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ただの高校生だった俺は、異世界召喚で空間を斬る最強になったのに、帰ってみたら幼馴染が王家の姫になっていた  作者: NOVENG MUSiQ
第3章 赤い空の機械世界と銀色の心臓

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第40話:街の腹の中へ

 空は赤く濁っていた。


 星の代わりに、ドローンの灯りが飛んでいる。


 白い月と、欠けた青い月が、壊れた街の輪郭を薄く照らしていた。


 俺たちは、その空の下を歩いていた。


 目指すのは第三管理区。


 第七管理区の東側に広がる、瓦礫地帯を抜けた先にある場所だ。


 本来なら、そこへ向かう最短ルートは地上を直進することだった。


 地図上では、そう見えた。


 ただし、地図上で近いことと、実際に歩いて近いことは別問題だ。地図上では一本の線で済む場所も、現実では崩れたビルと、折れた鉄骨と、落ちた高速道路と、いつ動き出すか分からない機械の残骸で構成されていたりする。


 要するに、地図は嘘をつかないが、地図は苦労も背負ってくれない。


 目の前の廃墟は、想像していたよりもずっと巨大だった。


 半壊した建物が、山脈みたいに地平を覆っている。


 倒れた塔が別の建物に寄りかかり、そこへさらに道路らしき構造物が斜めに突き刺さっている。折れた柱が獣の牙みたいに並び、剥き出しの配管が風に揺れている。


 そこに道らしい道はなかった。


 あったとしても、それは道の形をした罠だ。


 端末が示した地上ルートの危険度(リスク)は、かなり高かった。


 崩落の危険性。


 倒壊の危険性。


 保存不良の機械部品による事故。


 構造材の落下。


 未確認の暴走型ロボットの出現。


 瓦礫下の空洞。


 放射性物質、という文字も一瞬見えた気がしたが、俺は見なかったことにした。見なかったことにしたからといって消えるわけではないが、今の俺には抱えられる不安の容量というものがある。


 限界は近い。


 いや、わりと最初から超えている。


 地下ルートにも危険はある。


 保守機体の暴走。


 排水経路の一部崩落。


 未登録生体の消失事例。


 どっちを選んでも嫌な言葉が並ぶなら、せめて瓦礫の山を登らなくて済む方を選びたい。


 そういう、消極的な選択だった。


 俺は廃墟を見上げる。


 もし俺一人なら、【暁光(ドーン・)翔歩(ステップ)】でいくつかの瓦礫を越えられたかもしれない。


 けれど、それは俺一人なら、の話だ。


 ネリュアは【時緑詠環】の反動で消耗しきっている。


 瑠香も、アズもいる。


 三人を抱えて飛び越えるなんて、今の俺には無理だ。


 最強だの、チートだの、そういう便利な言葉で片づけられない場面がある。


 俺は強くなった。


 けれど、万能になったわけじゃない。


 だから俺たちは、地下へ降りることにした。


 第七管理区の外れ。


 道路が大きく陥没した場所に、その入り口はあった。


 地面に開いた巨大な穴。


 周囲には、錆びた鉄骨が獣の肋骨みたいに突き出ている。


 その下に、黒い口が開いていた。


 まるで街そのものが、俺たちを飲み込もうとしているみたいだった。


 穴の奥から、妙な匂いが漂ってくる。


 汚水の匂いではない。


 腐敗臭でもない。


 錆びた金属。


 焦げた配線。


 冷えた油。


 そして、どこか薬品めいた刺激臭。


 鼻の奥がつんとする。


 瑠香が、露骨に顔をしかめた。


 瑠香「……ここ、入るの?」


 愛斗「入りたいか入りたくないかで言えば、入りたくない」


 瑠香「じゃあやめようよ」


 愛斗「やめた場合、あの瓦礫山を登ることになる」


 瑠香は廃墟を見上げた。


 しばらく黙る。


 そして、すごく嫌そうな顔で穴を見る。


 瑠香「……下で」


 愛斗「だよな」


 アズは鼻を押さえながらも、穴の中をじっと見ている。


 怖がっている。


 けれど、逃げようとはしない。


 ネリュアは俺の背中から降りようとしたが、足元がふらついた。


 俺は慌てて支える。


 愛斗「無理するな」


 ネリュア「……無理ではない。少し、世界が揺れただけじゃ」


 愛斗「それを無理って言うんだよ」


 ネリュアは返事の代わりに、薄く笑った。


 笑っている場合じゃない。


 けれど、笑えるならまだ大丈夫なのかもしれない。


 いや、そう思いたいだけか。


 俺は穴の縁に膝をつき、中を覗き込んだ。


 通路は思ったより広い。


 高さも幅も、三メートルほどはある。


 壁はコンクリートに似た灰色の素材でできていて、そこへ無数の配管とケーブルが張り巡らされている。床はわずかに傾斜しており、中央に細い溝が走っていた。


 完全な下水道というより、都市の内臓だ。


 水や油や情報や熱を流すための、巨大な管路。


 そういう印象だった。


 俺が先に降りる。


 足が床に触れた瞬間、壁に青白い光が灯った。


 眠っていた通路が、俺たちの存在を感知したみたいだった。


 壁面に文字が浮かぶ。


『保守用地下管路』


 今回は読めた。


 というより、読める形に変換された。


 第七管理区の管理システムが、まだ俺たちを観察しているのかもしれない。


 歓迎されているのか。


 監視されているのか。


 その違いは分からない。


 分からない時は、だいたい悪い方も考えておいた方がいい。


 俺は上にいる三人へ手を伸ばす。


 愛斗「……おいで」


 最初に降りてきたのはアズだった。


 小さな身体で、縁に手をかける。


 俺が支えると、彼女は音もなく床に着地した。


 アズ「……つめたい」


 愛斗「床か?」


 アズ「……うん。あと、におい」


 次に瑠香が降りてくる。


 瑠香は穴の縁でしばらく固まってから、覚悟を決めたように目を閉じた。


 瑠香「異世界にまで来て下水って、冒険の華やかさはどこ行っちゃったの?」


 愛斗「さっきの廃墟にでも埋まってるんじゃないか」


 瑠香「発掘したら出てくる?」


 愛斗「たぶん危険度高めの華やかさが出てくる」


 瑠香「いらない」


 俺は瑠香の手を取って、下へ降ろす。


 彼女は床に足をつけた瞬間、すぐに顔をしかめた。


 瑠香「うわ、足元ぬるい」


 愛斗「表現が嫌だな」


 瑠香「事実だもん」


 最後にネリュアを降ろす。


 彼女はマントで口元を覆いながら、通路の奥を見つめた。


 ネリュア「……ここは、ただの下水ではないの」


 愛斗「分かるのか?」


 ネリュア「水だけではない。熱、光、記録、命ではない流れ。色々なものが同じ腹の中を通っておる」


 腹。


 確かに、ここは街の腹の中みたいだった。


 上の街が骨と皮だけの廃墟なら、この地下にはまだ血管が残っている。


 血ではなく、冷却液と電流とデータが流れる血管。


 そう考えると、ますます気味が悪い。


 俺たちは地下管路を進み始めた。

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