47-9 思わぬ予定外、旅の終わりで待っていた人
次なる目的地は西の連合国、あちらは小さい国々の集合体なのでそれだけ手を焼くことになりました。
あっちに飛び、こっちに飛び、挨拶して、約束を取り付けて、ちょっと強引に調停しました。
そんなことばかり繰り返していくと、もうどれがどの約束なのか俺にはわからなくなってくる……。
国の支配者って大変だわ……こんな約束全部覚え切れるわけないし、頼まれても絶対こんなのやりたくないわ。
もう大公様には頭上がらんです、こんなしちめんどくさいことを、国民の代わりにやってくれてありがとう!
そうやって連合国を西側から東側へと順番に飛び回ると、最後に俺たちはあのザルツランドにたどり着いていました。
出迎えてくれたのは、あの公城でのダンスパーティで出会ったエルムエル王子様でした。
「やあアレクサンドロス、来ると聞いていたから、こちらも呼んでおいたよ。ところでアクアトゥスとの間に子を作り、血筋を守るという約束はいつごろ果たしてくれるのかな」
この国はオールムの故郷、アクアトゥスさんのご実家でもあります。
俺にとっては鬼門でもありました。
そしてここからが問題だ……。かわいいようでかわいくない末裔エルムエル王子は、余計なことをしでかしてくれました……。
ザルツランドの王城に、俺とアトゥの兄、あのウェスタ兄さんを呼んでいたのです……。
「僕とマナ先生は陛下にご挨拶してきますね。アレクサント先生は、せっかくの故郷なんですからゆっくりされていて下さい。では……」
「殿下はお姉ちゃんに任せてっ、がんばってねアレッきゅん!」
2人には置いて行かれました……。
すぐにヨトゥンガンド家の跡取りウェスタが王子の部屋に現れて、俺は顔を上げられなくなっていた。
こちらは加害者側です。家を乗っ取ろうとして、彼に大怪我をさせたのです。
「見違えるほど大きくなったな、アレクサンドロス。ははは、どうりで、あの子が公国から戻ってこなくなるわけだ」
その相手に、どんな顔をして合えばいいんですか。
余計なことをするなよ、エルムエル王子……。
「エルムエル王子が背中を押してくれたんだ。そんなに気にしているなら、いっそ会ってしまった方がお互い楽だろうとね」
「……そういう部分も、あるかもしれないけど、こっちはそっちに合わす顔がない。ポロン公国じゃ、あの時とはキャラを変えて、いい加減でうさんくさいでたらめ男やってるんだけどさ……ウェスタにそのノリはさすがに出来ないよ」
ウェスタは今どんな顔でいるのだろう。
こんな善良な人を陰謀劇に巻き込んだ、だからリセットを望んだというのに、引き合わされてしまった。
「俺たちはグリムニールお婆様を許した。お婆様は、君の起こしたマジックに深く動揺し、生き方を変え、まんまと君の計略通りとなった。彼女を白に変えたのは、自らを釜に溶かすという勇気を示した君の手柄だ。なぜ俺が君を恨む必要がある、アレクサンドロス、また会えて嬉しい、お前は、俺の自慢の弟だ」
何てお人好しなんでしょう。
それに俺をまだ弟だと思っている。死の寸前まで追いやったのに。
「何か言ってくれ。君のおかげで俺もアトゥも、お婆様も救われた。もしかしたらノトのやつもそこに含まれるかもしれないな。ありがとう、ずっと君にお礼が言いたかった」
「嘘だろ、俺たちを恨んでいないの? それって、お人好しが過ぎるでしょ……」
「死ぬはずだったアトゥが救われた、その事実だけでも十分だ。あの子が、公国で幸せにやってくれている、立つことすら出来なかったあの子があんなに立派に……たくさん友達まで作って……。この幸せは間違いなくお前のおかげだろう?」
困りました……。俺は許されたくなかったのかもしれない。
過去に起きたこと全部から、ただ逃げていたかっただけです。
だからこそ、俺は悪い錬金術師の手先である自分を消して、やり直すことにしたのに。
「ザルツランドはお前の故郷でもある、いつでも我が家に帰ってきてくれ。父上と母上は……まあ昔よりまだマシになった。相変わらず、始祖オールオールムの血を欲しているがな」
ウェスタがこっちに来る。
「っ……?!」
長男ウェスタが俺の肩を抱き込み、強引にも弟の顔を上げさせた。
彼の顔すら忘れかけていたことに気づく。
「なんか、老けたな、ウェスタ……」
「さすがにな、俺もそろそろ曲がり角だ。お前はいい男になったな。アトゥとの間の子供が楽しみだ。……ああ、冗談だ」
一度見てしまえば怖くない、彼の抱擁から離れて顔と顔を向け合いました。
マジで老けた、知らないうちに。
「いや今の目、本気だったろ!」
「はいちょっと失礼。それは当然だろう、その血を絶やすことだけはいただけない。まずは1人だけでもいいから残しておいてくれよ、頼むよ!」
それも2人の狙いだったんだろうな、エルムエル王子が口を挟んできました。
コイツ、こればっかです……。
「あーー……ならいっそ、ホムンクルスとしてちっちゃいの作る? あ、やっぱだめだ、そんな種馬みたいなの作ったらろくなことにならねー」
ウェスタがアゴに手を当てて思慮しました。
いや冗談のつもりだったんで、そんな深々と考えられると困るー。
「やってみる価値はあるんじゃないか、錬金術師の一人として興味がある」
「真顔かよっ!」
「もうそれで良いから作ってよ、頼むよ、国内のもろもろがさ、錬金術師でしか作れないパーツに頼ってたりしててね、途絶えると困るんだよ……」
もし作れば子作り指令から逃れられます。
ただし人道とかそーいうのにメチャ反する。結果がどうなるかもわかりません。
……魔剣俺を作っておいてそこはなんだけど。
あ、いっそアトゥとの子供を、錬金釜で作るというのはどうでしょうか。
うーんなるほど、男としてダメ過ぎるなソイツ。本格的にホモ扱いされかねないわ……。
「考えておいてくれ、自慢の弟よ。それとアトゥを幸せにしてやってくれ」
「うん、それも出来るだけ早くね。ダメなら外交問題にしてあげてもいいからね?」
「ぇぇ……。幸せってなんだっけ……幸せって、人の数だけあるものだと俺は思うよ……?」
「ならば錬金術師として、錬金釜でどうにかしてみせてくれ。錬金術師の血族さえ守れれば、父上らは満足する」
「方法は何だっていいよ。お願いだよ、ポロン公国だけでなくザルツランドにも未来をくれよ」
だからどうしろと……。
これ以上俺のコピーを作るとか収拾つかんし……。
・
マハ殿下との旅はこうして終わりました。
古なる者は、俺の知らないところで1体活動不能になっていました。
ウェスタは俺を許してくれました。
杖を犠牲にすることになりましたが、キングエレメントの石核も手には入りました。
結果だけみればまあ、上出来かもしれません……。
外堀めっちゃ埋めら込まれた気もしますけど。
けど……けど許されて、心が楽になったのは事実でした。
ウェスタ兄さんにだけ、たまに会いに行くのもいいかもしれないな……。
その時はアルフレッドのやつでも拉致って、ここの連中を紹介してやろう。
秘密にしてたけど、これが俺の自慢の兄だと。




