第68話:守られた涙
カルミリアの姿勢が崩れる。
カルミリア「この……!」
オーレリアの眉が、初めてわずかに動いた。
オーレリア「R-02。あなたは、私達に銃を向けるのですね」
シルヴェリア「……わたくしは、愛斗たちを守ります」
オーレリア「その者たちは、あなたの何ですか」
シルヴェリアは答えに詰まった。
仲間。
そう言えばいい。
けれど、その言葉はまだ彼女の中で新しい。
命令でも所有でも任務でもない関係。
選ぶもの。
その意味を、まだ完全には掴めていない。
それでも、彼女は言った。
シルヴェリア「仲間、です」
ドームの空気が、わずかに変わった。
オーレリアの瞳が細くなる。
カルミリアが怒りで顔を歪める。
キュプリアが薄く笑う。
ヴィオレリアの紫の光が揺れる。
ブランシェリアは黙ったまま、照準を移す。
オニキリアの影が深くなる。
オーレリア「そう。では、あなたは二度目の裏切りを選ぶのですね」
シルヴェリアの表情が凍る。
愛斗「違うだろ」
俺は、オーレリアを見る。
愛斗「シルヴェリアは何をした。答えろ。お前たちは、シルヴェリアを責めるだけで、何も言ってない」
オーレリアは答えない。
答えの代わりに、槍を構えた。
愛斗「答えろよ。シルヴェリアは何をした!」
オーレリア「あなたに答える義理はありません」
その瞬間、攻撃が一斉に来た。
オーレリアの槍が空間を裂く。
天井から光の針が降り注ぐ。
ブランシェリアの弾が、俺の首筋を掠める。
カルミリアの炎が、瑠香の近くで爆ぜる。
キュプリアの罠が床を走る。
オニキリアの刃が影から突き出る。
ヴィオレリアの笑みが、空間をぐにゃりと歪める。
俺は動いた。
【光断一閃】を連続で放つ。
空間の継ぎ目を斬り、針の軌道を逸らし、罠の線を断ち、炎の刃を受け流す。
肩が痛い。
息が苦しい。
でも止まれない。
シルヴェリアも撃った。
彼女は、家族を撃っている。
最も恐れていたことを。
でも、それが唯一、今を守る方法だった。
カルミリアが、壊れた脚でなお迫る。
カルミリア「お前は、もうR.I.A.じゃない!」
シルヴェリアの銃弾が、カルミリアの肩を撃つ。
それでもカルミリアは止まらない。
炎の刃が唸る。
シルヴェリアが、わずかに後退する。
その時、アズが床の光に気づいた。
アズ「……そこ、あやしい」
カプセルの台座。
その下に、制御装置らしき光がある。
キュプリアの罠とも、再起動シーケンスとも違う。
何かが、そこからR.I.A.たちへ流れている。
旧命令系統。
さっき表示された言葉が頭をよぎる。
愛斗「アズ、壊せるか!」
アズは頷く。
小剣を構えて、台座へ走った。
シルヴェリアも、その流れに気づいたのだろう。
銃口を制御装置へ向ける。
だが、その瞬間、オーレリアが初めて声を荒げた。
オーレリア「待ちなさい!」
シルヴェリアの指が、引き金にかかる。
けれど、撃てなかった。
彼女の瞳が大きく揺れる。
何かを思い出しかけたのかもしれない。
あるいは、そこを壊せば姉妹たちを止めるだけでは済まないと、直感したのかもしれない。
シルヴェリア「……ここは」
愛斗「シルヴェリア!」
その一瞬の迷い。
カルミリアが、逃さなかった。
赤い影が踏み込む。
炎の刃が、シルヴェリアの腹部を貫いた。
金属が金属を裂く音がした。
黒い服の腹部が裂ける。
赤い血ではない。
銀色の液体と、細い光の粒が滲み出す。
シルヴェリアの身体が、びくりと震えた。
カルミリアが笑う。
カルミリア「やっぱり、お前は甘いな」
愛斗「シルヴェリア!」
俺は飛び込んだ。
剣を振る。
カルミリアの腕を斬り飛ばすまではできなかった。
だが、炎の刃の根元を弾き、シルヴェリアから引き剥がす。
瑠香の【光衝弾】がカルミリアを押し返した。
シルヴェリアが倒れる。
俺は彼女を抱き止めた。
冷たい。
けれど、胸の奥の光は消えていない。
シルヴェリアの銀色の瞳が、俺を見る。
シルヴェリア「……愛斗」
その声に答えようとした瞬間。
背後から、赤い光が走った。
カルミリアの切り離された刃が、ワイヤーに引かれるように飛んできた。
狙いはシルヴェリア。
俺は考えるより先に、彼女を押し出した。
自分の身体を、盾にする。
刃が、俺の肩を裂いた。
さっき傷ついた場所の近くを、さらに深く。
痛みが爆ぜた。
視界が揺れる。
膝が落ちる。
瑠香の叫びが聞こえた。
シルヴェリアの目が、大きく見開かれる。
俺は無理やり笑った。
愛斗「……お前は、守られたんだ」
シルヴェリアの瞳が揺れる。
淡い銀色の瞳から、透明な液体が一筋、こぼれた。
涙。
そう呼んでいいのかは分からない。
彼女の体内から流れた冷却液かもしれない。
損傷による漏出液かもしれない。
でも、その時の俺には。
それは、涙に見えた。




