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ただの高校生だった俺は、異世界召喚で空間を斬る最強になったのに、帰ってみたら幼馴染が王家の姫になっていた  作者: NOVENG MUSiQ
第2章 瑠香姫と書き換えられた王都

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第24話:格子越しの再会

 穴の向こうで、瑠香が俺を見ていた。


 最初は、ただ呆けたみたいな顔だった。次の瞬間には、驚きと安堵と、それでもまだ消えきらない緊張がいっぺんに滲む。暗がりの中でも、その目だけははっきり分かった。


 俺たちは、しばらく何も言えなかった。


 ようやく会えたはずなのに、間にあるのは細い穴と、古い格子と、石の壁だ。手を伸ばせば触れられるようでいて、ほんの少し届かない。その距離が、妙に生々しかった。


 瑠香「……ちゃんと、生きてたね」


 愛斗「そっちこそ」


 たったそれだけのやり取りだった。


 なのに、胸の奥で張っていたものが少しだけ緩む。


 瑠香「無事で、よかった」


 声の端がかすかに震えていた。


 泣きそうなのを堪えてるんだろう。でも、拭う余裕も、隠すつもりもないらしい。そこが、妙に瑠香らしかった。


 俺は反射的に手を伸ばしかけて、途中で止めた。


 格子の幅じゃ、指先さえろくに通らない。頬に触れるどころか、触れようとした動きだけが、みっともなく宙に残る。


 けれど瑠香は、それを見て少しだけ笑った。


 瑠香「……手伝って」


 愛斗「ああ」


 瑠香はポケットから、小さな鍵を取り出した。


 それがどこの何を開ける鍵なのか、わざわざ説明はしない。ただ、見せて、すぐに握り直す。その仕草だけで十分だった。


 瑠香「助けに来た。でも、今夜じゃない」


 愛斗「……ああ」


 瑠香「次の鐘のあと。そこが、一番見つかりにくい」


 迷いのない声だった。


 何度も考えて、ちゃんと準備して、それでここまで来たのだと分かる。勢いで飛び込んできた顔じゃない。


 俺は頷いた。


 愛斗「待ってる」


 瑠香も、小さく頷き返す。


 それだけで話は終わった。


 でも、それでよかった。ここで下手に言葉を重ねる方が危ないし、たぶん、俺たちにはそれで足りた。


 瑠香は最後にもう一度だけ俺の顔を見て、それから身を引いた。


 細い穴の向こうで、青いドレスの気配が闇へ溶けていく。


 こんな狭い道を、その格好でここまで来たのかと思ったけれど、今はそれを言う暇もなかった。


 俺は牢の中へ戻り、ネリュアとアズに短く事情を伝えた。


 ネリュアは静かに頷く。


 ネリュア「よく来たものじゃ」


 アズは少しだけ目を見開いて、それから胸元の小剣を抱え直した。


 アズ「……るか、きた」


 愛斗「来た。しかも、ちゃんと助ける気でな」


 アズはそれ以上何も言わなかったが、ほんの少しだけ身体の強張りが緩んだ気がした。


 そこからは、長かった。


 待つだけの時間は、妙に長い。一秒ごとに石の壁が重くなっていくみたいだった。


 それでも、焦りはしなかった。


 焦って音を立てれば終わる。今はただ、鐘を待つしかない。


 やがて夜が来た。


 牢の中の空気が少しずつ冷えていく。外の巡回も、どこか鈍る。交代の気配。遠くで鳴る足音。低い話し声。城全体が、昼とは別の呼吸へ変わっていく。


 そして、鐘が鳴った。


 長くは響かない。


 けれど、その余韻が消えるより早く、壁の向こうで石を擦るような音がした。


 俺は穴の前へ寄る。


 暗い奥から、小さな明かりが近づいてきた。強い光じゃない。布で覆った灯りか、魔道具の類か。揺れ方に人の手の気配がある。


 次の瞬間、穴の向こうへ瑠香の顔が現れた。


 愛斗「来たか」


 瑠香「来たよ」


 息が上がっている。


 でも、その目はちゃんとしていた。


 狭い通路の中で、それでも瑠香は笑った。無理に作った笑顔じゃない。緊張で硬くなった空気を、自分から少しだけほぐそうとする時の笑い方だった。


 瑠香「……なんか、ほんとに助けに来ちゃった」


 愛斗「おう」


 瑠香「自分でもちょっと信じられない」


 愛斗「俺は、割と信じてた」


 その言葉に、瑠香の頬が少しだけ赤くなった。


 そして次の瞬間、勢いのままこっちへ身を寄せかけて――狭さを思い出したのか、途中でぴたりと止まる。


 瑠香「あ、危な……」


 小さく自分で言って、自分で照れている。


 それが少し可笑しくて、思わず口元が緩んだ。


 その気配を察したのか、ネリュアが後ろで小さく息をついた。アズも、ほんの少しだけ表情を和らげている。


 瑠香は咳払いを一つして、鍵を取り出した。


 瑠香「……開けるね」


 それから、俺だけじゃなくアズの方も見た。


 瑠香「アズも、一緒だよ」


 アズの肩がびくっと揺れる。


 瑠香と目が合う。アズは逃げそうになって、でも逃げなかった。小剣を抱えたまま、その場で固まる。


 俺はアズの肩を軽く叩いた。


 愛斗「大丈夫だ」


 アズは俺を見て、次に瑠香を見て、ごく小さく頷いた。


 瑠香はその反応を待っていたみたいに、やわらかく笑う。


 鍵が差し込まれる。


 古い錠前が、最初は嫌がるみたいに重く鳴った。だが、次の瞬間、小さな手応えと一緒に固い音が返る。


――カチャリ。


 格子が開いた。


 その瞬間、向こう側の空気が一気に流れ込んでくる。埃と冷気と、古い木材の匂い。牢の内側とは違う、元の家の骨組みが残っている場所の空気だった。


 俺たちは順に、牢の外へ出た。


 瑠香。


 俺。


 ネリュア。


 アズ。


 狭い通路の中へ四人分の気配が集まる。肩と肩が触れそうなくらい近い。石壁がすぐ横にあり、天井も低い。立っているだけで息が詰まりそうなのに、不思議と嫌じゃなかった。


 やっと、四人が同じ場所へ戻ったからだ。

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