41-11 一時帰宅から始まる追走劇、アトリエに集結する人々
ヘロヘロのレウラに無理をさせて俺は錬金術師のアトリエに帰宅しました。
当然ながら敵の待ち伏せがありましたがそれを排除して、俺はアトリエに残していた、とあるお目当ての素材を回収したのです 。
コレと、迷宮の作用を重ね合わせれば――もしかしたら相手の裏をかけるかもしれません。
「邪魔するぜっ店主!」
「おう坊主! こんな状況で戻ってくるたぁ豪気でいいじゃねぇかっ!」
今は非常事態です。
こりゃ何事か早くも敵増援襲来かと思いきや、店の方に馴染みの顔ぶれが現れていました。
職人街の鍛冶師連中と、酒臭い冒険者たちが閉店中のアトリエに勝手に入ってきて、なんかポーションもろもろを木箱ごと持っていこうとしてます。
「その店主の前でいきなり堂々と万引きとか、戦時中様々だね。ま、判断としては間違ってないけど」
「悪ぃな! どっちにしろここが落ちればムダになるやつだろ!」
「おうケチケチすんなよ坊主! この薬で救われる命もあるじゃねぇの!」
彼らの誰もがくたびれ、傷ついていました。どうやらこの連中もまた侵略者たちとの戦いに明け暮れているらしい。
城を包囲される劣勢だというのに逃げずにその命をかけてくれていました。
そんな彼らを見捨てるような計画をした自分がちょっとだけ恥ずかしく――はならないや。俺のせいじゃないし?
「それもそうだ、じゃ好きなだけもっていきなよ。ほらこれ倉庫の鍵、ポーション以外に手を付けないって約束するなら貸すよ。帰るときはちゃんと閉めてね」
「おいおい……いつもがめつい店主らしくもねぇな! あ、なら酒はねぇのか? ありゃ麻酔にもなるからな、必要物資だわ!」
冒険者の方はいつものあの常連客です。ポーションと酒を割って飲むと美味いとか言ってのけたあの人たち。
その酒臭いリーダーに倉庫の鍵を投げ渡しときました。こうなっちまったもんはしょうがないです。
職人街のご近所さんも、この冒険者たちも俺の顧客なんですからここで失うわけにはいきません。死なれると将来的に赤字だから放出します。
「そんなのないから安心していいよ。ああそうだ、せっかくだしこれからのことを伝えておくよ。数日以内にヒルデガルドからの援軍が来る。ああ敵の援軍じゃないよ、皇帝陛下自らが俺たちを助けに来てくれるんだ。到着は最低で3日はかかる」
「おい坊主ッ、そ、そりゃマジか?! サラッとバカでけぇこと言いやがってこの小僧ッ、マジかよ!!」
「ていうかどういうことだよ!? ヒルデガルドは敵だろがおい店主、説明だ!」
その返答は予測してました。
その言葉を言ったのはお前で100人目だ、ってくらい耳たこですし。
「今攻め寄せて来てるのは向こうの反乱軍、だから皇帝自らが落とし前を付けに来るんだ。それよりもっと大事な話ね、大公様のお城がもう限界でね、陥ちそうなんだ。だから奥の手を使うことにした」
城を迷宮に変えて、その迷宮へとやつらを招き入れます。
そうして待望の援軍が到着するそのときまで、俺たちは俺たちの迷宮を盾にして注意を引き付けながら耐えしのぐ。
あわよくば敵のクイーン、あるいは幹部クラスを捕獲して、本体の居場所を吐かせておく算段です。
「なんだそりゃっ、一大事じゃねぇかよ坊主っ!」
「ああ援軍来るのはありがてぇけどよっ、大公様が死んじまうのはコレいただけねぇぜ!?」
「大丈夫、奥の手を使うって言ったでしょ。むしろ逆ね、城周辺が赤い霧に包まれることになるけど、心配しないで自分たちの持ち場を守って欲しい。救援もいらない、俺たちは迷宮を城壁にする計画を立てたんだ」
向こうの魔剣俺がどこまでがんばれるかによるけど、ダメだったよ、なんて許されんので死ぬ気でやってもらうしかないです。
こっちの俺の方が遙かに危険な橋渡るんですし。
「赤い霧ってゆーと……この前の異界化事件を思い出すな。へぇぇ、なるほどな」
「外からも中からも都を行き来出来なくなっちまったやつだな、おうわかった! 援軍が来るまでこっちはこっちで好きに小競り合いしてりゃいいってことだな!」
ま、そういうことです。
彼らにうなづいて俺はしばらくポーションの運搬を手伝いました。
外に出ていったらきっと狙われます、時期がくるまで店内で待機が無難でした。
「兄貴ィッ、城が……! ホントに城が赤い霧に包まれてく!」
「うはっマジかよ!? うおっうひょぉーっ、こりゃすげぇヒハハハーッ、ぶったまげたぜーッ!」
「おいアレックス坊主、こっちのインゴッドはいただいていいのかぁ?」
ポーションだけって言ったのにダリルんとこの親方のめざといこと、倉庫の方から意気揚々とした大声が響きました。
「それおたくらに売り込もうとしてたやつなんだけどな。まあいいよ、それも必要なら持ってけばいいさ、普通に大赤字だけどね」
「普段儲けてるんだから堅いこと言うなって! ダリルの旦那なら坊主は俺の婿養子みてぇなもんだろが!」
それどんな理屈だよ親方……。
そうこうしているうちに公城が赤い霧に厚く包まれたのを見届けました。
まずは一安心、迷宮化作戦が成功したってことです。
よくやった魔剣俺、今でも屑鉄に戻したい気持ちもだいぶあるけど、それでもお前作っておいて良かったや。
ってあれ? 店の外から何か物音が……まさか敵か?
そうはならないように、討ち漏らしに気をつけたはずなんだけどな。
「おいお前ら何だよ?! ここは兄貴と親方が目をつけたんだっ、あっちいけってば!」
何だろう。身を隠しながら店の外をこそこそうかがうと、そこに別の冒険者の一団を発見しました。
あれ、でもなんかこの一団もどこかで見覚えがあるような……。
「そっちこそなんだ! 店主のアレクサントさんはいるか!?」
「ああ、その姿は確か、えーと……そう、トマスさん。ようこそ当店へおいで下さいました、まさかこんな非常事態下で会えるなんて思いませんでしたよ」
思い出しました、以前騙されて迷宮に閉じこめられていた、あの冒険者たちです。
さすがに全部ではないですけど、そのリーダー格のトマスさんが冒険者たちを束ねてうちのアトリエ前に陣取ってました。
「覚えていてくれたか、久しぶりだな! さあ見ての通りだ、俺たちはこの前の恩を返しに来た。何か手伝えることがあったら遠慮なく言ってくれ」
「なんでぇ知り合いかよ! よっしゃなら俺たちと合流しなっ、見たところこっちに来たばかりだろ、装備が汚れてねぇから何となくわかるぜ」
彼らは公都ではなく西部を拠点にする冒険者たちです。
どうやら軍人でもないのに義理堅くも援軍に来てくれたようでした。
「じゃあここをお願い、この酒臭い人と一緒に職人街を守ってくれると嬉しい。これ以上うちのアトリエ荒らされるのはたまんないしね。現在進行形に荒らしてるのが、そこの酔っぱらいどもと鍛冶師ってのが、まー複雑なとこだけど」
「わかった! 必ずこの街を守り抜こう! 失われるはずだったこの命をかけてだ!」
「いやそこはもっとゆるく、ゆるーくお願い、ヤバイと思ったらぶっちゃけ逃げてもいいし。援軍来るまでのらりくらりでいこうよ。じゃ、そういうことだからあとの説明お願いね」
来てくれたのはすごく嬉しい。ご近所さんに被害が出たら鬱になるし。
だけど俺はもう動かなければなりません、アトリエの軒先から裏口目指して頼もしい一団に背を向けました。
「なっ、この状況でどこへ行くというのだ!?」
「うん、ちょっと城まで。……囮になってくるよ、自己犠牲とかガラじゃないんだけど、まあこのへんが落としどころだし? 俺が最適任なんだから困る、レウラ!」
庭に来るとレウラがグッタリと地にへばっていました。
そのレウラに、在庫の進化の秘石と、あと同じく保管しておいた宝石類を与えちゃいます。
はい消えた、この戦いでどれだけの赤字出してしまったのやら。
「キュゥゥ……キュルルルルル……」
「悪いけど今日最後のひと仕事を頼むよ。公城城門前に俺を運べ」
そこんところはもう何も考えないことにしていました。




