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ただの高校生だった俺は、異世界召喚で空間を斬る最強になったのに、帰ってみたら幼馴染が王家の姫になっていた  作者: NOVENG MUSiQ
第3章 赤い空の機械世界と銀色の心臓

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第37話:観察対象の街

 門の表面には、何かが書かれていた。


 文字だ。


 けれど、読めない。


 アルファベットに似ている。


 記号にも見える。


 幾何学模様のようにも見える。


 俺がそれを眺めていると、ロボットがまた話しかけてきた。


 ロボット「第七管理区。夜間巡回中。質問があれば、照会してください」


 愛斗「……巡回って、俺たちのことか?」


 ロボット「その通り」


 愛斗「俺たちは何に見えてる?」


 ロボット「登録外生命体」


 愛斗「それ以外だと?」


 ロボット「照合不能」


 話が通じているようで、通じていない。


 通じていないようで、最低限は通じている。


 会話としては、なかなか不安定だ。人間相手でもたまにこういうことはあるが、ロボット相手だと冗談にならない。


 瑠香が、小さな声で俺に尋ねる。


 瑠香「……あれ、何?」


 愛斗「見たままだとロボット。見たまま以上のことは分からない」


 瑠香「異世界に来たんだよね?」


 愛斗「たぶん」


 瑠香「剣と魔法の異世界じゃなかったの?」


 愛斗「今回は機械と砂漠の異世界らしい」


 瑠香「そんな日替わり定食みたいに言わないでよ」


 気持ちは分かる。


 剣と魔法の異世界。


 現代日本が王都に書き換えられた世界。


 そして今度は、機械と廃墟の異世界。


 異世界という言葉が便利すぎて、逆に何も説明してくれない。


 俺はもう一度、門の文字を見る。


 読めない。


 日本語でもない。


 英語でもない。


 ラトガリアで見た文字とも違う。


 少なくとも、俺にはそう見えた。


 けれど、アズがマントの裾を握りながら、小さく呟いた。


 アズ「……ふぇ、読める」


 愛斗「読めるのか?」


 アズ「……全部じゃない。でも、少し。古い文字に、似てる」


 アズの声は、不安げだった。


 読めることが嬉しいというより、読めてしまうことが怖い、という響きだった。


 俺の背中にいるネリュアも、目を細めて門の文字を見つめている。


 ネリュア「……少々、見覚えがないこともないのぉ」


 愛斗「どういう意味だ?」


 ネリュア「分からぬ。じゃが、まったく知らぬ理ではない。森の記憶の底に沈んだ、古い残滓(ざんし)に似ておる」


 また分からない言葉が増えた。


 分からないことが増えるのは、つまり情報が増えているということなのかもしれない。


 ただし、情報というものは整理できて初めて役に立つ。


 今の俺の頭の中では、増えた情報が全部、未整理の荷物みたいに積み上がっているだけだった。


 とりあえず、疑問は脇に置く。


 脇に置いた疑問が多すぎて、そろそろ脇腹が痛い気もするが、今は門の中に入るしかない。


 俺たちは、門をくぐった。


 その先には、街があった。


 ただし、俺たちの知っている街じゃない。


 電柱みたいな柱が等間隔に並び、その間を光の管が血管みたいに巡っている。


 建物は半分崩れているのに、内部の照明は点いている。


 壁面には、意味の分からない文字と図形が浮かび、時折それが砂嵐みたいに乱れては元に戻る。


 道は広い。


 舗装もされている。


 けれど、ところどころがひび割れ、そこから金属の根みたいなものが伸びていた。


 街路樹はない。


 代わりに、枝のように分岐した金属柱が立っている。


 その先端で、小さな灯りが脈打っていた。


 電子樹。


 そんな言葉が、頭に浮かんだ。


 そして、その街を歩いているのは人間じゃない。


 全員、ロボットだった。


 二本足で歩くもの。


 車輪で滑るもの。


 小さな箱のようなもの。


 腕だけがやたら長いもの。


 宙に浮いているもの。


 様々な形のロボットが、まるで人間みたいに生活している。


 道を歩き、荷物を運び、店のような場所で立ち止まり、互いに光を点滅させる。


 会話しているのだろうか。


 けれど、その会話は言葉ではない。


 短い音声。


 電子音。


 光の明滅。


 それだけで、彼らは何かをやり取りしている。


 人間の声がない。


 笑い声がない。


 怒鳴り声も、泣き声も、足音すら薄い。


 街なのに、静かすぎる。


 静かな街というより、音を忘れた街だった。


 瑠香が、俺の袖を掴んだ。


 瑠香「……ねえ」


 愛斗「うん」


 瑠香「本当に、人いないの?」


 答えられなかった。


 俺にも分からない。


 分からないが、少なくとも見える範囲に人間はいない。


 ネリュアが、俺の背中でかすかに息を呑む。


 ネリュア「命の匂いが、薄い」


 愛斗「ロボットは命じゃないってことか?」


 ネリュア「分からぬ。ただ、森の理で測れる命ではない」


 アズが、小剣を抱えたまま呟く。


 アズ「……街なのに、こわい」


 その言葉が、一番しっくりきた。


 街なのに、怖い。


 人がいるはずの場所に、人がいない。


 暮らしがあるはずの場所に、暮らしの形だけが残っている。


 それは廃墟よりも、ずっと不気味だった。


 廃墟なら、終わったものだと分かる。


 けれどこの街は、終わっているのに動いている。


 死んでいるのに、歩いている。


 そんな矛盾した気配があった。


 俺は背中のネリュアを支え直し、周囲を見回す。


 ここはどこなんだろう。


 俺たちは、どうしてここに来たんだろう。


 王都になった現代日本から逃げた先が、なぜこんな未来都市の残骸なのか。


 考えれば考えるほど、分からなくなる。


 ただ、一つだけ確かなことがあった。


 この街には、登録という概念がある。


 俺たちは登録外生命体と呼ばれた。


 つまり、登録されているものがある。


 生命体と呼ぶものがある。


 そして、門の文字をアズとネリュアは少し読めた。


 この世界は、まったく無関係な場所じゃない。


 俺たちの知らないどこかで、ラトガリアとも、現代日本とも、何かが繋がっている。


 たぶん。


 いや、たぶんじゃない。


 そうでなければ、ここに来た意味がない。


 意味がないことなんて、世界にはいくらでもある。


 けれど、この一連の出来事が全部ただの偶然だと考えるには、俺たちはもう遠くまで来すぎていた。


 俺は足元の砂を払う。


 そして、前を見る。


 二つの月が見下ろす、赤い空の下。


 人間のいない街の中を、俺たちは歩き出した。


 その時の俺はまだ気づいていなかった。


 門に刻まれていた文字の一部が、俺たちの世界の文字にひどく似ていたことに。


 そして、その街が俺たちを受け入れたのではなく、ただ観察対象として中に入れただけだったことに。

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