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ただの高校生だった俺は、異世界召喚で空間を斬る最強になったのに、帰ってみたら幼馴染が王家の姫になっていた  作者: NOVENG MUSiQ
第3章 赤い空の機械世界と銀色の心臓

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第35話:赤い空の下で

挿絵(By みてみん)

 星の代わりに、無数の光が夜空を横切っていた。


 鳥ではない。


 虫でもない。


 規則正しく、一定の速度で、時折ぴたりと止まり、角度を変えてまた滑るように動き出す。あれを俺の知っている言葉で呼ぶなら、たぶんドローンだ。けれど俺の知っているドローンよりずっと静かで、ずっと気味が悪かった。


 赤黒く濁った夜空。


 遠い地平線のあたりだけ、薄く紫が滲んでいる。


 そこに、二つの月が浮かんでいた。


 一つは白く。


 もう一つは、欠けた青色で。


 俺たちは、その二つの月に照らされた砂の上で立ち尽くしていた。


 足元の砂は乾いている。踏むたびに細かく沈み、靴の裏へざらついた感触を返してくる。ただの砂じゃない。ところどころに、砕けたガラスみたいな粒や、錆びた金属片のようなものが混じっていた。


 風が吹く。


 砂だけじゃなく、細かい金属粉まで舞って、頬をかすめた。


 冷たい。


 けれど空気は乾いていて、喉の奥だけが焼けるように痛い。


 視線の先には、未来都市の廃墟みたいな建物が並んでいた。


 半分崩れた塔。


 斜めに傾いた高層建築。


 外壁からむき出しになった管。


 割れた窓の奥で、まだ消えずに瞬いている灯り。


 そこに、人の気配はない。


 誰もいない。


 なのに、電気は点いている。


 何かが動いている。


 まるで、人間だけが抜き取られた世界に来てしまったみたいだった。


 いや。


 みたい、じゃないのかもしれない。


 俺たちは、そこへ向かって歩き出した。


 とりあえず、隠れられる場所が必要だった。


 風を避けられて、休めて、できれば水か食料がある場所。


 欲を言えば、ここがどこなのか分かる場所。


 欲を言わなくても、それくらいは必要だった。必要というのは、つまり、ないと困るという意味だ。ないと困るものが多すぎる時、人間はたいてい何から困ればいいのか分からなくなる。


 今の俺が、まさにそれだった。


 けれど、四人全員がまともに歩ける状態じゃない。


 ネリュアが【(クロノ)(ヴェルデ・)詠環(レクイエム)】を使った代償で、体力をほとんど使い切っていた。


 彼女は平気な顔をしようとしていた。


 けれど、その顔色は砂の白さよりも悪い。


 唇の色も薄い。


 背筋だけはいつもみたいに静かに伸ばしていたが、それが逆に痛々しかった。


 俺はネリュアの前で膝を折る。


 愛斗「……ごめん。乗ってくれ」


 ネリュアは一瞬、目を丸くした。


 それから、困ったように笑う。


 ネリュア「妾は、大事ない」


 愛斗「大事ない奴は、そんな顔で立ってない」


 ネリュア「……お主は、時折ずるいのぉ」


 そう言ってから、ネリュアは小さく息を吐いた。


 そして俺の背に、そっと身体を預けてくる。


 細い腕が、俺の肩に回った。


 軽い。


 あまりにも軽い。


 いや、それだけじゃない。


 ネリュアの身体は、まるで熱を失ったみたいに冷たかった。


 森の精霊。


 悠久を生きる存在。


 そんな言葉とは裏腹に、今の彼女は俺が支えなければ砂の上へ崩れてしまいそうで。


 その冷たさが、背中越しに妙に現実的だった。


 瑠香が、横からそれを見ていた。


 何か言いたそうに口を開いて、けれど何も言わずに閉じる。


 その表情は、怒っているようにも、心配しているようにも、拗ねているようにも見えた。


 全部が少しずつ混ざった顔。


 昔から知っている顔なのに、最近の俺は、その意味をすぐに読み切れない。


 それが少しだけ、胸の奥に引っかかる。


 瑠香「……落とさないでよ」


 愛斗「落とす前提で言うな」


 瑠香「愛斗、たまに無茶するから」


 愛斗「たまにで済んでるなら優秀だろ」


 瑠香「そこ、誇るところじゃないから」


 そう言いながらも、瑠香はネリュアの足元に絡んでいた布を直した。


 強い口調のわりに、手つきはやけに丁寧だった。


 アズは少し前で、小剣を胸に抱えるように持っている。


 彼女は、この砂漠が嫌いみたいだった。


 砂を踏むたびに小さく眉をひそめ、時々鼻を鳴らす。金属と油と乾いた土が混ざった匂いが、彼女の細い神経に引っかかっているのかもしれない。


 アズ「……へんな、砂」


 愛斗「分かるのか?」


 アズ「……うん。砂じゃないのも、混ざってる」


 アズはそう言って、足元を見た。


 月明かりを受けて、砂の中の破片が鈍く光っている。


 まるで星が地面に落ちて、踏み砕かれたみたいだった。


 俺たちはマントで口元を覆い、砂と金属片をなるべく吸い込まないようにしながら進んだ。


 遠くの廃墟を目指して。


 アズが少し前を歩く。


 瑠香は俺の横にいる。


 ネリュアは俺の背中で、時折浅く息をしていた。


 そのたびに、彼女の腕に少しだけ力がこもる。


 ちゃんと生きている。


 それを確かめるだけで、俺は何度も背中へ意識を向けた。


 しばらく歩いたところで、アズが振り向いた。


 アズ「……愛斗、大丈夫?」


 愛斗「ああ。大丈夫だ」


 アズ「……重く、ない?」


 愛斗「ネリュアが聞いたら怒るぞ」


 ネリュア「妾は怒らぬ。少しだけ根に持つだけじゃ」


 愛斗「それ怒るより怖いんだけど」


 瑠香「ていうか、ネリュアさん、そこは否定しようよ」


 ネリュア「否定する力も惜しいのじゃ」


 軽口を交わせる。


 それだけで、少しだけ安心する。


 アズは俺とネリュアを見て、何か言いたそうに目を伏せた。


 そして、小さく口を開く。


 アズ「わたしも、疲れたら……」


 そこまで言って、やめた。


 彼女は自分を抱えるみたいに、小剣を握り直す。


 その刃に、赤い空と青い月が細く映った。


 俺は言った。


 愛斗「心配すんな」


 アズ「……うん」


 愛斗「疲れたら言え。黙って倒れられる方が困る」


 アズは少しだけ迷ってから、こくりと頷いた。


 アズ「……わかった」


 彼女はこの砂漠を嫌がっている。


 怖がっている。


 けれど、ちゃんと自分で考え、自分で歩こうとしている。


 それは強さだ。


 誰かの後ろに隠れることしかできなかった少女が、自分の足で知らない世界を歩いている。


 そう思うと、こんな場所でも、少しだけ嬉しかった。

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