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41-10 お願い、異界かして

 そうこうして、わりとあっさりと最深部に到達していました。

 俺が生み出される前に起きたことなので、ここは覚えています。マハカーラ・アバロンの墓前に俺たちは立ちました。


「こちらが初代アバロン大公のお墓です。500年ほど前に独立戦争を起こし、僕らのポロン公国を生み出しました立派なお方です」

「うふふ~、先生ちょっぴり感慨だわ。女神様には悪いけど、1人の国民としてこれはきっちりお参りしておかないとね」


 マナ先生が両手を組んで膝を突きました。

 だけどそんなことしてる暇ないよ、俺は話の腰をへし折ることにします。


「へー、だけどこの棺、空だよ」

「えっ?! な、嘘っ、ていうか何で知ってるっスかっ?!」

「あらぁー、そうなのー?」


 マハくんがちょっと難しい顔をしていました。

 裏表無いやさしい子なのでただ単に困っていたとも言えます。


「あの、先生……そのことは内密にして下さいって、言ったじゃないですか……」

「あれそうだっけ? だけどほら、俺は俺で、アイツはアイツだから約束してないとも言う」

「ムチャクチャな屁理屈を言うな……。申し訳ありません殿下、後で本体ともども、きつく叱っておきますので……っ」


 いいえ俺のアイデンティティからすればそこ大事ですよ。

 俺は俺であってアイツではない、そういうことにしておかないと人格形成の上でまずいのです。あと、うん、立場も。

 アイツが稼いだヘイトを何で別俺がかぶらなきゃいけないんですか。やなこった。


「とにかくマハカーラ・アバロンは、死ぬ直前にいかさまをして消えたみたいだ。だからこの棺は空なんだよ」

「興味深いが今回の目的は迷宮管理者だ、この場所で間違いないのだな?」

「あ、はい、以前出会ったのはこの場所です。父上に聞いた通りの、とても不思議な女の子でした」


 アルフレッドが公子殿下にうなづきました。

 それから軽く上を見上げ、深く息を吸い込みます。


「現れろ迷宮の番人よ!! 俺たちに力を貸してくれ!!」


 ……シーン。はい空振りです、いくら待っても返事はありません。

 おかげでアルブネア子爵殿は焦りを気むずかしくその顔に出しましたとさ。


「先輩がやってみるっスよ」

「えー、これでもし現れなかったら超寒くね? つーか痛くね? もう言っちまった誰かさんみたいな寒~いのも隣にいるしさー」

「いいから早くしろ、うつ剣!」

「アレッキュン! お城が陥落しちゃう前にどうかお願い、急いで! お姉ちゃんももうふざけるの止めるわ、だからお願いよ!」


 マナ先生がそこまで言うならしょうがない、アルフレッドの暴言はスルーしましょう。

 アシュリーがお膳立てというか、俺を高々とマハカーラの墓前に掲げてくれました。

 あ、ここで、おならぷ~とか言ったら面白いかな? ダメ、許されない?


「……迷宮管理者よ、こんななりだけど俺だ、アレクサントだ。実は今、もの凄~くまずいことになっている。下手すればこの国は独立を保てなくなる。つまりアバロン大公家が滅びるってことだ。さらにはここが古なる者の王朝になり果てるだろう、まさに最悪の状況だ。……頼むから、姿を現してくれ、ポロン公国が滅びるぞ。……とにかく早く出てきてお願い今ヤバ過ぎッ!!」


 これで出てきてくれなかったら俺はアルフレッド以上にお寒い。

 ついつい感情を込めて俺は願っていました。

 ヤツが考えた奇策、これが上手くいかなかったら全滅です。アシュリーとこの先楽しくやってけなくなっちゃいます。

 それはイヤだ、俺は絶対に、この冒険者の楽園を守り抜くのです。正直なところ俺、本体と違って復讐とかどうでもいいと思ってる。


「やったっス!」

「あら不思議~、魔法みたい♪」

「来たか!」


 なんて事でしょう、あっさり願いが通じました。

 迷宮管理者、あの不思議な少女が棺の上に現れ、キョロキョロと周囲を見回していました。

 アルフレッドその他もろもろは眼中に入っていないのか、お構いなしにまだ視線をさまよわせています。


「ここだ、ここだよ、ほらここだって、これが俺、この剣が俺だって」

「……あ」


 彼女、迷宮管理者は喋る剣にだけ興味を示しました。

 俺の目前まで下りてきて、不思議そうに我が刀身を眺めます。


「何だ、こんなところにいたんだね。フ……ずいぶん、ちっぽけなったものだね、恐ろしい鍵よ」

「そっちは相変わらずの不思議ちゃんだなー。じゃ、取り急ぎ用件を言うよ、今すぐこの公城だけを異界化させてくれ、それから外にもう1人の、お前の知る生身のアレクサントがいる。って、ちょっ?!」


 その迷宮管理者様ですが、大事な話してるのに宙に浮いたまま、両足で俺の刀身を白羽取りしました。

 アシュリーが手放すとその場でクルンとバクテンして俺をキャッチし直し、それから足先で俺を垂直に立てて遊び始めました。


「お前話聞いてるっ?!」

「……うん?」


「だからさ! 城だけ異界化させて! そんで外にもう1人の俺がいるの! ソイツは市民を守るためのバカな囮だから! ヤツが敵を連れて城に戻って来るからさっ、その進路に迷宮への入り口を作ってくれ! 出来るよなっ、出来ないと困るから出来るって言って!」


 管理者さんですが、しばらく返答を返してくれませんでした。

 ぼんやり上の空になって何かを考えていたようにも見えたのですが、俺をバランス遊びのオモチャにするのは止めません。


「あのっ、僕からもお願いします! 僕の名前はマハっ、次期大公としてこの国を守る義務があるんです!」

「あ……」


 少女がマハくんに目を向けました。

 ハッと今さら現実を思い出した、ってご様子です。


「自分からもお願いっス! ヤバいっス、メチャクチャヤバっス! マジで全滅しかねない状況なんでお願いっス、みんな死ぬ前にどうにかして欲しいっスよぉ!!」

「俺からも頼む、どうか俺たちに力を貸してくれ! こんな理不尽な形で敗北するなど、到底納得できん!!」

「そうね。ルルド教の3賢者様の予測では、ここで公国が滅亡すれば暗黒時代というものが始まるそうですよ。この世界からいずれ、迷宮が、消えてしまうと……」


 子供としか見えない管理者の前に、彼らはひざまずきました。

 命と誇りと未来がかかってるんで、あと俺とは違ってシリアスが出来る連中なので必死でした。


「うん、外に来てるね。人間の、新しい進化の形……迷宮が、眠りを保つには、きっと、不都合な存在……。クスッ……眠れる者は強く賢い個体を好む、だからこその迷宮なんだ。アレと、僕らは、あい入れないかな……。群れは別に、欲しくない」


 いわば俺たちは海底火山に住み着く微生物です。

 その火山が活動をもし止めれば、もう生活すら立ちゆかなくなります。

 この大陸中央高地という、眠れる者が生み出した幻の大地は絶対に消えてはならないのです。


「わかった、やってみるよ。うん、入場制限は……500くらいになると思う。さあ始めるよ」

「ホントっスか?!」

「良かったっ、ありがとうございます管理者様!」

「しかし500人制限とは驚愕だ、凄まじい数字だな……」


 しばらく少女は動かなくなりました。

 ええ死んだように硬直して微動だにしなくなったんです。

 目開いたまんまだから不気味、不気味、ちょー不気味。これ確実に人外です、思い知らされました。


「あらあら不思議、うふふふふ……」

「な、何すかこれっ?! 部屋がなんか光ってるっス!」


 それから部屋全体に赤色のラインが走り出し、さらに強く輝き出しました。

 ……ま、すぐに止んじゃったんですけどね。拍子抜けするほどあっさり。


「出来たよ。ア・ポロンの城を、迷宮の中に飲み込んだ。あとは、どうすればいいんだい、恐ろしい鍵よ、クスクスッ、その姿も悪くない」

「あー、管理者さんは外側の動向見えたりすんの?」


「もちろん。そうでなければ、管理者にはならないよ」

「ならヒルデガルド側からの援軍が現れたそのタイミングで、城の迷宮化を解除してほしい。そしたら大反撃だ、敵にこの侵略戦争の落とし前をつけさせる」


 うーんなんか戦記っぽいことしてる感じ。

 ま実際、命かかってるんでがんばるしかないです。

 さあこっちは片付いたぞ、せいぜい囮役をがんばれ俺。お前が引き起こした事態だし、ちょっとは責任取るふりくらいすればいいよ。


「健闘を祈るよ。あ、もう、外で始まってたみたいだ。これは、フフフ……人間は、不思議だね。見飽きないよ」


 あとついでに古なる者とその群れに見せてやるといい。

 自分たちが攻め込んだ国が、どんな魔境に存在していたのか、その身をもって。


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