第64話:目覚める六姉妹
カプセルの中の少女たち。
まず、R-01。
金色の髪。
冠のような髪飾り。
閉じられた瞳。
眠っていても、どこか威厳がある。
指揮官。
長姉。
そんな言葉が自然に浮かぶ。
R-03。
銅色に近い茶色の髪。
服には細かな配線のような模様が走っている。
眠る口元が、どこか皮肉げに見えた。
解析、罠、工作。
そういう役割を持っていそうな雰囲気がある。
R-04。
真っ白な髪。
この中では一番細身に見える。
表情は静かで、遠くを見ているような冷たさがあった。
長距離から何かを撃ち抜く。
そんな印象を受ける。
R-05。
黒い髪。
影のように静かな顔。
眠っているのに、そこだけ光が沈んでいるみたいだった。
暗殺という言葉が、一番似合いそうだった。
R-06。
赤い髪。
気の強そうな顔立ち。
閉じた瞼の下に、今にも怒りが燃えそうな熱を感じる。
近づけば焼かれる。
そんな雰囲気があった。
R-07。
紫の髪。
細い線のような光が、彼女の周囲の液体に浮かんでいる。
電気か、幻か。
見ているだけで視界が少し揺れるような、不思議な気配があった。
六人。
いや、シルヴェリアを含めれば七人。
眠れる七姉妹。
そう呼ぶのが、妙にしっくりきた。
シルヴェリアはカプセルの前に立っている。
その瞳に、初めてはっきりとした感情のようなものが浮かんでいた。
不安。
懐かしさ。
期待。
それとも、任務の残滓。
どれなのかは分からない。
けれど、ただの無表情ではなかった。
シルヴェリア「……わたくしの、家族」
淡い銀色の瞳が、カプセルの中の少女たちを順番に見る。
シルヴェリア「R-01、オーレリア」
シルヴェリア「R-03、キュプリア」
シルヴェリア「R-04、ブランシェリア」
シルヴェリア「R-05、オニキリア」
シルヴェリア「R-06、カルミリア」
シルヴェリア「R-07、ヴィオレリア」
六人の名前を、シルヴェリアは一つずつ口にした。
まるで、忘れかけたものを指先でなぞるみたいに。
記憶は破損している。
それでも、名前は残っていた。
家族という認識も、残っていた。
シルヴェリア「家族、です」
その言葉は不安定だった。
彼女自身も、それが命令なのか、記録なのか、感情なのか分かっていないみたいだった。
それでも、彼女にとって大切な言葉なのだろう。
俺はシルヴェリアへ近づこうとした。
だが、彼女がこちらを見ずに言う。
シルヴェリア「愛斗。離れていてください」
愛斗「何をするつもりだ」
シルヴェリア「任務を完了します。わたくしの家族を、起こします」
その声は静かだった。
だが、迷いはなかった。
俺は止めるべきだったのかもしれない。
ログには不穏な言葉が並んでいる。
R-02原因説。
全機廃棄承認。
R.I.A.シリーズ暴走疑惑。
こんな状態で、他のR.I.A.シリーズを起こすのは危険だ。
危険に決まっている。
けれど、俺は言葉を失った。
家族を起こしたい。
そう言われて、止められなかった。
それが正しい判断だったのかは分からない。
たぶん、正しくはなかった。
でも、俺たちはいつも正しさだけで進んできたわけじゃない。
シルヴェリアの手が、再起動装置に触れる。
ドーム内に、低い音が響いた。
七つのカプセルのうち、六つが淡く光る。
内部の液体が、ゆっくりと抜けていく。
白い冷気が、床を這う。
端末画面に、警告の赤い文字がいくつも浮かぶ。
『再起動シーケンス開始』
『R.I.A.シリーズ、覚醒処理』
『警告』
『停止命令、無効』
『旧命令系統、復旧』
愛斗「シルヴェリア、待て」
声をかけた時には、もう遅かった。
最初のカプセルが開く。
白い蒸気が流れ出す。
金色の髪の少女が、ゆっくり目を開いた。
R-01。
オーレリア。
その瞳は、冷たかった。
王冠にも似た髪飾りの下で、金色の瞳がシルヴェリアを捉える。
しばらく、何も言わない。
ただ見る。
その視線だけで、空気が変わった。
シルヴェリア「オーレリア……」
オーレリアの唇が、静かに動く。
オーレリア「R-02」
その声は、シルヴェリアと似ていた。
けれど、まったく違った。
冷たい。
鋭い。
そして、その奥に怒りがある。
オーレリア「あなたは、なぜここにいる」
シルヴェリアは答えられなかった。
次のカプセルが開く。
また次も。
白い冷気が広がり、六つの影が目を覚ましていく。
キュプリア。
ブランシェリア。
オニキリア。
カルミリア。
ヴィオレリア。
眠っていた姉妹たちが、次々と瞼を開く。
彼女たちの視線が、一斉にシルヴェリアへ向いた。
それは再会の視線ではなかった。
歓迎でも、安堵でもない。
もっと冷たく。
もっと鋭く。
もっと痛いものだった。
シルヴェリアの指先が、かすかに震えた。
オーレリアは、カプセルの中から一歩踏み出す。
濡れた金色の髪が、肩に貼りついている。
それでも、彼女の立ち姿には乱れがなかった。
指揮官機。
その言葉が、俺の頭に浮かぶ。
彼女はシルヴェリアを見たまま、静かに告げた。
オーレリア「R-02。あなたの単独逸脱により、R.I.A.シリーズは危険兵装と認定された」
シルヴェリアの瞳が揺れる。
シルヴェリア「わたくし、が……?」
オーレリアの声は、さらに冷たくなった。
オーレリア「お前のせいで、私達は捨てられた」
その言葉が、ドームの中に落ちた。
重く。
冷たく。
鋭く。
シルヴェリアは、その場から動けなくなった。




