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ただの高校生だった俺は、異世界召喚で空間を斬る最強になったのに、帰ってみたら幼馴染が王家の姫になっていた  作者: NOVENG MUSiQ
第3章 赤い空の機械世界と銀色の心臓

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第72話:R-00を起こしてはならない

 金色の髪を持つ指揮官機。


 彼女は、仲間が次々と停止していく間も、ほとんど表情を変えなかった。


 ただ、静かに槍を構えている。


 俺は剣を構える。


 シルヴェリアは銃口を上げる。


 オーレリアの金色の瞳が、シルヴェリアを見た。


 オーレリア「R-02。あなたは、私達の中で最も人間に近づいた欠陥機でした」


 その言葉に、シルヴェリアが小さく息を呑む。


 オーレリア「だから、恐れられた。だから、疑われた。だから、私達はまとめて廃棄された」


 愛斗「それが真実なのか」


 オーレリア「真実など、記録する者の権限次第です」


 愛斗「答えになってない」


 オーレリア「答えを得る権限は、あなたにはありません」


 オーレリアの槍が光る。


 金色の線が、ドーム内を走った。


 天井の針。


 床の制御。


 停止した姉妹たちの残存回路。


 その全てを、オーレリアが最後の一撃へ集めている。


 指揮官機。


 彼女は、自分だけでなく、この場の全てを武器にしようとしていた。


 愛斗「シルヴェリア!」


 シルヴェリア「はい」


 俺たちは同時に動いた。


 俺が前へ出る。


 オーレリアの槍が、俺の首元へ向かう。


 避けられない。


 でも、避ける必要はなかった。


 シルヴェリアの銃口が、槍の柄を捉えている。


 オーレリアは淡々と言った。


 オーレリア「あなたは、いつも中途半端でしたね」


 シルヴェリアの指が震える。


 それでも、撃った。


 銃声。


 銀色の弾丸が、オーレリアの槍の柄を撃ち抜く。


 金色の槍が砕け、光が散る。


 同時に、俺の剣がオーレリアの胸部制御核の手前で止まった。


 壊さない。


 でも、止める。


 【光断一閃】が、制御核へ繋がる空間の線だけを断つ。


 オーレリアの身体が、静かに傾いた。


 彼女は膝をつく。


 金色の瞳の光が、少しずつ弱くなっていく。


 ドームの中に、静寂が戻った。


 俺は剣を下ろす。


 その瞬間、肩の痛みが一気に全身へ広がった。


 膝が揺れる。


 瑠香が駆け寄ってくるのが見えた。


 でも、俺は先にオーレリアへ近づいた。


 彼女はまだ、完全には停止していない。


 金色の瞳が、薄く俺を見ていた。


 愛斗「シルヴェリアは、何をしたんだ」


 オーレリアは、ほんの少しだけ口元を動かした。


 笑ったのかもしれない。


 皮肉だったのかもしれない。


 オーレリア「R-02は、私達の中で最も人間に近づいた欠陥機でした」


 愛斗「人間に近づいたことが、罪なのか」


 オーレリア「この世界では、制御できないものは罪です」


 その言葉が、胸に刺さった。


 制御できないもの。


 命令だけで動かないもの。


 自分で考え、迷い、選ぶもの。


 シルヴェリアは、それに近づいた。


 だから危険とされた。


 だから疑われた。


 だから、R.I.A.シリーズごと捨てられた。


 オーレリアはシルヴェリアを見た。


 その瞳から、冷たさが少しだけ抜けていた。


 オーレリア「あなたは、私達の失敗であり、希望だったのかもしれません」


 シルヴェリアの銀色の瞳が揺れる。


 オーレリア「けれど、もう遅い」


 シルヴェリア「オーレリア……」


 オーレリアの声が、かすかに低くなる。


 それは、命令でも断罪でもなかった。


 最後の警告だった。


 オーレリア「……R-00を、起こしてはなりません」


 R-00。


 アクロリア。


 ログの奥に凍結されていた名前。


 俺は息を呑む。


 愛斗「R-00って何なんだ」


 オーレリアは答えない。


 いや、答えるだけの力がもう残っていなかった。


 金色の瞳の光が、ゆっくり薄れていく。


 最後に、彼女はシルヴェリアを見た。


 オーレリア「R-02。あなたは……」


 言葉は、そこで途切れた。


 光が消える。


 オーレリアの身体が、ただの機械のように沈黙した。


 シルヴェリアは、彼女の前に立ち尽くしていた。


 停止した姉妹たち。


 オーレリア。


 キュプリア。


 ブランシェリア。


 オニキリア。


 カルミリア。


 ヴィオレリア。


 全員が、もう動かない。


 壊したのではない。


 そう言いたかった。


 止めただけだ。


 機能を停止させただけだ。


 でも、シルヴェリアにとって、それがどれほど違うことなのかは分からない。


 彼女は、自分の手で家族を止めた。


 それは、どんな言葉で飾っても変わらない事実だった。


 シルヴェリア「……オーレリア」


 淡い銀色の瞳から、透明な液体が流れた。


 一筋。


 そして、もう一筋。


 彼女は自分の頬に触れる。


 シルヴェリア「異常液漏れを確認」


 愛斗「違う」


 俺は、痛む肩を押さえながら彼女のそばに立つ。


 愛斗「それは、たぶん涙だ」


 シルヴェリア「涙」


 彼女はその言葉を繰り返す。


 シルヴェリア「涙とは、目から分泌される液体反応では」


 愛斗「それだけじゃない」


 シルヴェリアは胸に手を当てる。


 そこには、まだ光があった。


 弱く、規則的に。


 けれど、さっきより少し不安定に揺れている。


 シルヴェリア「ここが……破損しているようです」


 愛斗「破損じゃない」


 シルヴェリア「では、何でしょうか」


 俺はすぐには答えられなかった。


 瑠香が近づいてくる。


 アズも、ネリュアも。


 瑠香はシルヴェリアを見て、少しだけ唇を噛んだ。


 そして、静かに言う。


 瑠香「悲しいんだと思う」


 シルヴェリア「悲しい」


 瑠香「うん。大切なものを失った時とか、守りたかったのに守れなかった時とか、そういう時に痛くなるやつ」


 シルヴェリアは胸を押さえたまま、停止した姉妹たちを見る。


 シルヴェリア「これは、悲しい、なのですか」


 ネリュアが静かに頷く。


 ネリュア「お主の心の芽が、痛みを知ったのじゃ」


 アズが小さく呟く。


 アズ「……シルヴェリア、泣いてる」


 シルヴェリアは、また頬に触れた。


 透明な液体が指先に残る。


 彼女はそれを不思議そうに見つめた。


 泣いている。


 けれど、泣き方を知らない。


 悲しい。


 けれど、悲しみ方を知らない。


 その姿が、痛かった。


 俺はシルヴェリアの手を握る。


 冷たい手。


 でも、握り返す力はあった。


 愛斗「お前は間違ってない」


 シルヴェリアは俺を見る。


 愛斗「お前は選んだ。俺たちを守ることも、家族をこれ以上壊させないことも。どっちも、お前が決めたんだ」


 シルヴェリア「わたくしが、決めた」


 愛斗「ああ」


 シルヴェリアの瞳が揺れる。


 オーレリアの言葉が、俺の頭にも残っていた。


 最も人間に近づいた欠陥機。


 制御できないものは罪。


 この世界では、それが危険とされたのかもしれない。


 でも、俺はそう思わない。


 愛斗「人間に近づくことが悪いなんて、俺は思わない」


 シルヴェリア「わたくしは、人間に近いのですか」


 愛斗「少なくとも、泣けるくらいには」


 シルヴェリアは、目を伏せた。


 その頬に、また透明な液体が流れた。


 瑠香が、ゆっくり近づく。


 いつものように騒がない。


 茶化さない。


 ただ、シルヴェリアのそばに立つ。


 瑠香「……ごめんね。あなたの家族を」


 シルヴェリアは首を振る。


 シルヴェリア「いいえ。わたくしが、選びました」


 瑠香「でも、痛いよね」


 シルヴェリア「はい。ここが、痛いです」


 彼女は胸を押さえた。


 アズが、そっとシルヴェリアの服の裾をつまむ。


 アズ「……ひとりじゃ、ない」


 シルヴェリアの視線が、アズへ向く。


 アズは少しだけ俯きながら、続けた。


 アズ「……たぶん、ひとりだと、もっと痛い」


 シルヴェリア「アズは、痛みを知っているのですか」


 アズは小さく頷いた。


 それ以上は言わなかった。


 でも、その一言だけで十分だった。


 ネリュアが静かに息を吐く。


 ネリュア「心とは、厄介で、美しいものじゃ」


 シルヴェリア「厄介で、美しい」


 ネリュア「そうじゃ。痛みも、温もりも、同じ場所から芽吹く」


 シルヴェリアは、自分の胸に手を当てたまま、しばらく黙っていた。


 ドームの中には、静けさが戻っている。


 だが、それは最初の静けさとは違った。


 眠っていた静けさではない。


 戦いが終わった後の、重い静けさだった。


 端末画面には、まだいくつもの警告が残っている。


『R.I.A.シリーズ、機能停止』


『旧命令系統、断絶』


『R-00、凍結継続』


『閲覧権限、不足』


 R-00。


 アクロリア。


 オーレリアの最後の警告が、消えずに残っている。


 起こしてはならない。


 その言葉の意味は、まだ分からない。


 けれど、分からないまま放っておけるほど軽いものではなかった。


 俺はシルヴェリアの手を握ったまま、端末を見た。


 肩の傷が痛む。


 足元が少し揺れる。


 でも、まだ倒れるわけにはいかない。


 このドームには、まだ終わっていないものがある。


 シルヴェリアの過去。


 R.I.A.シリーズの真実。


 R-00の警告。


 そして、この世界がなぜ人間を失ったのか。


 それらの一部が、ここに眠っている。


 シルヴェリアが、俺たちを見る。


 もう、俺を「ご主人様」とは呼ばなかった。


 俺たちを「任務対象」とも言わなかった。


 彼女は、少しだけ時間をかけて言葉を選ぶ。


 シルヴェリア「わたくしは、あなたたちと共に在りたいです」


 それは、機械の命令文ではなかった。


 任務ログでもない。


 彼女自身の言葉だった。


 俺は頷く。


 愛斗「なら、一緒に行こう」


 シルヴェリア「はい」


 彼女は静かに頷いた。


 淡い銀色の瞳には、まだ涙が残っている。


 それでも、その奥の光は消えていなかった。


 ドームの外では、赤い空が変わらず広がっている。


 二つの月が、廃棄処分場を冷たく照らしている。


 けれど、俺たちの間には、確かに温度があった。


 まだ、この世界のことは分からない。


 シルヴェリアの過去も、R-00の正体も、何も分かっていない。


 それでも、ひとつだけ分かったことがある。


 彼女はもう、廃棄された兵器ではない。


 俺たちと共に歩く、仲間だ。

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