第65話:六姉妹の断罪
オーレリアの言葉が、ドームの中に落ちた。
オーレリア「お前のせいで、私達は捨てられた」
冷たい声だった。
怒鳴ってはいない。
責め立ててもいない。
ただ事実を告げるように、淡々と。
だからこそ、その言葉は鋭かった。
シルヴェリアは、その場から動けなくなっていた。
淡い銀色の瞳が揺れている。
彼女の前には、目覚めた六人の姉妹たちが立っていた。
R-01、オーレリア。
金色の髪を持つ指揮官機。
濡れた髪が肩に貼りついているにもかかわらず、彼女の立ち姿には一切の乱れがなかった。まるで目覚めた瞬間から、この場の全てを掌握しているようだった。
R-03、キュプリア。
銅色に近い茶色の髪を指で払いながら、皮肉げに口元を歪めている。視線はシルヴェリアではなく、床や壁や端末へ向いていた。戦場の構造そのものを読んでいる目だった。
R-04、ブランシェリア。
白い髪の少女は、カプセルの縁に静かに手をかけている。口数はない。ただ、細い瞳だけが冷たくこちらを見ていた。その視線は、まるで遠くの標的をすでに照準に捉えているみたいだった。
R-05、オニキリア。
黒い髪の少女は、いつの間にかカプセルの影から姿を消していた。さっきまでそこにいたはずなのに、もういない。黒い影だけが、床の上を静かに滑った気がした。
R-06、カルミリア。
赤い髪の少女は、怒りを隠そうともしなかった。燃えるような瞳が、シルヴェリアだけを見ている。今にも飛びかかりそうな姿勢で、歯を食いしばっていた。
R-07、ヴィオレリア。
紫の髪の少女だけは、薄く微笑んでいるように見えた。けれど、その笑みには温度がない。彼女の周囲では、端末の光が小さく乱れ、空気そのものがわずかに歪んでいた。
六人の視線が、シルヴェリアへ向いている。
再会の視線ではない。
家族を見つけた安堵でもない。
憎しみ。
疑念。
失望。
それに近いものが、冷たい刃のようにシルヴェリアへ突き刺さっていた。
キュプリアが鼻で笑う。
キュプリア「お前が失敗したから、私達は眠らされた。よく戻って来られたわね、R-02」
ブランシェリア「R.I.A.シリーズは、終わった」
オニキリア「処分対象」
影の中から、短い声だけが響く。
カルミリアは一歩踏み出した。
カルミリア「廃棄されたのは、お前のせいだ」
ヴィオレリアが、楽しそうとも悲しそうともつかない声で続ける。
ヴィオレリア「私達は、もうない。記録上も、存在上も。ねえ、R-02。あなたはそれでも、まだ自分だけ戻ってきたの?」
シルヴェリアが、小さく首を振る。
シルヴェリア「……違う」
その声は弱かった。
いつもの機械的な丁寧さが崩れている。
まるで、言葉の組み立て方を忘れたみたいだった。
オーレリアの金色の瞳が、冷たく光る。
オーレリア「どこが違うと言う?」
シルヴェリア「わたくしは……何も覚えていません」
オーレリア「記憶がない。便利な言葉ね」
シルヴェリアの指先が震えた。
彼女は本当に覚えていない。
それは俺たちも知っている。
任務ログは破損していて、彼女の記憶には大きな空白がある。
けれど、目覚めた姉妹たちにとって、それは言い訳にしか聞こえないのだろう。
カルミリアが、赤い髪を振り乱して飛び出した。
カルミリア「そんな言い訳で、許されると思っているのか!」
彼女の腕から、赤い装甲が展開する。
続けて、炎を帯びた刃が現れた。
熱が空気を歪ませる。
シルヴェリアへ向かって、カルミリアが一直線に迫る。
速い。
俺は即座に動こうとした。
だが、その前にオーレリアが片腕を持ち上げる。
彼女の右腕から、金色の槍が展開した。
シルヴェリアの刃よりずっと大きく、重く、堂々としている。
その槍の先端が、天井へ向けられた。
次の瞬間、ドームの天井に埋め込まれた光点が一斉に輝く。
オーレリア「外部個体、排除」
無数の光の針が、天井から降り注いだ。
愛斗「散れ!」
俺は剣を振るう。
【光断一閃】で空間の継ぎ目を斬り、光の針の軌道をずらす。
何本かは弾けた。
何本かは床へ突き刺さる。
金属の床に穴が開き、火花が散った。
瑠香が咄嗟にアズの腕を引く。
アズは小さく身体を沈め、飛んできた光針を紙一重で避けた。
ネリュアは杖を振り、緑の薄い膜で数本の針を逸らす。
だが、彼女の顔色は悪い。
まだ消耗から戻っていない。
ここで長く戦うのは危険だ。
愛斗「シルヴェリア! まず下がれ!」
シルヴェリアは動かない。
カルミリアの炎の刃が、もう彼女の目前まで迫っている。
シルヴェリア「……わたくしは」
声が出ていない。
思考が止まっている。
その瞬間、床に銅色の光が走った。
幾何学模様。
罠だ。
キュプリアが、いつの間にか床に指を触れていた。
キュプリア「遅いのよ。解析完了」
光の紋様が、俺の足元からシルヴェリアの周囲へ広がる。
床がわずかに沈む。
空間の流れがねじれる。
このままでは、シルヴェリアの足元が拘束される。
俺は剣を床へ向ける。
愛斗「【光断一閃】!」
斬撃が床の継ぎ目を裂く。
キュプリアの罠の核が砕け、銅色の光が散った。
だが、その一瞬を狙って、ドームの入口側から白い光が飛び込んでくる。
ブランシェリアだ。
いつの間にか、彼女はカプセルから離れ、射線を確保していた。
ほとんど動いた気配がなかった。
白銀の弾が、シルヴェリアの横を掠める。
数センチずれていれば、頭部を撃ち抜いていた。
瑠香「狙撃手! あの白い子、遠くから撃ってる!」
アズが素早く視線を走らせる。
アズ「……あそこ」
けれど、敵はそれだけではない。
シルヴェリアの背後の影が、濃くなった。
黒い影が、床から立ち上がるみたいに形を取る。
オニキリア。
彼女はほとんど音を立てず、シルヴェリアの背中へ刃を伸ばしていた。
俺は空間を斬る。
刃の軌道をずらす。
だが、オニキリアは衝突する前に、もう別の影へ溶け込んでいた。
そこにいたはずなのに、いない。
最も暗殺に近い機体。
そう感じた。




