第66話:答えのない攻撃
R.I.A.シリーズ。
偵察、潜入、暗殺。
その意味を、俺は今になって嫌というほど理解した。
六人全員が、役割を持っている。
指揮。
罠。
狙撃。
隠密。
近接火力。
電子干渉。
そして、それらが迷いなく繋がっている。
人間のチームではない。
ひとつのシステムだ。
カルミリアの炎の刃が、ついに振り下ろされた。
シルヴェリアは、まだ動けない。
愛斗「くそっ!」
俺は走った。
間に合わないと分かっていても、身体が勝手に動いた。
シルヴェリアを庇うように前へ出る。
炎の刃が俺の肩を掠めた。
熱い。
皮膚が裂け、焼けるような痛みが走る。
視界が一瞬、白く飛んだ。
瑠香「愛斗!」
俺は膝をつきそうになりながら、何とか踏みとどまる。
肩から血が滲む。
痛い。
かなり痛い。
でも、シルヴェリアは無事だった。
それでいい。
シルヴェリアは俺を見ていた。
淡い銀色の瞳が、大きく揺れている。
シルヴェリア「……愛斗」
その声は、機械の音声ではなかった。
震えていた。
俺が彼女を庇ったことを理解したのだろう。
けれど、どう反応すればいいのか分からない。
そんな顔だった。
瑠香は唇を噛んでいる。
怒っている。
でも、その怒りはシルヴェリアに向けたものではなかった。
まただ。
また愛斗が誰かのために傷ついた。
そう言いたげな目だった。
心配。
悔しさ。
自分が間に合わなかったことへの痛み。
いくつもの感情を飲み込んで、瑠香は叫んだ。
瑠香「シルヴェリア! 愛斗を守って!」
シルヴェリアが、ゆっくりと視線を上げる。
カルミリアが再び刃を構えていた。
その時、空気が歪んだ。
紫の光が、ドーム内に薄く広がる。
ヴィオレリアが微笑んでいた。
彼女の手のひらから、細い紋様がいくつも流れ出し、端末の光と混ざっていく。
視界が揺れる。
距離感が狂う。
床が傾いたように見え、天井が近づいたように感じる。
俺は剣を握り直す。
だが、空間の継ぎ目が掴みにくい。
ヴィオレリアが、俺の感覚に干渉している。
ヴィオレリア「空間干渉、確認。面白いですね。でも、その波形は乱せます」
愛斗「こいつ……!」
俺は【光断一閃】を放とうとする。
しかし、斬撃の軌道が歪んだ。
本来なら真っ直ぐ通るはずの空間が、途中で滑るようにずれていく。
空間そのものではない。
俺の認識に干渉している。
狙いが、わずかに狂わされている。
そのわずかが致命的だった。
オーレリアが槍を構え直す。
キュプリアが床に次の罠を走らせる。
ブランシェリアが照準を合わせる。
オニキリアの影が揺れる。
カルミリアが炎の刃を振り上げる。
ヴィオレリアが微笑む。
R.I.A.たちは、最初からシルヴェリアを壊しに来ている。
シルヴェリアが覚えていなくても関係ない。
俺たちが何者でも関係ない。
彼女たちにとって、シルヴェリアは裏切り者。
そして俺たちは、邪魔者だ。
シルヴェリアの腕が動いた。
銀色の刃が展開する。
彼女は俺の前へ立った。
守るように。
いや、守ろうとして。
カルミリアの炎の刃を、シルヴェリアの銀の刃が受け止めた。
金属が軋む。
火花が散る。
熱で空気が歪む。
シルヴェリア「……わたくしは、守ります」
その言葉には、まだ迷いが残っていた。
彼女は分からないのだ。
なぜ家族に刃を向けられているのか。
なぜ自分は責められているのか。
なぜ、今、愛斗たちを守ろうとしているのか。
けれど、一つだけ確かだった。
守りたい。
それだけが、彼女を動かしていた。
俺は傷ついた肩を押さえながら立ち上がる。
愛斗「なあ、お前たち」
六人のR.I.A.が、俺たちを囲むように立っている。
明らかな不利。
でも、俺は剣を握った。
愛斗「話を聞く気はないのか」
オーレリアは冷たい瞳で俺を見る。
オーレリア「外部個体。あなたに発言権限はありません」
愛斗「権限なんて知るか。シルヴェリアは覚えてない。なのに一方的に責めて、壊そうとしてるだけだろ」
カルミリアが吠える。
カルミリア「覚えていないから何だ! 私達は覚えている!」
キュプリアが薄く笑う。
キュプリア「都合のいい破損ね。自分だけ忘れて、被害者みたいな顔をして」
シルヴェリアの瞳が、また揺れる。
シルヴェリア「わたくしは……何を、したのですか」
誰も答えない。
答えの代わりに、攻撃が来た。
オーレリアの槍が光る。
ブランシェリアの弾が走る。
キュプリアの罠が床を走る。
オニキリアの刃が影から伸びる。
カルミリアの炎が迫る。
ヴィオレリアの干渉が、空間を歪める。
答える気など、最初からない。
戦闘が、再び始まった。




