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43 手がかりと推理


 ユミエの鉛矢をくらったゾンビはそれでも動きを止めなかった。

 ちぎれた下半身を引き寄せて再びひとつになり、よろよろと立ち上がる。


「嘘でしょ!? 胴体ぶち抜いても死なないとかアリ!?」


「ユミエさん、そもそもアンデッドはとっくに死んでいますよ。それがアンデッドというものです」


「御託はいい。おいランズ、魔物学者ならなんかいいアイデア出せよ。こいつらキリがねえぞォ!」


「学者ではありません。学者志望ですよ、僕は!」


 残骸の雑兵たちはいくら打ち崩しても際限なく立ち上がった。

 このままでは疲弊するばかりだ。

 ユミエやドワーフトリオはまだ涼しい顔をしているが、グラーシュたちは早くも額に玉のような汗を浮かべている。

 そう長くはもたないだろう。


『……ん?』


 そもそも、どうして補助役の私たちが最前線に出ているのだろう。

 私は犬の頭部を載っけた鎧を蹴り倒してから背後を振り返った。

 そこには、ロズフィールとハーレムの美女たちが悠然と佇んでいた。

 まるで、酔っ払い同士の喧嘩でも眺めるみたいに高みの見物を決め込んでいる。

 剣を構えるどころか、抜くことすらしていない。

 壁に背をあずけて、あくびする始末だ。


「ちょっと、あんたぁ! アタッカーでしょうが! 前に出なさいよ、バカなの?」


 ユミエがキレた。

 当然だ。

 しかし、ロズフィールはどこ吹く風である。


「ボクはたしかにアタッカーだね。でも、同時に司令塔でもある。指揮官というものはね、一番後ろに構えて戦況を観察するものなのだよ」


 将軍ならばその意見も通っただろう。

 しかし、ロズフィールは言うなれば現場指揮官だ。

 一番後ろどころか最前線で引っ張ってこそ現場指揮官であろうに。


「手が足りないんだから動きなさいよ、あんたも!」


「補助役のキミたちが代わりにアタッカーをすればいいじゃないか。これも、サポートのうちさ」


「じゃあ、あんたの手下の女どもを貸しなさいよ!」


「キミが代わりにボクの相手をしてくれるなら考えてもいいよ。ふふん!」


 ロズフィールにはまったく動く気配はない。

 それでも、あいつは迷宮主を討伐したらその手柄を独り占めするのだろう。

 絶対にそうする。

 ロクでもない奴だ。


「あんたから先にぶっ倒してやろうかしら!」


『まあまあ、落ち着きなって。ユミエだってアタッカーをやりたがっていたでしょ』


「やらされんのは気に食わないわ。なんで、あたしが動いてんのに、後ろで楽してる奴がいんのよ。不公平じゃないの。あたしが楽してあいつが苦労すべきだわ」


 ユミエの性格がよく表れたセリフだった。


「諸君、指示が欲しければボクに頼むといい。頼み方次第で考えてあげてもいいよ」


「誰があんたなんかに頼み事をするってのよ!」


「そうだぞい! これだからエルフは好かん!」


「まったくだぞい!」


「ぞいぞい!」


 ユミエとドワーフトリオが息を合わせている。

 ……かに思えたが、


「黙りなさいよ、ドワーフ!」


「うるさいぞい、エルフの小娘が!」


「はあ? あたしのほうが年上ですけどぉー?」


「それにしては、ガキのようなツラしおってからに」


「ぞぞい!」


 ホンット、最高の組み合わせだよ……。

 ギルドの首脳陣は何を見てこのメンツを選んだのだろう。


 腐っても精鋭3班だ。

 こんな有様でも残骸兵団を圧倒している。

 向こうは向こうで少年漫画じみた不屈の精神で立ち向かってくるけれど。


「へーい誰かー! なんかいいアイデアないのぉ?」


 ユミエが宙をふわふわしながら呼びかけた。

 手を挙げたのは意外な人物だった。


「名案と呼べるかはわかりませんが、僕がいいものを持っていますよ」


 ランズだ。

 彼は腰のポーチから巻物を取り出すと、丸眼鏡をチャキリと正した。


「これには少しばかり強力な聖魔法が封じられているんです。値が張るので使いたくはなかったのですが、今が使いどころでしょう」


 聖魔法は、対アンデッド用の魔法だ。

 ナメクジに塩だ。

 特効薬と言っていい。

 人一倍ヒョロいランズがなんだか頼もしく見える。


「よこせ!」


 ロズフィールがここぞとばかりにしゃしゃり出てきて、スクロールを奪い取った。

 封を切って紙面を広げると、前髪をナルっぽく払って言う。


「さあ、この茶番もここまでだ。ボクの魔法をもって終幕とさせてもらおう」


 ホントいい性格しているよ。

 いいとこ泥棒め。

 ハーレムの子たちも含めて居合わせた全員がそう思ったと思う。


 紙面から若葉色の強烈な光が放たれた。

 青々と生い茂った大樹の下で木漏れ日を浴びながらうたた寝しているような、そんな心地よい光だ。

 これなら、どんな悪霊もたちどころに天へと召されるだろう。


 残骸の雑兵が糸を切られたあやつり人形のようにバタバタと倒れていく。

 勝負あった。

 と私は思った。

 しかし、光が弱まると、残骸兵たちは再び立ち上がった。

 まるで何事もなかったかのように押し寄せてくる。


「おい! どうなっている!? ロクに効果がないじゃないか!」


 赤っ恥をかかされたロズフィールがランズの胸ぐらを掴んだ。


「お前、さては光るだけの偽物を掴まされたな」


「お、落ち着いてください、ロズフィールさん! 術はしっかりと発動していました。それがわからないあなたではないでしょう?」


 私も同意見だ。

 あの光からは強い魔力を感じた。

 アンデッドには詳しくないが、スクロールに不備があったとは思えない。


「じゃあ、なぜだ! 言え! このボクにくびり殺されたくなかったらな!」


 ランズの足が地面を離れた。

 ロズフィールの奴、細いくせにかなりの剛力らしい。


「可能性として考えられるのは、ひとつです。あいつらはアンデッドではない。だから、聖魔法の効果が薄い。おそらく、そんなところです」


「クソがッ!」


 石床に叩きつけられたランズがゴホゴホとむせ返る。


『災難だったね。立てる?』


「お気遣いありがとうございます、タクナさん。でも、僕のことより、あの残骸どものことを考えてください」


 ランズはずり落ちた丸眼鏡をかけ直した。


「少なくとも、これで敵がアンデッドではないということがわかりました。何か手がかりになればいいのですが」


 アンデッドではない、か。

 つまり、あの動く鎧は死霊に憑依されているわけではないということだ。

 なのに、どうして動けるのか。

 それは私自身が答えみたいなものだろう。


『たぶん、迷宮主がスキルで操っているんだ』


 憑依型か、あるいは念動型か。

 いずれにしても、どこかに術者がいて、なんらかの魔法で操っていると見るのが妥当だろう。

 私と同じで本体は安全な別の場所に隠れているのだ。

 そして、こういう場合、本体は雑魚と相場が決まっている。

 私がまさにそうだからだ。


『術者を探そう。本体を叩けばゲームセットだ』


 探すも何も、このボス部屋に隠れられるところはほとんどない。

 私は上を見上げた。

 石室の天井は闇に覆われていて何も見えない。

 何かがいるとすれば、あそこだろう。


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