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ただの高校生だった俺は、異世界召喚で空間を斬る最強になったのに、帰ってみたら幼馴染が王家の姫になっていた  作者: NOVENG MUSiQ
第3章 赤い空の機械世界と銀色の心臓

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第59話:未完了の任務ログ

 彼女の銀色の瞳に、薄い文字のような光が浮かんでいた。


 何かを読んでいる。


 いや、見ているのは俺たちには見えないログなのかもしれない。


 シルヴェリア「記憶ユニット、断片復元。任務ログを確認」


 愛斗「任務ログ?」


 シルヴェリア「はい。破損していますが、一部確認可能です」


 彼女の瞳に映る光が、かすかに明滅する。


 シルヴェリアは、淡々と読み上げた。


 シルヴェリア「指定座標への移動を完了」


 シルヴェリア「ドーム内、対象の確認を完了」


 シルヴェリア「R.I.A.シリーズの再起動を完了」


 シルヴェリア「最終処理の実行……未完了」


 最終処理。


 その言葉だけが、妙に重かった。


 指定座標。


 ドーム。


 対象。


 R.I.A.シリーズの再起動。


 そして、最終処理。


 聞けば聞くほど嫌な単語ばかりだ。


 シルヴェリアは、自分の読み上げたログを理解しようとしているようだった。


 淡い銀色の瞳が、小さく揺れる。


 シルヴェリア「わたくしは……なぜ、ここにいたのでしょうか」


 それは、俺たちへの問いかけというより、自分自身への問いだった。


 記憶が欠けている。


 彼女は自分がなぜ廃棄場にいたのか知らない。


 なぜ捨てられたのか知らない。


 なぜ処理対象にされたのか知らない。


 けれど、任務だけは残っている。


 それは、かなり残酷なことのように思えた。


 瑠香が慎重に尋ねる。


 瑠香「その、R.I.A.シリーズって……あなた以外にもいるの?」


 シルヴェリアは頷いた。


 シルヴェリア「はい。R.I.A.シリーズは、複数の姉妹機により構成されます」


 アズ「……しまい?」


 シルヴェリア「わたくしの認識では、家族に近い概念です」


 家族。


 その言葉が、廃棄場の冷たい空気の中で不思議に響いた。


 暗殺を目的として作られた兵装。


 R.I.A.シリーズ。


 姉妹機。


 家族。


 並べると、どうにも噛み合わない。


 けれどシルヴェリアは、本気でそう言っているようだった。


 ネリュアが静かに口を開く。


 ネリュア「その者たちは、今どこにおる?」


 シルヴェリアはゆっくりと振り向く。


 廃棄処分場の奥。


 黒い瓦礫の向こう。


 赤い空と二つの月の下に、小さなドームが見えた。


 錆びた鉄の半球。


 そこだけが、周囲の廃棄物から切り離されたように静かだった。


 シルヴェリア「目標座標、確認。あそこに、わたくしの家族がいます」


 俺たちは言葉を失う。


 あのドームに、シルヴェリアの家族。


 つまり、他のR.I.A.シリーズがいる。


 そして、任務ログには『R.I.A.シリーズの再起動を完了』とあった。


 完了。


 つまり、彼女は一度それを終えている。


 なのに、今はここにいる。


 廃棄場に捨てられていた。


 最終処理だけが未完了。


 嫌な予感しかしない。


 愛斗「君は、あそこへ行きたいのか?」


 シルヴェリアは俺を見る。


 その瞳は、今までより少しだけ人間に近かった。


 シルヴェリア「はい。わたくしは、未完了の任務を完了する必要があります」


 愛斗「その任務が何か、分かってるのか?」


 シルヴェリア「完全には不明です」


 愛斗「だったら危険だ」


 シルヴェリア「はい。危険である可能性は高いと推定されます」


 愛斗「それでも行くのか?」


 シルヴェリアは、わずかに沈黙した。


 処理時間。


 そう見えた。


 けれど、俺には迷っているようにも見えた。


 シルヴェリア「停止している家族がいる可能性があります。わたくしは、確認しなければなりません」


 その言葉に、アズが小さく反応した。


 確認しなければならない。


 助けられるかもしれない。


 見捨てられない。


 その感覚を、アズは知っているのだろう。


 瑠香も、眉を寄せながら黙っていた。


 警戒はしている。


 でも、反対しきれない。


 たぶん俺と同じだ。


 危ない。


 絶対に危ない。


 けれど、家族がいると言われて、それを無視しろとは言えない。


 俺は深く息を吐く。


 愛斗「分かった。行こう」


 瑠香「愛斗」


 愛斗「もちろん、警戒しながらだ。何かあったらすぐ引く」


 瑠香「……それ、できた試しある?」


 愛斗「ないな」


 瑠香「即答しないでよ」


 シルヴェリアは、俺をじっと見つめていた。


 シルヴェリア「ご主人様は、わたくしに同行するのですか」


 愛斗「だから、ご主人様じゃない。俺の名前は愛斗だ」


 シルヴェリア「愛斗」


 彼女はその名を、もう一度口にした。


 一音ずつ確かめるように。


 シルヴェリア「愛斗は、わたくしに同行するのですか」


 愛斗「ああ。君を一人で行かせるわけにはいかない」


 シルヴェリア「それは、命令ではなく?」


 愛斗「命令じゃない。俺がそうしたいだけだ」


 シルヴェリア「そうしたい」


 また、彼女は言葉を復唱する。


 記録するように。


 確かめるように。


 シルヴェリア「希望、に近い概念でしょうか」


 愛斗「たぶんな」


 シルヴェリア「了解しました。愛斗の希望を確認しました」


 瑠香が小さく呟く。


 瑠香「……なんか、距離近くない?」


 愛斗「今のどこに距離の話があった」


 瑠香「全体的に」


 シルヴェリアが瑠香を見る。


 シルヴェリア「瑠香は、愛斗とわたくしの距離を警戒していますか」


 瑠香「してない!」


 即答だった。


 速すぎる即答だった。


 シルヴェリア「否定反応を確認。声量上昇。頬部温度上昇。心拍上昇を推定」


 瑠香「測らないで!」


 シルヴェリア「了解しました。瑠香の生体反応観測を停止します」


 瑠香「してたんだ!?」


 愛斗「瑠香、落ち着け」


 瑠香「落ち着けるわけないでしょ!」


 アズが、そんな二人を見て小さく首を傾げる。


 アズ「……これ、けんか?」


 ネリュアが薄く笑った。


 ネリュア「いや。これは、少しばかり賑やかな感情じゃ」


 シルヴェリアはネリュアを見る。


 シルヴェリア「賑やかな感情」


 ネリュア「お主には、これから少しずつ分かるかもしれぬ」


 シルヴェリア「学習します」


 その言い方は機械的だった。


 けれど、以前より少しだけ柔らかかった。


 柔らかい。


 たぶん、そう感じた。

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