処分
「寮生コン、あなたは退学です、寮内で召喚魔法を使ったこと、上位存在に対して召喚魔法を使った不敬な態度、学校にふさわしくありません」
「はい...」
「...寮長殿、妾は召喚されたのをどうも思ってないぞ、なぜ退学なのじゃ」
寮長は得意げに眼鏡をクイっと持ち上げて口を開いた。
「あなたは関係ないでしょう。校則は校則です。従ってもらいます」
「じゃが、上位存在を召喚するのが不敬だということじゃが、召喚主を無碍にすることの方が、上位存在を召喚をするより、よほど不敬だと思うが?」
むぐっ、と言い詰まり、しかしまた口を開く
「寮内で召喚魔法を使った、そのことは他の寮生を危険にさらす行為です。到底許容できない違反行為です」
「...しかし今回行ったのは上位存在の召喚のはずじゃ。そのように召喚された者が、暴れるようなことはしないであろう、まして、そんなことを言い放つのは更に不敬じゃぞ」
ぐぐぐっ、と黙り込んで、しかしまた口を開いた。
「お黙りなさい貴方...サキュバスキングというのでしたか? コンも含めて貴方達のような男に媚びるような見た目をした、男に寄生するしか能のない下卑たサキュバスという種族がなんと言おうと、所詮私たちのように男性に頼らず、自立した女性と比べると、よほど下の存在ですよね? 口応えしないで従うのが吉ですよ」
あー、こいつ、サキュバスを下だと完全に見下しておるようじゃ。顔の悪さは性格の悪さじゃな。横を見るとコンが明らかにショックを受けた顔をした。これはしっかり言い返さねばなるまい。
「言い返せないから、相手の否定に入る。しょうもないのぉ」
「な、なんですって?」
「ババアが若い女、自分より性的価値のある女に嫉妬するのはみっともないぞ。自立してるのかなんなのか知らんがな、結婚も子作りもせずに、自立などと言っても、女に生まれた責任を放棄して逃げているだけではないか。そんないい年して若い子にマウントを取るしか能がないあたり、どうせ仕事もろくにできず、面倒な仕事は男に押し付け、新人イジメと自分の気に入らない奴を蹴落として昇進してきた無能なのじゃろうて」
「くぁwせdrftgyふじこlp くぁwせdrftgyふじこlp くぁwせdrftgyふじこlp」
おお、顔を真っ赤にして怒っておる、何言ってるかもわからんほど口調が荒くなっておるのじゃ。
「ふん、行くぞコン。こんなとこにいても何も学びはないのじゃ」
「あ、えぇ...」
「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」
このまま続けてもしょうもない。このババアはマウントを取って気持ちよくなりたいだけじゃ。こういうのが上に行きやすいから人間という種族はしょうもないのじゃ。
「ありがとう、本当に助かったわ」
「いいんじゃ、あんなやつ、ひとひねりじゃ」
「荷物まとめたし、ここから出て行って、どうしよう?」
「好きなことをすればいいのじゃ。行動を縛るものなぞないのだから」
「そうね、じゃあ久しぶりにダンジョンにもぐろうかしら...」
「ダンジョンか! いいのう!」
この世界のダンジョンも気になっておる。それにコンの実力も。それを見るに良い機会になるじゃろう。
寮を出ると、大きな寮の敷地が広がっていた。
「おい待てよー! 落ちこぼれが勝手に出ていこうとしてんじゃねぇよ!」
「そうだそうだ!」
「逃げんなよー!」
「ん? なんじゃお前ら」
「お前こそ誰だよ」
目の前にはヒキガエルのような男と、その取り巻きみたいなのがいる。
「妾はコンの召喚獣兼、婚約者じゃ」
「はぁ!? 召喚獣!? やっと召喚できたのかよw でも退学食らったんだから意味ねぇじゃんw しかも婚約ってw」
「うひゃひゃ、レズだったのかよw」
「だから男からの告白全部断ってたんだなw 気持ちわりいw」
「・・・・」
コンが俯いておる、コソコソと、話しかけた。
「こいつらはなんじゃ?」
「私に告ってきた男子たち」
「なんで落ちこぼれとバカにしているのに告白してうまくいくと思うんじゃこいつら」
「貴族だから高慢なのよ」
「ああ、なるほど...」
男どもに向き直る。
「なんじゃ、コンに告白されて玉砕したら、いじめに走るとは、まるで幼児じゃな」
「なんだと!」
「好き勝手言いやがって!」
「ふん、事実じゃろ?」
「っ...この野郎...あ!お前、召喚された召喚獣なんだろ!」
「ああ、そうじゃが?」
「じゃあ勝負しようぜ!」
何を言ってるんじゃコイツ
「どういうことじゃ、コン」
「えっと、退学してるからしなくてもいいんだけど、勝負って言って召喚獣同士でどっちかが倒れるまで勝負できるのよ」
「ほほー、ちなみにそれは受けることもできるんじゃな?」
「うーん...でも貴方はいいの? まだこの世界に来て力試ししてないじゃない?」
「ああ、任せるのじゃ、ここが力試しにいい機会じゃろう」
「いいぞ、かかってこい」
「俺たちの召喚獣は強力だぜ! 後悔させてやる!」
「3人でまとめてぶっつぶそうぜ!」
「おら! いけ召喚獣! この生意気な女を力でねじ伏せてやれ!」
大型のゴーレム、中型のドラゴン...ワイバーンじゃな、あとでかい花に口のついたマンイーターか。
平均高、3.5mくらいじゃ。170cmの妾より2倍ほど大きいのう。ちなみに、コンは165cm程じゃ。こう見ると結構、コンは女性にしては身長が高いのかもしれんのう。
「なあコン、こいつらは強いのか?」
「召喚獣は基本強いわよ、そうね、その中でもかなり強い方じゃないかしら」
「むぅ...」
まあ戦うまでわからんが、メンツが強力というには、いささか微妙じゃないか? こいつらがこの世界で強いモンスターなのか...?
「殴れゴーレム!」
「空から突進しろワイバーン!」
「ツルで足を絡みとれマンイーター!」
それぞれ自由に攻撃して来おる。じゃが、連携もクソもないな。
「えっと、あっ、なんて呼べばいい!? サキュバスキング!?」
「妾の仮の名はリリーじゃ! 何か指示はあるか?」
「えっと、じゃあ...リリー! えっと…うーん...ごめん、何ができるの?」
「あー…それもそうじゃな…何も見せていないものな、分からんよな妾に何ができるかなんて」
そもそもコンは、いままで召喚獣を扱ったことがないんじゃったわ。忘れておった。
「よし、コン、まずは妾が暴れるから見ておれ」
「わ、分かったわ! 気を付けてね!」
妾は握りこぶしをつくり、姿勢を低くしてゴーレムを睨みつけながら走って突撃した。
タタタタタタッ
赤いハイヒールを履いておるが、これは妾のアイデンティティーじゃ。いつも履いておるから、走っても特に問題ないのじゃ。
「ははは、狙ってる先がバレバレだぞ!行けゴーレム! 全力で潰せ!」
繰り出された拳に、拳をぶち当てる。
パァン!!!
ゴーレムの腕がパッカーンと弾けた。そのまま一気に押し込み、胸の核まで一息に貫通する。オイルがぶしゃあっと噴き出した。
「は?」
「り、リリー...?」
ワイバーンは呆気にとられた顔で必死にブレーキを掛けたものの、勢いを殺せずゆるやかに降りてきたので、跳躍して頭突きを食らわせる。
パァン!!!
頭と頭がぶつかった瞬間、ワイバーンの頭が豆腐のようにはじけ飛んだ。脳と髄がぶちまけられて吹っ飛ぶ。
「ひぃぃぃ!」
「えぇ...リリー...?」
その様子を見てひるんでしまったマンイーターの隙を突く。
高く跳んでムーンサルトで後ろに回り込み、回し蹴りを放つ。
パァン!!!
根っこで出来た脚と花で出来た顔を繋ぐ、体の形をした木のような太い茎が、真っ二つに折れて茎の破片と花弁が宙に舞い、萎れて散った。
「ひっヒイィィ!!」
「・・・・・・えぇ…」
「ただいまなのじゃ!」
「…あ…あぁ、えっと…その…お疲れリリー...」
「うむ!」
身体を振るって体液やらオイルやらを振り払った。戦いの高揚でつい笑みがこぼれてしまったのじゃ。雑魚相手でも戦いをするというのはスカっと気持ちいいのぉ!
「ひ、ひぃぃ...」
「助けて…」
「ママァ...」
相手はオイルや体液、茎片にまみれて、4つん這いになって腰を抜かしていた。
「男のくせに...情けのない...」
「いや、目の前であんなことになったらこうなると思うわよ、誰でも...」
「コンは大丈夫ではないか」
「いやまあ味方だからね、敵なら多分腰抜かすよ」
「そういうもんかのう?」
妾は首をかしげて『そういうものなのか?』と、ジェスチャーした。
「...っていうか、肉弾戦凄いね...魔法は使わないの?」
「ん? ああ、魔法も使えるぞ? じゃが、サキュバスキングは肉弾戦に特化しておるのじゃ」
「サキュバスって言えば、魔法系だと思うんだけど...」
「うーん、まあそうじゃな、そういう印象が強いのは分かるぞ、でもサキュバスキングはすべてのサキュバスを従える存在、だからこそ肉弾戦に特化したのじゃ」
「ど、どういうことなの...?」
「うんまあ…そういうものなのじゃ」
サキュバス相手に性交しまくらなければならないのがサキュバスキングじゃ、つまりその分体力が多く、たくさんの相手ができるように…つまり惚れられる為にスマートで身体能力が高くなければ...と、そういう進化をしたわけじゃ。でもそんなこと言うとさすがに引かれそうなので言わないでおくぞ。
「さ、ダンジョンに行くのじゃ!」
「わかったわ、ねえリリー...」
「なんじゃ?」
「今日はありがと...」
コンが嬉しそうにそう言ったので、妾はニカっと笑いかけて、
「コンは、妾の召喚主じゃ、どんどん頼ってくれ」
「...うん! これからよろしくね!」
「ああ! よろしくなのじゃ!」
寮の門をくぐってダンジョンのある街というのに向かったのじゃ。




