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ただの高校生だった俺は、異世界召喚で空間を斬る最強になったのに、帰ってみたら幼馴染が王家の姫になっていた  作者: NOVENG MUSiQ
第2章 瑠香姫と書き換えられた王都

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第25話:地下へ続く記録

 一瞬、誰も何を言えばいいのか分からなかった。


 先に口を開いたのは俺だった。


 愛斗「……ここから逃げるだけなら、たぶんできる」


 瑠香が俺を見る。


 その目に、続きを待つ色が浮かぶ。


 愛斗「でも、それだけじゃ足りない」


 ネリュアが静かに目を細めた。


 アズは小剣の柄へ指をかけたまま、じっと耳を澄ませている。


 愛斗「ここまで来たなら、少しでも手掛かりを持って出たい」


 この世界がどうしてこうなったのか。


 なぜ瑠香が“姫”になっているのか。


 なぜ俺たちだけが元の記憶を残しているのか。


 何一つ分からないまま逃げても、また捕まるかもしれない。もっと別の形で呑まれるかもしれない。


 瑠香は迷わなかった。


 瑠香「……うん。私も、そのつもりで来た」


 それから彼女は、小声でここ数日のことを話した。


 城の中で見たもの。


 書き換わった街。


 両親の姿。


 知り合いによく似た人たち。


 この城の中に、元の家の構造が残っていること。


 衛兵の交代時間。


 人通りの薄くなる場所。


 隠し道の位置。


 ネリュアはその話を黙って聞き終えてから、小さく吐息をこぼした。


 ネリュア「なるほどの……ここは単なる王城ではない。お主らの世界の骨へ、別の歴史を纏わせておる」


 愛斗「地下に何かあると思うか」


 ネリュア「ある。でなければ、ここまで露骨に理が捻じれはせぬ」


 アズが、かすかな声で言った。


 アズ「……した」


 愛斗「下?」


 アズは頷いた。


 アズ「へんな、ながれ……した、いってる」


 構造の癖を感じ取っているのだろう。怯えてはいるのに、こういう時だけは妙に確かだった。


 俺は全員の顔を見た。


 愛斗「地下を見に行く」


 瑠香がすぐ頷く。


 ネリュアも、異論はないと目で答えた。


 アズは小さく息を吸ってから、俺の袖の端をつかむ。それが彼女なりの「行く」の返事だった。


 俺たちは通路を進み出した。


 瑠香が先頭に立つ。何度か分かれ道があったが、彼女はほとんど迷わなかった。元の家の感覚と、今の城の構造を重ねて道を読んでいるのだろう。


 やがて通路は少しずつ広くなり、古い石室みたいな場所へ出た。


 牢獄ではない。


 棚が並んでいる。巻物、綴じた書類、箱、金属板。埃は積もっているが、完全に放置されているわけでもない。記録庫か、保管室の類だとすぐに分かった。


 俺は一番近い棚へ手を伸ばした。


 紙の手触りが違う。羊皮紙みたいなざらついたものもあれば、妙に薄く均質なものもある。インクの匂いも混ざっている。古い城の記録庫のはずなのに、そこへ現代の何かが紛れ込んでいる感覚があった。


 ネリュアが俺のすぐ後ろへ寄る。


 狭いせいで、吐息がかすかに首筋へ触れそうになる。意識しない方が難しい距離だったが、今は振り返らなかった。


 瑠香は別の棚を探り、アズは入口近くで周囲の気配を見張っている。


 その中で、俺の指先が奇妙なものへ触れた。


 プラスチックのカード。


 キーホルダー。


 ボールペンの軸。


 現代日本なら何でもない、ありふれたものだ。


 なのにここでは、それらが雑多な“異物”として箱へ放り込まれていた。


 まるで元の世界の断片が、ここではごみか資料の一部みたいに扱われている。


 嫌な感じがした。


 さらに漁ると、一枚の紙が目に留まった。


 羊皮紙のように見えて、裏側へ細い線が規則的に走っている。古いのか新しいのか、一目じゃ判別できない。


 それを広げる。


 地図だった。


 王都の地図。だが、ただの地図じゃない。通りと区画のほかに、細かな数字、見慣れない記号、そして城の地下へ集まるような線が何本も引かれている。


 俺はそれをネリュアへ見せた。


 ネリュアが目を細め、指先で線を追う。


 ネリュア「……座標、いや、流れの記録か」


 愛斗「分かるのか」


 ネリュア「完全には分からぬ。じゃが、この線は下へ集まっておる。城の地下に何か核のようなものがあるのは、まず間違いない」


 瑠香が別の書類を手にして、息を呑んだ。


 瑠香「これ……」


 受け取って見る。


 そこには、短い記録が記されていた。


『瑠香姫、深夜無断離宮』


 日付は、俺たちが異世界から戻ってきた日と一致していた。


 喉の奥が冷たくなる。


 つまり、この世界では、最初から“瑠香姫が夜に城を抜け出していた”ことになっている。


 俺たちが現れたせいで、後から辻褄を合わせたのか。それとも、俺たちが戻る前から、世界の方がそういう履歴を用意していたのか。


 どちらにしても、気味が悪すぎた。


 瑠香も黙っていた。


 自分の名が、自分の知らない履歴の中で使われている。その気持ち悪さは、たぶん俺が想像するよりずっと重い。


 俺は紙を畳み、懐へしまった。


 愛斗「……行くぞ」


 誰も異論を挟まない。


 記録庫を出て、さらに奥へ進む。


 通路は少しずつ冷えていった。壁の一部には、淡い光の筋が走っている。血管みたいに見えた。城の内側で、何か別のものが脈打っている気配があった。


 階段が見える。


 下へ続く、暗い階段だ。


 瑠香が一歩目をかける前に、俺は彼女の肩へそっと手を置いた。


 瑠香が振り向く。


 愛斗「怖かったら、言え」


 瑠香は一瞬だけ目を丸くして、それから小さく笑った。


 瑠香「……愛斗こそ」


 その返しに、少しだけ肩の力が抜けた。


 ネリュアが静かに先を見据え、アズが俺の袖を掴み直す。


 四人で、階段を下り始めた。


 光は、下へ行くほど濃くなる。


 冷たい石の匂いの奥に、鉄とも花ともつかない妙な匂いが混じっていた。


 この先に、何かがある。


 俺たちはもう、それを疑っていなかった。

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