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ただの高校生だった俺は、異世界召喚で空間を斬る最強になったのに、帰ってみたら幼馴染が王家の姫になっていた  作者: NOVENG MUSiQ
第3章 赤い空の機械世界と銀色の心臓

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第41話:命なき星空

 歩くたび、壁の照明が少しずつ灯っていく。


 天井には、光ファイバーみたいな線が無数に走っていた。


 細い青。


 淡い白。


 ところどころに紫。


 それらが暗闇の中で点滅し、揺れ、流れている。


 まるで地下に星空があるみたいだった。


 下水路の星空。


 そんな言葉が、頭に浮かぶ。


 空を見上げても星はなかった。


 けれど地下へ潜ったら、そこに星のようなものがあった。


 皮肉なのか。


 救いなのか。


 それとも、この世界にとってはただの配線なのか。


 たぶん三つ目だ。


 でも、瑠香は少しだけ目を丸くしていた。


 瑠香「……綺麗」


 愛斗「匂いさえなければな」


 瑠香「それ言わないで。今ちょっと忘れようとしてたのに」


 アズも天井を見上げている。


 アズ「……星、みたい」


 ネリュアは静かに目を細めた。


 ネリュア「命なき星か。寂しいものじゃの」


 寂しい。


 その言葉は、この地下にもよく似合った。


 綺麗なのに、寂しい。


 明るいのに、冷たい。


 星空なのに、空じゃない。


 俺たちは、その人工の星空の下を歩いた。


 足元は滑りやすい。


 床の一部に薄い液体が膜のように広がっている。


 中央の溝には、青とも緑ともつかない液体が低く流れていた。


 音は少ない。


 水音よりも、壁の奥を走る電流の低い振動の方が耳に残る。


 しばらく進むと、前方から小さな機械音が聞こえた。


 俺は足を止める。


 瑠香も、アズも止まる。


 ネリュアが杖を握り直した。


 通路の奥から、小型のドローンが一機現れる。


 丸い胴体。


 左右に短い羽のような部品。


 下部に細いアーム。


 街で見た巡回ドローンよりも小さい。


 たぶん、保守用の機体だ。


 ドローンはこちらに気づくと、青い光を点滅させた。


 短い電子音が鳴る。


 俺は剣の柄に手をかける。


 けれど、ドローンは攻撃してこなかった。


 俺たちの周囲を一度だけ旋回し、そのまま壁際の配管へ近づいていく。アームを伸ばし、何かを点検するように小さく動いた。


 敵ではない。


 少なくとも、今は。


 愛斗「無視して進もう」


 瑠香「大丈夫なの?」


 愛斗「大丈夫とは言ってない。無視するって言っただけだ」


 瑠香「最近その言い方多くない?」


 愛斗「この世界が大丈夫って言わせてくれないんだよ」


 俺たちはそのドローンを避けて進んだ。


 通路は暗い。


 足元は滑りやすい。


 瑠香が一度、足を滑らせた。


 愛斗「おっと」


 俺は反射的に彼女の腕を掴む。


 瑠香はそのまま俺の胸元にしがみついた。


 近い。


 この状況で考えることじゃないのは分かっている。


 けれど近いものは近い。


 瑠香もそれに気づいたのか、慌てて離れようとして、また足を滑らせた。


 愛斗「動くなって」


 瑠香「だって、近いし!」


 愛斗「離れようとして転ぶ方が危ないだろ」


 瑠香「正論で逃げ場をなくすのやめて」


 顔を赤くしながら、瑠香は俺の腕を掴み直した。


 俺は足元を確認しながら彼女を支える。


 アズがそれをじっと見ていた。


 そして、何かを考えるように俺の袖をつまむ。


 愛斗「アズ?」


 アズ「……すべるから」


 愛斗「ああ」


 彼女はそれだけ言って、俺の袖を掴んだまま歩き出した。


 怖いから、とは言わない。


 甘えたいから、とも言わない。


 滑るから。


 それだけ。


 言い訳としては十分だし、理由としても十分だった。


 瑠香がちらりとアズを見て、少しだけ笑う。


 瑠香「アズちゃん、賢い」


 アズ「……うん」


 愛斗「今の、褒められてるのか?」


 瑠香「たぶん」


 アズは小さく頷いた。


 その表情は、ほんの少しだけ柔らかかった。


 だが、そんな空気が長く続くほど、この世界は優しくない。


 前方から、再び機械音が聞こえた。


 今度は一機じゃない。


 複数。


 高い回転音。


 低い駆動音。


 それらが重なって、通路の奥から近づいてくる。


 俺は瑠香とアズを後ろへ下げた。


 ネリュアが、俺の肩越しに通路の奥を見る。


 ネリュア「……数が多いの」


 愛斗「敵か?」


 ネリュア「妾には敵意は読めぬ。じゃが、流れが荒れておる」


 その言葉が終わる前に、暗闇からドローンの群れが現れた。


 一機、二機、三機。


 いや、もっといる。


 保守用にしては多い。


 先ほどの一機よりも、動きが速い。


 それぞれの胴体下部に、細い針のような工具がぶら下がっている。修理用か、切断用か。どちらにしても、人間の身体に向けられて嬉しいものではない。


 先頭の一機が、赤い光を点滅させた。


 音声が流れる。


 ドローン「未登録異物、確認。管路保全のため、排除を開始します」


 愛斗「……やっぱりそうなるか」


 瑠香「全然大丈夫じゃないじゃん!」


 愛斗「だから大丈夫とは言ってない!」


 ドローンたちが、一斉に突っ込んでくる。


 通路は狭い。


 左右には配管。


 足元は滑る。


 天井にはケーブル。


 開けた場所ならどうにでもなる相手でも、この足場では厄介だ。


 俺は剣を抜き、最初の一機の軌道を読む。


 ドローンの動きには規則性があった。


 一直線に突っ込むのではなく、壁と天井を利用して角度を変えながら迫ってくる。


 それでも、機械の動きだ。


 迷いがない分、型がある。


 型があるなら、読める。


 俺は一歩踏み込み、剣を振るった。


 刃がドローンの胴体を斜めに裂く。


 火花が散り、破片が床を転がる。


 続けて二機目。


 左から低く回り込んでくる。


 俺は剣を引き戻そうとしたが、足元が滑った。


 体勢がわずかに崩れる。


 まずい。


 そう思った瞬間、眩い光が通路を満たした。


 瑠香「【(フォトン・)衝弾(ブラスト)】!」


 光弾がドローンの進路を遮る。


 直撃ではない。


 けれど、ドローンのセンサーが一瞬だけ白く焼かれ、軌道が乱れた。


 そのわずかなズレが、俺には十分だった。


 愛斗「助かった!」


 瑠香「あとで褒めて!」


 愛斗「今じゃ駄目か!」


 瑠香「今は生きて!」


 言われなくてもそのつもりだ。


 俺は体勢を立て直し、軌道を乱したドローンを斬り落とす。


 三機目が上から迫る。


 俺が剣を向けるより先に、アズが動いた。


 彼女は怯えていた。


 顔は青ざめている。


 指先も震えている。


 それでも、小剣を握った瞬間、動きだけが変わる。


 小さな身体が滑るように前へ出た。


 アズはドローンの真正面には立たない。


 斜め下。


 針の届かない、けれど刃の届く位置。


 そこへ入り込み、ほんの短く小剣を振るう。


 大きな音はしなかった。


 ただ、細い何かが切れる感触だけがあった。


 ドローンの片側の羽が止まる。


 続けてアズは、もう一箇所を断つ。


 関節。


 ケーブル。


 たぶん、制御線。


 ドローンは回転しながら壁に激突し、青い火花を散らして落ちた。


 アズ「……ここ、切れば、止まる」


 彼女は小さく言った。


 震えた声で。


 けれど、確信のある言葉だった。


 アズは機械の構造を理解している。


 いや、理解しているというより、壊れる場所を見抜いている。


 結界の継ぎ目。


 拘束の弱点。


 そして今は、機械の関節と配線。


 対象が魔法でも、金属でも、彼女の目は“切るべき一点”を見つける。


 すごい。


 そう思った。


 同時に、少し怖くもあった。


 あまりにも正確すぎる。


 ネリュアが杖を振る。


 緑の光が通路の空気を薄く揺らした。


 大きな術ではない。


 彼女にそんな余裕はない。


 けれど、その光はドローンたちの進路にわずかな乱れを生んだ。空気の流れ、熱の流れ、たぶん目には見えない何かの流れをずらしている。


 ネリュア「左じゃ、愛斗」


 愛斗「ああ!」


 ネリュア「瑠香、上を焼け。アズは右の管を傷つけぬよう、胴だけを」


 瑠香「注文多い!」


 ネリュア「仕方ないじゃろ」


 アズ「……わかった」


 ネリュアの指示で、動きが噛み合う。


 瑠香の【光衝弾】がセンサーを潰し、アズが制御線を断つ。


 俺が胴体を斬り、ネリュアが流れを読む。


 四人で戦っている。


 それが、はっきり分かった。


 最後の一機が、天井近くへ逃げる。


 逃げるのではなく、距離を取って何かを発射しようとしている。


 下部の針が開き、赤い光が溜まる。


 俺は【暁光翔歩】を使おうとした。


 しかし、その瞬間、通路全体に走る光が歪んだ。


 足元が揺れる。


 空間が掴みにくい。


 この地下には、何か妙な干渉がある。


 愛斗「くそっ」


 間に合わない。


 そう思った瞬間、アズが小剣を投げた。


 小さな刃が一直線に飛び、ドローンの下部へ突き刺さる。


 赤い光が途切れた。


 その隙に、瑠香の光弾が命中する。


 ドローンは壁へ叩きつけられ、床に落ちた。

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