表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただの高校生だった俺は、異世界召喚で空間を斬る最強になったのに、帰ってみたら幼馴染が王家の姫になっていた  作者: NOVENG MUSiQ
第2章 瑠香姫と書き換えられた王都

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/34

第27話:予測通りの屋上

 誰かがこの核を使い、世界を書き換えている。


 そのために瑠香が必要だとしたら――。


 考えるだけで、胃のあたりが冷えた。


 だが、立ち止まる暇はない。


 今はまず、ここから抜けるしかない。


 俺たちは回廊を駆け戻った。


 石の床を蹴る音が、後ろから来る振動に掻き消される。光の筋が壁の中で脈打ち、配管の奥から低い唸りが返る。この地下全体が、巨大な生き物みたいに動き始めていた。


 元の入り口へ辿り着いた時、俺たちはまた別の異常へぶつかった。


 道が、塞がれている。


 扉じゃない。


 石でも、金属でもない。


 何も見えない空間の向こうで、空気だけが不自然に揺れていた。近づくと肌がひりつく。そこに何かがあると、身体の方が先に理解した。


 結界だ。


 ネリュアがすぐ前へ出る。


 指先を見えない壁へ当てた瞬間、琥珀色の瞳がわずかに険しくなった。


 ネリュア「……術式が絡み合っておる。単純な鍵では開かぬ」


 愛斗「壊せるか」


 ネリュア「正面からは難しい。広げるより先に、こちらが捕まる」


 俺は辺りを見回した。


 別の道はない。


 ここで足止めされる。


 そう確信した瞬間、隣から小さな声がした。


 アズ「……こわせる」


 振り向く。


 アズは小剣を握りしめたまま、見えない壁の一点をじっと見つめていた。怯えは残っている。けれど、その目だけは冴えている。


 愛斗「見えるのか」


 アズが頷く。


 アズ「ここ……つなぎめ、ある」


 ネリュアが息を呑んだ。


 ネリュア「なるほどの。構造ごと断つ気か」


 アズは何も言わない。


 ただ、一歩前へ出た。


 俺は道を空ける。


 愛斗「いけ」


 アズは小さく頷くと、床を蹴った。


 一瞬で間合いが消える。


 小柄な身体が跳ね、剣先が空中の何もない一点へ触れた。


 甲高い音が鳴る。


 何もないはずの場所へ、細い亀裂みたいな光が走った。


 アズは迷わず、その裂け目へ剣を差し込む。


 小さな身体からは想像できない鋭さだった。押すでもなく、叩くでもなく、ただ“そこが壊れる場所”を正確に通している。


 結界が揺らぐ。


 空間そのものが、歪むみたいに震えた。


 アズ「……いま!」


 俺は走り出した。


 裂け目は広くない。肩が擦れれば閉じそうなほど細い。だが、通れない幅じゃない。


 俺が先に飛び込み、ネリュアが続き、瑠香が裾を押さえて滑り抜ける。


 最後にアズが剣を引き抜き、そのまま身を翻した。


 結界は、彼女の背中が抜けた直後に閉じた。


 音もなく。


 何事もなかったみたいに。


 だが、助かったわけじゃない。


 すぐ後ろから足音が来る。


 さっきの黒ローブたちか、あるいは別の何かか。確かめる時間はない。


 俺たちは隠し道へ戻り、そのまま走った。


 狭い通路を、肩をぶつけ合いながら進む。息が乱れる。石壁が近すぎて、ひどく息苦しい。けれど城の中へ戻るよりはましだった。


 愛斗「出口は?」


 瑠香が息を切らしながら答える。


 瑠香「屋上……! 外へ抜けるなら、たぶんそこが一番近い!」


 愛斗「行けるのか」


 瑠香「王族用の通路がある……たぶん、まだ」


 たぶん、で走るしかなかった。


 俺たちは隠し道を抜け、城の内側へ躍り出た。


 夜の廊下は静かだ。だが静かすぎる。その静けさの中に、いつ崩れてもおかしくない緊張が張っていた。


 衛兵はいた。


 けれど数は多くない。地下の異常に、まだ全体が追いついていないのかもしれない。あるいは、追いついているからこそ別の場所へ戦力を割いているのか。


 どちらにしても、今は好都合だった。


 俺たちは物陰を縫い、一気に走る。


 敵とまともに戦う気はない。今の目的は勝つことじゃなく、抜けることだ。


 階段を上がる。


 廊下を曲がる。


 瑠香が迷わず道を示し、ネリュアが後方の気配を読み、アズが曲がり角の先へ耳を澄ます。四人の動きが、ようやく一つに噛み合い始めていた。


 やがて、重たい扉へ辿り着く。


 屋上への出口だ。


 瑠香が息を整える間もなく、俺は扉へ手をかけた。


 鍵はない。


 押し開く。


 冷たい夜気が一気に流れ込んできた。


 月が高い。


 雲はない。


 空気が澄みすぎていて、舞台装置みたいな夜だった。


 だが、その屋上の景色を見た瞬間、俺は息を呑んだ。


 周囲に、光の檻が張り巡らされている。


 透明な柱みたいなものが幾重にも立ち、その間を薄い膜が繋いでいた。見えそうで見えない、けれど近づけばたしかに焼かれそうな圧がある。


 ネリュアが低く言う。


 ネリュア「結界……じゃが、地下のものと同系統じゃ」


 その時、背後の扉が開いた。


 振り向く。


 立っていたのは、さっき地下で見た黒ローブの男だった。


 フードで顔は隠れている。だが、声は驚くほど静かだった。


 ローブの男「予測通りです、瑠香姫」


 その一言に、瑠香の肩が強張る。


 男は続ける。


 ローブの男「あなたは、ここへ至る」


 瑠香「……何、言ってるの」


 ローブの男は答えない。


 ただ手の中の金属板をわずかに傾ける。表面を走る術式が明るさを増し、それに呼応するように屋上の結界も脈打った。


 こいつが地下の装置と繋がっている。


 そう思った瞬間、瑠香が懐から魔道具を取り出していた。キュベリエから託された即応用のそれを、震える手で、それでもちゃんと構える。


 瑠香「あなたたちは……何なの」


 答えはない。


 代わりに、男の周囲の空気が冷えた。


 ネリュアが一歩前へ出る。


 ネリュア「問答の相手ではない。愛斗、合わせよ」


 次の瞬間、ネリュアの掌へ光が集まった。


 緑と金の混じる細い光。


 それが結界の一角へ叩きつけられ、小さな裂け目を作る。


 ネリュア「今じゃ!」


 愛斗「行くぞ!」


 俺たちは一斉に走った。


 だが、裂け目は狭い。人が通るには足りない。ネリュアがさらに術を押し込もうとするが、結界の再生の方が速い。


 その時、アズが前へ出た。


 躊躇いはなかった。


 小剣が閃く。


 裂け目の縁を、正確に斬り抜く。


 光の膜が左右へ引き裂かれ、一瞬だけ人ひとり分の幅が生まれた。


 俺が先に飛び込む。


 瑠香の腕を掴み、引く。


 ネリュアが続き、最後にアズが身体を滑らせた。


 その直後、足元が消えた。


 落下感。


 風が耳を裂く。


 屋上の外は、そのまま城壁脇の広場へ落ちる高さだった。だが、ネリュアが咄嗟に風の流れを曲げ、落下をわずかに殺す。


 それでも衝撃は強かった。


 石畳へ着地し、膝に鈍い痛みが走る。瑠香が体勢を崩し、俺が支える。アズは転がるように着地し、すぐ立ち上がった。


 周囲には、まだ結界の残滓みたいな光が舞っていた。


 俺は息を整えながら、城を振り仰ぐ。


 屋上に、もうローブの男の姿は見えなかった。


 その代わり――城全体が、一度だけ大きく脈打った。


 地面の奥から、ごう、と低い音が響く。


 空気が揺れる。


 月明かりの下で、城の影が不自然に伸びた。まるで、見えない何かが城へ触れ、その輪郭を引っ張ったみたいだった。


 ぞっとする。


 あれは、ただの建物じゃない。


 何かが、あの城を通してこの街へ手を伸ばしている。


 俺は仲間たちを見た。


 全員無事だ。


 それだけは確認できた。


 でも、何も終わっていない。


 むしろ、ようやく始まったばかりだ。


 この街は何なんだ。


 なぜ、俺たちの世界がこんなふうに書き換えられている。


 どうして、そんなことが可能なのか。


 分かっていることより、分からないことの方が圧倒的に多い。


 それでも、一つだけはっきりしていた。


 俺たちは、ここで止まれない。


 この歪みを、放っておくわけにはいかない。


 愛斗「……行くぞ」


 短く言う。


 瑠香が頷く。


 ネリュアが静かに目を細め、アズが小剣を握り直す。


 俺たちは城壁の影へ身を滑らせ、そのまま夜の街へ駆け出した。


      ※


 その頃、城の屋上では、騎士団長レオヴァルトが一人で夜を見下ろしていた。


 手の甲に刻まれた印が、まだかすかに熱を持っている。先ほど地下で起きた異常も、屋上の結界の破断も、その印はすべて伝えてきていた。


 レオヴァルトは目を伏せ、小さく呟く。


 レオヴァルト「……予測が、少し外れたか」


 責める響きはなかった。


 失望もない。


 ただ、ずれを確認し、次へ繋げる声音だった。


 彼はゆっくり踵を返す。


 階段へ向かう背中で、大剣が鈍く光った。


 レオヴァルト「鼠が」


 低い声が、夜の空気へ沈む。


 レオヴァルト「どこまでも追ってやろう」


 王都の夜は、まだ深かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ