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ただの高校生だった俺は、異世界召喚で空間を斬る最強になったのに、帰ってみたら幼馴染が王家の姫になっていた  作者: NOVENG MUSiQ
第3章 赤い空の機械世界と銀色の心臓

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第62話:偵察、潜入、暗殺

 赤黒い空の下、廃棄処分場はさらに奥へ続いていた。


 俺たちはドームへ向かって歩いている。


 錆びた廃棄物の山を越え、砂と金属片が積み重なった谷を抜けて。


 白い月と、欠けた青い月が、俺たちの背後から鈍い光を投げていた。


 廃棄場の奥。


 そこにあったのは、小さなドームだった。


 錆びた鉄の半球。


 表面には無数の傷が走り、ところどころ外装が剥げている。砂に半分埋もれた基部からは、古いケーブルが何本も伸び、廃棄物の山の下へ潜り込んでいた。


 遠目には、ただの残骸にしか見えない。


 エネルギーも、動きも、ほとんど感じない。


 だが、シルヴェリアだけは違った。


 彼女はドームを見つめたまま、ゆっくり歩いている。


 足取りはまだ少し不安定だ。


 けれど、視線だけは真っ直ぐだった。


 淡い銀色の瞳が、その錆びた半球だけを捉えている。


 そこへ近づく道中、俺たちはシルヴェリアにいくつか質問をした。


 彼女は答えた。


 まだ会話というには少し機械的だった。


 それでも、最初に目覚めた時よりずっと自然だった。


 問いに対して、ただログを読み上げるのではなく、彼女自身が言葉を選ぼうとしている。


 そんなふうに見えた。


 愛斗「R.I.A.って、どういう意味なんだ?」


 シルヴェリアは、少しだけ顔をこちらへ向ける。


 シルヴェリア「R.I.A.は、|Reconnaissanceリコネサンス、|Infiltrationインフィルトレイション、|Assassinationアサシネイションの略称です」


 愛斗「日本語だと?」


 シルヴェリア「偵察、潜入、暗殺」


 暗殺。


 その単語が、砂混じりの風の中でやけに重く聞こえた。


 名前の時点で、まったく平和じゃない。


 いや、偵察と潜入の時点でだいぶ物騒だが、最後の一語がすべてを持っていった。


 シルヴェリアは淡々と続ける。


 シルヴェリア「わたくしたちは、敵性存在の発見、侵入、排除を目的として製造されました」


 ネリュアが静かに尋ねる。


 ネリュア「敵性存在とは何じゃ?」


 シルヴェリア「該当記録は破損しています」


 瑠香が眉をひそめる。


 瑠香「敵が誰かも分からないのに、暗殺だけ覚えてるってこと?」


 シルヴェリア「はい。任務分類のみ残存しています」


 嫌な残り方だった。


 何のために戦ったのかは失われている。


 誰を殺すべきだったのかも失われている。


 けれど、殺すための機能と任務だけは残っている。


 それは、記憶喪失というより、目的だけを残された刃みたいだった。


 アズが小さく呟く。


 アズ「……あんさつ」


 その言葉を口にするのが怖いみたいだった。


 シルヴェリアは少し考えてから、答える。


 シルヴェリア「対象に気づかれる前に、致命的な損傷を与える行動です」


 瑠香「説明が具体的すぎる……」


 シルヴェリア「補足説明が必要でしょうか」


 瑠香「いらない。絶対いらない」


 シルヴェリア「了解しました」


 そう言うと、シルヴェリアは右手を上げた。


 指先が静かに変形する。


 白い指の内側から銀色の刃が展開し、細く、薄く、冷たい光を帯びた。


 その刃が、瑠香の喉元の少し手前で止まる。


 瑠香の身体が固まった。


 シルヴェリア「一瞬で、静かに。対象の反応前に終了します」


 瑠香「分かったから! それ以上近づけないで!」


 シルヴェリア「了解しました」


 刃が、元の指へ戻る。


 動作は滑らかだった。


 何事もなかったみたいに。


 シルヴェリアの顔は無表情だ。


 けれど、俺は気づいた。


 彼女は脅したわけじゃない。


 自慢したわけでもない。


 ただ、自分が何者なのかを俺たちに理解させようとしたのだ。


 それが危険なことであっても。


 それで俺たちに怖がられても。


 隠さない。


 それは彼女なりの誠実さだったのかもしれない。


 もちろん、誠実なら喉元に刃を近づけていいという話ではない。


 そこはあとで教えた方がいい。


 絶対に。


 ドームの入口は、半開きだった。


 錆びた鉄の扉が砂をかぶり、長い間そこから動いていないことを示している。


 俺は剣の柄に手をかけたまま、扉へ近づいた。


 愛斗「開けるぞ」


 瑠香が頷く。


 アズが小剣を構える。


 ネリュアは杖を握り、シルヴェリアは静かに後ろへ下がった。


 いや、下がったというより、俺たちを守れる位置へ移動した。


 俺は扉を押す。


 重い。


 金属が擦れる音が響く。


 扉の隙間から、乾いた冷気が流れ出した。


 外の廃棄場とは違う空気。


 錆と油と焦げた金属の臭いではなく、もっと清潔で、もっと冷たい空気。


 俺は中へ足を踏み入れる。


 ドームの中は、外の廃墟とはまるで違っていた。


 外は壊れていた。


 錆びていた。


 捨てられていた。


 だが、中はまだ生きていた。


 薄い白い光が、天井から降り注いでいる。


 床は磨かれた金属。


 壁には端末画面がいくつも埋め込まれ、青白い文字が静かに流れている。


 その文字の多くは欠け、ノイズに乱れ、途中で途切れていた。


 それでも、この場所だけは時間から切り離されているみたいだった。


 廃棄場の中にある、冷たい棺。


 そんな言葉が頭に浮かぶ。


 ドームの中は寒かった。


 気温が低いというより、空気そのものが冷えている。


 瑠香が無意識に俺の腕へ寄ってくる。


 瑠香「寒い……」


 愛斗「大丈夫か?」


 瑠香「大丈夫だけど、何かここ、空気が変」


 愛斗「分かる」


 アズも小さく震えている。


 ネリュアは杖に力を込め、空気の流れを探っていた。


 シルヴェリアだけは寒さを感じていないようだった。


 彼女は俺たちの様子を見て、少しだけ首をかしげる。


 シルヴェリア「体温共有は、低温環境において有効です」


 そう言って、彼女が俺へ近づこうとした。


 瑠香が即座に立ちはだかる。


 瑠香「それはダメ」


 シルヴェリア「理由を確認します」


 瑠香「あとで教える」


 シルヴェリア「了解しました。あとで確認します」


 愛斗「覚えてるのか、それ」


 シルヴェリア「はい。重要度、中として保存しました」


 瑠香「中なんだ……」


 少しだけ笑いそうになった。


 けれど、ドームの奥へ目を向けた瞬間、その気配は消えた。


 そこには、七つのカプセルが並んでいた。

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