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ただの高校生だった俺は、異世界召喚で空間を斬る最強になったのに、帰ってみたら幼馴染が王家の姫になっていた  作者: NOVENG MUSiQ
第3章 赤い空の機械世界と銀色の心臓

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第36話:都市の墓を歩く

 歩き始めてから、どれくらいの時間が経っただろう。


 時計はない。


 空の月も、この世界の時間を教えてはくれない。


 ただ、足の疲れと喉の渇きだけが、時間の代わりに積もっていく。


 やっと廃墟の街が近くなった頃には、もう一つ分かっていた。


 ここは、ただの砂漠じゃない。


 自然にできた砂漠じゃない。


 何かが壊れて、砕けて、細かくなった。


 その果てが、この砂だった。


 砕けた建材。


 壊れた機械。


 破片になったガラス。


 用途も形も分からない人工物の粉。


 それらが混ざり合い、風に削られ、時間に踏み潰されて、この砂漠を作っている。


 俺たちは、巨大な都市の墓の上を歩いていた。


 そう考えた瞬間、足元の砂が急に重くなる。


 ここにあったもの。


 ここで暮らしていた誰か。


 ここで動いていた何か。


 そういうもの全部が、砕けて足元にある。


 そんな想像をしてしまうと、靴裏に触れる砂の感触まで変わった気がした。


 ネリュアが、俺の肩越しに呟く。


 ネリュア「……戦場か。それとも、世界そのものが朽ちた跡か」


 愛斗「分かるのか?」


 ネリュア「分からぬ。じゃが、ここは死に近い。生き物の死ではない。もっと大きなものの死じゃ」


 もっと大きなものの死。


 街か。


 国か。


 文明か。


 世界か。


 どれでも嫌だった。


 けれど、そのどれかである可能性を、今の俺は否定できない。


 瑠香が小さく身震いする。


 瑠香「やめてよ、そういう怖い言い方」


 ネリュア「すまぬ」


 瑠香「謝られると、余計に本当っぽいんだけど」


 愛斗「大丈夫だ。怖いなら俺が適当なこと言って薄める」


 瑠香「じゃあ何か言って」


 愛斗「この砂漠、足腰のトレーニングには向いてる」


 瑠香「最悪の薄め方」


 アズが、ほんの少しだけ笑った。


 音にならないくらい、小さく。


 それでも、笑った。


 この世界に来てから初めて見た、柔らかい表情だった。


 俺たちは、さらに奥へ進む。


 廃墟の向こうに、もう一つ光が見えていた。


 最初は街の灯りだと思った。


 でも、近づくにつれ違うと分かった。


 その光は、暮らしの明かりじゃない。


 温度がない。


 規則的に点滅している。


 一定の間隔で、赤から白へ、白から青へ、そしてまた赤へ戻る。


 監視灯だった。


 その光が照らしているのは、巨大な門だ。


 高い壁。


 金属製の扉。


 扉の表面を這う細い光の管。


 そして、その前に立っている人型の影。


 人間ではない。


 人間の形をしているだけの、別のものだった。


 金属めいた外殻(がいかく)に覆われた身体。


 球体に近い頭部。


 関節の隙間から漏れる薄い青光。


 両腕には、武器らしきものが内蔵されている。


 ロボット。


 そう呼ぶのが、一番近い。


 ただ、俺の知っているロボットよりもずっと複雑で、ずっと実戦的だった。


 優しい未来の象徴というより、未来が優しさを失った後に残った番人、という感じだ。


 俺たちは足を止める。


 距離は、五十メートルくらい。


 ロボットの頭部が、ゆっくりこちらへ向いた。


 見られている。


 目があるのかどうかも分からないのに、そう感じた。


 その頭部に埋め込まれた光が、徐々に明滅を速めていく。


 砂が舞う。


 マントが風に揺れる。


 瑠香が息を呑む気配がした。


 アズが小剣の柄を握り締める。


 ネリュアの腕に、わずかに力がこもる。


 俺は背中のネリュアを落とさないように支え直し、前へ進んだ。


 逃げるべきか。


 戦うべきか。


 分からない。


 けれど、向こうがこっちを捉えている以上、背を向けた瞬間に撃たれる可能性もある。


 だったら、進む。


 馬鹿みたいな理屈だ。


 だが、立ち尽くして砂に埋まるよりはましだった。


 近づくにつれ、ロボットの全身に埋め込まれたライトが点いた。


 赤い光が、俺たちを照らし出す。


 顔。


 手。


 足。


 持ち物。


 ネリュア。


 瑠香。


 アズ。


 俺。


 全部を上から順番に検査するみたいに、光が滑っていく。


 そして、ロボットの頭部から合成音声が流れた。


 ロボット「――登録外生命体、確認」


 低く、平坦な声だった。


 感情がない。


 ただ文字を音に変換しただけの声。


 ロボット「分類不能。危険度、暫定低。第七管理区、入域を許可します」


 愛斗「……許可って、こっちはまだ何も言ってないんだけどな」


 小さく呟くと、瑠香が横から肘でつついてきた。


 瑠香「変なこと言わないで。撃たれたらどうするの」


 愛斗「今ので撃たれるなら、たぶん最初から詰んでる」


 瑠香「そういう冷静な絶望やめて」


 どうやら、少なくとも今すぐ攻撃されるわけではないらしい。


 俺たちが近づくと、ロボットは横へ一歩ずれた。


 巨大な門のロックが外れる。


 音はほとんどない。


 ただ、扉の継ぎ目に沿って青白い光が走り、金属の門が左右へ滑るように開いていく。

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