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ただの高校生だった俺は、異世界召喚で空間を斬る最強になったのに、帰ってみたら幼馴染が王家の姫になっていた  作者: NOVENG MUSiQ
第3章 赤い空の機械世界と銀色の心臓

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第42話:廃棄計画の爪痕

 沈黙。


 低い振動だけが残る。


 俺たちはしばらく動けなかった。


 息が荒い。


 汗が背中を伝う。


 砂漠では冷えた空気が喉を焼いたが、地下では湿った熱が肌にまとわりつく。金属と油と焦げた配線の匂いが濃くなっていた。


 瑠香が膝に手をつき、息を整える。


 瑠香「……下水、嫌い」


 愛斗「俺も今、かなり嫌いになった」


 アズは落ちた小剣を拾いに行く。


 拾い上げる時、その手が少し震えていた。


 俺は彼女に近づく。


 愛斗「大丈夫か?」


 アズ「……うん」


 愛斗「さっきの、すごかった」


 アズは一瞬、目を丸くした。


 それから、視線を落とす。


 アズ「……こわかった」


 愛斗「それでも動けた」


 アズ「……動かないと、みんな、危なかったから」


 俺は空いた手で、彼女の頭をそっと撫でた。


 アズは肩をすくめる。


 けれど、逃げなかった。


 むしろ、ほんの少しだけ目を細めた。


 アズ「……また、撫でた」


 愛斗「嫌だったか?」


 アズ「……嫌じゃ、ない」


 小さな声だった。


 でも、ちゃんと聞こえた。


 瑠香が横からそれを見て、何か言いたそうにしたが、結局何も言わなかった。


 その代わり、少しだけ頬を膨らませている。


 この状況で嫉妬する余裕があるなら、まだ大丈夫だ。


 たぶん。


 俺たちは再び歩き出した。


 通路はさらに奥へ続いている。


 天井の人工の星空は、さっきよりも密度を増していた。


 青白い線が網のように交差し、時折、光の粒が流星みたいに走っていく。


 不思議なほど綺麗だった。


 不気味なほど綺麗だった。


 少し進むと、道が広くなった。


 壁の素材が変わる。


 それまで滑らかだった灰色の壁に、古い傷や焦げ跡が増えていく。


 人の手で削られたような跡もあった。


 いや、人かどうかは分からない。


 この世界では、人の手に似たものがいくらでもありそうだ。


 その壁面に、文字が刻まれていた。


 浮かび上がる表示ではない。


 端末の光でもない。


 誰かが、何かで直接刻みつけた文字だ。


 俺は足を止める。


 瑠香も近づく。


 アズは少し離れて、周囲を警戒している。


 ネリュアが、疲れた目で文字を見上げた。


 愛斗「……読めるか?」


 瑠香「うーん……ところどころ、変換されてるっぽいけど」


 壁の文字が、かすかに青く滲む。


 まるでこちらが読もうとしているのに反応したみたいだった。


 断片的な文字が、頭の中に意味として流れ込んでくる。


『R.I.A.』


『廃棄』


『計画』


『承認』


 それだけだった。


 それだけなのに、十分だった。


 胸の奥が冷える。


 R.I.A.


 R-02。


 所在不明。


 さっき管理塔で聞いた言葉と繋がる。


 いい繋がり方ではない。


 廃棄計画。


 承認。


 誰かが、何かを捨てることを決めた。


 それがこの地下で。


 この都市で。


 この世界で。


 いったい何を。


 俺は壁に手を伸ばしかけて、やめた。


 触れたら、何かを起こしてしまいそうな気がした。


 瑠香が小さく呟く。


 瑠香「……R.I.A.って、さっきの?」


 愛斗「たぶんな」


 瑠香「廃棄って、物を捨てるって意味だよね」


 愛斗「普通はな」


 瑠香「普通じゃなかったら?」


 俺は答えられなかった。


 普通じゃない世界で、普通の意味を期待する方が難しい。


 ネリュアが静かに息を吐く。


 ネリュア「……この文字には、痛みが残っておる」


 愛斗「痛み?」


 ネリュア「悔いか、怒りか、恐れか。妾には判じ切れぬ。じゃが、穏やかに刻まれたものではない」


 その言葉を聞いた瞬間、壁の傷がただの傷に見えなくなった。


 文字ではなく、爪痕のように見えた。


 何かを残そうとした誰かの、必死な痕跡。


 俺は先へ進むことにした。


 ここで立ち止まっていても、答えは出ない。


 答えがほしければ、もっと奥へ行くしかない。


 俺たちは、地下管路のさらに深い場所へ進んだ。


 通路の先には、広い空間があった。


 天井が高い。


 無数の配管が、空中を橋のように横切っている。


 壁面には巨大な円形の装置がいくつも埋め込まれ、今も低く回転していた。


 上の街が半分死んでいても、この地下はまだ動いている。


 いや。


 動いている、という言葉は正しくないのかもしれない。


 ここは、ただ機能を維持しているだけだ。


 命ではない。


 意思でもない。


 過去の都市が、幽霊みたいに同じ動作を繰り返している。


 俺たちは、その幽霊の腹の中を進む。


 その時だった。


 水路の奥で、何かが動いた。


 最初は、影に見えた。


 配管の影。


 装置の影。


 人工の星明かりが作った、ただの暗がり。


 そう思いたかった。


 けれど、それはゆっくりと持ち上がった。


 水路の底から、巨大な機械の塊が浮かび上がる。


 表面に張りついた汚泥が剥がれ落ちる。


 青い光が、一つ。


 二つ。


 三つ。


 順番に灯る。


 それは目だった。


 たぶん、センサーだ。


 でも今の俺には、目に見えた。


 巨大な影が、俺たちを見下ろす。


 そして、地下空間全体に低い音が響いた。


━━"起動"。


 俺は剣の柄を握る。


 瑠香が息を呑む。


 アズが小剣を構える。


 ネリュアの細い手が、俺の背中の布を掴んだ。


 次の瞬間、その巨大な機械が、ゆっくりとこちらへ向きを変えた。

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