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ただの高校生だった俺は、異世界召喚で空間を斬る最強になったのに、帰ってみたら幼馴染が王家の姫になっていた  作者: NOVENG MUSiQ
第3章 赤い空の機械世界と銀色の心臓

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第51話:青い光の車内

 車は、音もなく走っていた。


 エンジン音はない。


 風切り音も、ほとんどない。


 ただ、車体の下を青い光が滑るように流れている。タイヤは地面に触れているはずなのに、揺れは少なく、砂と瓦礫の上を進んでいるとは思えないほど静かだった。


 窓の外には、赤黒い空と、壊れた建物が流れている。


 二つの月は相変わらず空に浮かんでいた。


 白い月。


 欠けた青い月。


 その光に照らされて、第三管理区の廃墟が後ろへ遠ざかっていく。


 俺たちは座席に座り、それぞれに休息を取っていた。


 一応は、休憩時間。


 次の目的地までの、束の間の休息。


 そのつもりだった。


 つもり、という言葉がつく時点で、だいたい嫌な予感はしている。けれど人間というのは、嫌な予感がしても座席が柔らかければ少し安心してしまう生き物らしい。


 疲れていた。


 それが大きかった。


 食糧庫での戦闘。


 地下管路での逃走。


 ロボットだけの街。


 赤い空。


 人間のいない世界。


 そんなものを立て続けに味わったあとで、車の座席に座れるというだけで、少しだけ身体の力が抜けてしまう。


 瑠香はすぐに、俺の肩に頭を乗せてきた。


 瑠香「疲れたー……」


 愛斗「急に何してる」


 瑠香「休憩」


 愛斗「休憩なら自分の席でしろ」


 瑠香「してるよ。愛斗の肩を含めて、私の休憩スペース」


 愛斗「勝手に領土を広げるな」


 瑠香「非常時だから仕方ない」


 仕方なくはない。


 仕方なくはないが、彼女の声には本当に疲れが滲んでいた。


 無理にどける理由もない。


 それに、瑠香がこうして軽口を叩けるなら、まだ大丈夫だと思えた。


 だから、そのままにした。


 すると今度は、反対側からネリュアがゆっくり倒れ込んできた。


 彼女の額が、俺の肩に触れる。


 ネリュア「……妾も、少し、眠りを借りる」


 愛斗「お前もか」


 ネリュア「今の妾に、体裁を整える余力はないのじゃ」


 愛斗「それを言われると何も言えないな」


 ネリュアの身体はまだ冷たい。


 食料を口にして、少しは顔色が戻った。


 それでも、【(クロノ・)(ヴェルデ・)詠環(レクイエム)】の反動は消えていない。


 彼女は俺の肩に頭を預けたまま、目を閉じる。


 左右の肩に、瑠香とネリュア。


 なかなか動けない。


 いや、動く必要はないのだが、動けないとなると急に動きたくなる。人間の自由意志というやつは、だいたい不自由になってから存在感を出してくる。


 残りはアズだけだった。


 アズは向かいの席で、無言のまま俺たちを見つめている。


 その視線が、少し気になった。


 愛斗「どうした?」


 アズ「……愛斗、平気?」


 愛斗「何がだ?」


 アズ「……重く、ない?」


 重いのか。


 気にしなければ気にならない程度の重さだ。


 けれど確かに、左右の肩に二人分の頭の重さはある。


 俺は小さく笑った。


 愛斗「平気だよ」


 アズは、少しだけ表情を緩めた。


 けれど、彼女は俺の肩へは寄ってこなかった。


 代わりに、窓の外へ視線を戻す。


 何かを探すように。


 何かを待つように。


 あるいは、ただこの世界から目を逸らせないだけのように。


 車は荒野を走っていた。


 第三管理区を離れ、しばらく進んだ場所だ。


 もう建物は少ない。


 ロボットもほとんど見えない。


 ただ赤黒い土と、錆びた金属片と、砂に埋もれた人工物が広がっている。


 ところどころに、見覚えのあるものがあった。


 電柱のような柱。


 半分砂に埋もれた高速道路。


 文字の読めない看板。


 倒れた街灯。


 空をゆっくり巡回するドローン。


 どれも、俺たちの世界にあってもおかしくないものだった。


 形が似ている。


 機能もたぶん似ている。


 ただ、古い。


 壊れている。


 使われていない。


 まるで、人間が消えたあとの世界みたいだった。


 そう考えると、胸の奥が少し暗くなる。


 けれどその暗さは、さっきカップ麺を食べた時の懐かしさと、妙な形で混ざっていた。


 懐かしいのに、怖い。


 知っているものなのに、知らないものになっている。


 現代日本と似たものがあるほど、この世界が遠くなる。


 矛盾した感覚だった。


 瑠香が、俺の肩に頭を預けたまま小さく息を吐く。


 瑠香「……車、あると安心するよね」


 その声は、半分眠っているみたいだった。


 けれど、たぶん本音だった。


 俺も頷く。


 愛斗「そうだな」


 自分の足で歩かなくていい。


 風を直接浴びなくていい。


 外の危険から、薄い壁一枚だけでも隔てられている。


 それだけで、少し安心する。


 車というのは、こんなにも人を油断させるものだったのか。


 もちろん、運転しているのが怪しすぎるロボットでなければ、もっと安心できたのだが。


 俺は前方の運転席を見る。


 運転補助ロボットは、背筋を伸ばすような姿勢で座っている。


 黄色い目は前を向いたまま。


 長い腕がハンドルに添えられている。


 動きは滑らかだ。


 けれど、不自然なほど無駄がない。


 愛斗「目的地まで、あとどれくらいだ?」


 ロボット「安全な目的地へ搬送いたします」


 愛斗「時間を聞いてる」


 ロボット「安全な目的地へ搬送いたします」


 愛斗「会話が前に進まないな」


 瑠香「愛斗とたまに似てる」


 愛斗「俺はもう少し進むだろ」


 瑠香「変な方向にね」


 反論したかったが、左右の肩を封じられている状態では、説得力が不足していた。


 車は進み続ける。

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