お兄さんもお兄さんだよねー。折角お店でのことは無かったこと扱いにしておいてあげたのに、蒸し返すようなことしないでほしいよー。」




…本当にこいつは意外に考えている奴だ。


天然の馬鹿だから空回りも多いが。



だが、



「それで何で俺の協力が。」


「んー?それはさ、」



「兄貴!!」


「……あ、見つかっちゃった。」



言葉を途中で遮られたかばねが向いた先を見ると、こちらに向かってくる男の姿。


俺達とそう変わらなさそうな若い…いや、年上である事は分かる程度の…年の男。



……今、この男…。






「……兄貴?」



小声で言ってかばねに視線を向けると、



「僕って何でいつも勘違いされるんだろうねー?」



と、返ってくる。




…それは冗談で言ってるのか?




からからと笑うその表情からは判別できない。



そうこうしているうちに、俺達の目の前まで来た男はかばねを見て、そこで初めて俺のことを見て眉を顰める。



「兄貴。こいつは?」



なんて言って俺を指さすコイツを殺そう。


そう瞬時に判断して、俺はナイフを出そうとする。


その手がナイフに触れる前に、別の手に止められる。


その手は勿論かばねのもの。


俺はかばねの濃赤の瞳を睨みつけるが、その抗議は笑みで返され、かばねは男の方に向き直り、困ったように、そしておどけるように言う。



「だからさぁ、お兄さん。僕はお兄さんの『兄貴』じゃないよ?」


「いえ!年齢とか関係なく、俺は兄貴を尊敬してますから!ぜひ兄貴と呼ばせていただきたいんです!!」



そう答えるコイツはやはり、かばねの言葉の本意を勘違いしている。



かばねは嘘をあまりつかない。


だがそれは本当のことを言っているというわけではない。


コイツのことを知らない奴にとって、コイツはとことん面倒な奴なんだろう。



知っている俺ですら、コイツには振り回されるのに。



ちらりとかばねを見る。


かばねはその視線に気づいて、笑った。



そして、その口が、ご、め、ん、ね、と動いたかと思うと、





「お兄さん僕の舎弟になりたいって言うけど、僕、弟分はこのジャックだけで十分なんだ。だから、ごめんね?」



そう言い放つ。







「「…は?」」



俺と男の声が重なった。





俺はへらへらっと笑うかばねの胸倉を掴んで低い声で言う。



「…誰がオマエの弟分だって?」


「あ、そこ?そこなの?言うけどジャック僕より年下でしょ?一番後輩だし?」





……そこを言われると、納得いかないが納得するしかない。



目の前の男はじろりと俺を睨む。



「コイツが兄貴の弟分?」



なんて言って胡乱気に俺を品定めするように見回す。



ちっ…体よく俺に押し付けたな。



それにしてもいちいち不快な奴。



俺は、さっきから服の胸元を掴みっぱなしにして捕まえていたかばねに尋ねる。



「俺に押し付けたってことは殺してもいいってことだよな。」


「えー…それはちょっとなー。っていうか、いつまで掴んでるのジャック。一応暴行扱いになりかねないからそんな短気に胸倉掴むのやめなよー?」


「五月蠅い。」


「えーー…。」



かばねが五月蠅いので離してやったら、何故か文句ありげな目で見られた。


ここで、しびれを切らした男が口を出してくる。




「お前!弟分だってのに兄貴に向かってその態度は何だ!!」






本当に五月蠅い。



俺はもう一度ポケットに手を入れナイフを取り出す。


今度は、かばねも邪魔をしなかった。


ナイフを開く動作はもう慣れたもの。


迷いなく首を狙う。



その首を掻き切るかというところで、殺すなと言われていたことを思い出し、ピタリとナイフを止める。


皮の一枚や二枚くらいは切れたかもしれないけど、別に良いだろう。



男はひっ…と情けない、悲鳴になり損ねたような声を出す。



それを見たかばねは、ケラケラと一通り笑ってから、



「ジャックってば短気ー。ま、そういう事でさー。こんな扱いづらい弟分いるから、お兄さんの申し出はお断りするよー。もう付き纏うのも、兄貴とか呼ぶのもやめてね?」



そう言って男に向かってひらひらと手を振った。



…結局協力させられた。



なんとなく腹立たしくなり、俺は男の首元から離したナイフを、そのままかばねに向かって振りぬく。


大して本気でもなかったし、案の定かばねが取り出したナイフで止められる。



「もう、ジャック。こんなとこでふざけないでよー。」



眉間にしわを寄せて、呆れたような声音で言うかばね。




本当にムカつく。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ