第58話:処理機体を撃ち抜く銀
廃棄物の山の向こうで、黄色い光が三つ灯った。
処理機体。
シルヴェリアはそう呼んだ。
俺たちを廃棄しようとした運転補助ロボットと、同じ系統の機械なのかもしれない。
ただし、今こちらへ近づいてくる三体は、運転補助というにはあまりにも物騒だった。
細い胴体。
長い腕。
関節から伸びる切断用の工具。
頭部にあたる部分には、黄色い単眼のようなセンサーが埋め込まれている。
それらが、廃棄物の山を越え、金属片を踏み散らしながら近づいてくる。
動きは遅くない。
むしろ速い。
壊れた機械の山を、まるでそこに何があるのか最初から知っているみたいに正確に踏み越えてくる。
ここは、奴らの領域なのだ。
俺たちは侵入者。
いや、処分対象。
危険因子。
この世界の機械にとって、俺たちはもうそう分類されている。
俺は剣を抜いた。
瑠香が右手を構える。
アズが小剣を握り締める。
ネリュアは杖を持ち直したが、顔色はまだ悪い。
そして、シルヴェリアは無表情のまま右腕を持ち上げていた。
その腕の内側から、銀色の銃口が静かに展開している。
人間の腕ではない。
けれど、少女の細い腕にしか見えない。
そこから武器が出てくる光景は、どう考えても異様だった。
シルヴェリア「処理機体、三。敵性判定、高。排除行動を開始します」
愛斗「動けるのか?」
シルヴェリアは、俺を見る。
淡い銀色の瞳に、俺の姿が映っていた。
シルヴェリア「戦闘機能、限定稼働。全身機能に損傷あり。長時間戦闘は非推奨です」
愛斗「じゃあ無理するな」
シルヴェリア「ご主人様の防衛を優先します」
瑠香「だから、ご主人様じゃないってば!」
その抗議が終わる前に、処理機体の一体が跳んだ。
折れた機械腕を足場にして、こちらへ飛びかかってくる。
黄色いセンサーが細く光る。
その腕の先端で、円形の刃が回転を始めた。
まずい。
そう思った瞬間、シルヴェリアの腕から光が走った。
音は小さい。
銃声というより、圧縮された空気が弾けるような音だった。
銀色の弾丸が、処理機体の単眼を撃ち抜く。
一発。
それだけだった。
黄色い光が砕け、処理機体は空中で制御を失う。
そのまま廃棄物の山へ叩きつけられ、金属片を散らして崩れ落ちた。
速い。
正確すぎる。
俺が剣を構えるより先に、敵の中枢を撃ち抜いていた。
瑠香が息を呑む。
瑠香「……すご」
アズは、小さく肩を震わせた。
アズ「……こわい」
その言葉に、シルヴェリアがわずかに振り向く。
表情は変わらない。
けれど、その瞳の光が、ほんの少し揺れた気がした。
シルヴェリア「恐怖反応を確認。対象、アズ。わたくしが原因でしょうか」
アズは答えられない。
小剣を握ったまま、ただシルヴェリアを見つめている。
白金の髪。
黒いゴシック調の服。
少女にしか見えない顔。
そこから展開された銃口。
正確すぎる射撃。
俺だって、怖くないと言えば嘘になる。
シルヴェリアは助けたばかりの少女だ。
そして同時に、暗殺のために作られた兵装でもある。
その二つが同じ身体の中にある。
だから、怖い。
でも、それだけではなかった。
アズは、シルヴェリアの足元に広がる砂を見ていた。
廃棄場の砂。
捨てられたものたちの山。
壊れた機械。
動かなくなったロボット。
その中で見つけた少女。
アズは、たぶん自分を重ねている。
拾われた者。
信じたいのに信じられない者。
壊れそうなまま、それでも立っている者。
処理機体の残り二体が迫る。
考えている暇はない。
シルヴェリアは右腕の銃口をそのままに、左腕を持ち上げた。
指先が開く。
そこから細いワイヤーが射出された。
ワイヤーは廃棄物の山に突き刺さり、シルヴェリアの身体を斜め上へ引き上げる。
黒い服の裾が、赤い空の下でひるがえった。
宙を舞う少女。
その腕から火線が走る。
二体目の処理機体が、肩の駆動部を撃ち抜かれて倒れた。
三体目はそれでも止まらない。
シルヴェリアの背後へ回り込む。
俺は踏み込んだ。
愛斗「後ろ!」
シルヴェリア「把握済みです」
彼女の身体が、空中で不自然に反転した。
人間の動きではない。
関節の可動域を、人間の常識から少しだけ外した動き。
右腕の銃口が消え、代わりに手首から銀色の刃が伸びる。
処理機体の切断工具と、シルヴェリアの刃がぶつかる。
火花が散った。
次の瞬間、シルヴェリアの膝から小さな杭のようなものが射出される。
それが処理機体の胸部へ刺さり、青白い電流が走った。
処理機体の動きが止まる。
その隙に、俺が斬った。
装甲の継ぎ目。
センサーから胸部へ続く線。
そこへ【光断一閃】を通す。
処理機体は、崩れるように倒れた。
静かになった。
いや、完全な静寂ではない。
遠くではまだ、廃棄場全体が低く鳴っている。
どこかで機械が動いている。
何かが、こちらを見ている。
シルヴェリアは地面へ降り立った。
危なげない着地。
けれど、その直後に彼女の身体がわずかに傾いた。
俺は反射的に支える。
愛斗「おい、大丈夫か?」
シルヴェリア「問題ありません。右脚部駆動系に一時的な遅延。三・七秒以内に補正可能です」
愛斗「それは問題あるって言うんだよ」
シルヴェリア「表現を修正します。軽微な問題があります」
愛斗「軽微かどうかはこっちが判断する」
シルヴェリアは俺を見上げる。
感情の薄い瞳。
けれど、さっきより少しだけ揺れている。
シルヴェリア「ご主人様は、わたくしの損傷を懸念しているのですか」
愛斗「ご主人様じゃない。あと、懸念というか心配だ」
シルヴェリア「心配」
彼女はその言葉を、ゆっくり復唱した。
まるで、初めて口にする単語みたいに。
シルヴェリア「心配、を記録しました」
瑠香が、俺とシルヴェリアの距離を見て眉を寄せる。
瑠香「……近くない?」
愛斗「支えてるだけだ」
瑠香「支える距離って、そんなに近かったっけ」
シルヴェリア「接触による安定補助は有効です」
瑠香「そういう正論っぽい言い方やめて」
シルヴェリア「正論っぽい、を記録しました」
愛斗「記録しなくていい」
シルヴェリア「重要度、低として保存します」
瑠香「保存はするのね……」
ほんの少しだけ、空気が緩んだ。
だが、すぐにシルヴェリアの瞳が遠くを見る。




