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41 開門


 私は大戦斧を肩に担ぎ、左手で日本刀の鞘を握り締めた。

 弓の調子を見ていたユミエが満足げにうんと唸る。

 グラーシュとランズもいつでも行けそうな顔をしている。


『ユミエルフィーナ・パーティー、準備OKだよ』


「それでは、伝説の幕を上げようか」


 ロズフィール以下ハーレム部隊も準備万端整っているようだ。


「打ち合わせどおり、わしらのパーティーが前衛を務めるぞい!」


「気張っていくぞい!」


「ぞぞい!」


 ドルッフとドレッフとドロッフ(見分けはつかない)が手斧と盾を打ち鳴らして火花を散らした。


「ンン開門ン――!!」


 ナルシな号令に合わせてハーレム軍団が黄薔薇を振りまく。

 ハアンと心地よさそうな吐息を漏らし、ロズフィールは薔薇吹雪の中で舞い踊っている。


『うちの隊長、だいぶキツいね』


「ホントだわ。何食ったらあんな壊れ方すんのよ」


 私とユミエほか、居合わせた冒険者たちが揃ってげんなりする。

 もう少しこう、士気を上げるとかできないものだろうか。


 そうこうしているうちに、朱塗りの門扉が左右に滑り始めた。

 隙間から吹き出してきたカビ臭い風を真っ向から受けて、私は鼻が曲がりそうな気分になった。


 中は体育館ほどの広さの石室だ。

 鎧やら武器やら魔物の死骸やらが石畳の上に散乱している。

 しかし、ボスっぽい奴の姿は見えない。


「透明化する奴もいるわ。油断しちゃダメよ」


 言われるまでもない。

 どこかに何かが必ずいる。

 そんな雰囲気がビンビンに感じられる。


「それでは、討伐作戦を開始する。さあ、行きたまえ、ドワーフの諸君」


 ロズフィールに尖った顎で指図され、『筋紺漢魂キンコンカンコン』の3人が悪態をつきながら前に出た。


「3・2・1で行くぞい!」


 いよいよプレイボールだ。

 私は戦斧をギュッと握り込んで息を落ち着かせた。

 汗腺なんてあるはずもないのに、手汗が出まくっている気がする。


「「「うらあああああああああ!!」」」


 突然。

 本当に突然、ドワーフトリオが咆哮を轟かせて石室に突撃していった。

 ウラー突撃だ。


『「3・2・1は!?」』


 私とユミエがツッコミをシンクロさせる。

 そういえば、ドワーフがテキトーな種族だということを忘れていた。

 奴らは女の子にうっかり男名をつけるような連中だ。

 3を数えるような高尚な真似などしないのだ。

 行こうと思ったそのとき、行くのである。


「チッ、腐れドワーフどもが」


「まったくだわ。これだからドワーフは」


 水と油に思えたロズフィールとユミエがドワーフ憎しで息を合わせている。


『呆れてないで私たちもいくよ!』


 ボス部屋に飛び込む。

 濃密な空気が薄絹のように体にまとわりついてくるのを感じる。

 ギゴゴゴゴ、と音がして門扉が閉まり始めた。

 控えの冒険者たちが木製のつっかえ棒を挟んで退路の確保を試みたが、門は油圧式の粉砕機じみたパワーでつっかえ棒を木っ端微塵にした。


「すまねえ! 後は任せるぜ!」


「討伐隊の健闘を祈ります!」


 左右の門扉がどごーんとぶつかり合い、控えの冒険者たちも外の景色もまったく見えなくなってしまった。

 退路は絶たれた。

 迷宮主を倒すまでこの門扉が開くことはない。

 あるいは、私たちが全滅するまでだ。


『……』


「………………」


「…………」


 張り詰めた雰囲気の中、私たちはすり足で歩を進めた。

 散乱している残骸には魔物の骨以外にも冒険者らしきものもある。


「このご遺体はまだ死後1週間といったところでしょうか」


「名誉欲しさに先走ったバカがくたばっちまったんだなァ」


「こいつら、見覚えがあるわね。たしか、聖二級パーティーだわ。このクラスの冒険者で歯が立たないなら、ここの主はかなりの強敵みたいね」


 わんわんと響く声が不気味さを際立たせる。

 鎧の中で複雑に反響した私の声に似ている気がした。


 いつどこから何が飛んでくるか。

 最初に悲鳴を上げることになるのは誰か。

 そんなことを考えながら歩いているうちに、石室の一番奥までたどり着いてしまった。

 ダンジョンの奥へと続くであろう別の門がそびえ立っている。

 いちおう押してみたが、ビクともしなかった。

 そして、時間だけが過ぎていく。


『何も起きないね』


「透明化の線もないわ。音の響きに違和感はないもの」


 このまま何も起こらないでくれたら嬉しいのだが、私の期待は小さな物音によって裏切られた。


 キィィ――。


 金属音だ。

 石畳に金具をこすりつけるような音。

 音の出処はすぐに判明した。

 篭手だ。

 鎧の前腕部分。

 それが、見えない糸で引かれるように石畳を滑り、近くに転がっていた鎧の上腕部分と重なった。


「ぞいあああああああ――ッ!!」


 先手必勝。

 ドルッフが手斧を叩きつけた。

 いや、ドルッフかどうかは不明だが、とにかく、繋がりかけた腕部は再びバラバラになった。

 いい判断だと思う。

 出鼻をくじけば、戦闘の主導権を握ることができる。


 キィ、キキ――。

 ズズズ……。


 今度は残骸が一斉に動き出した。

 私は胴体と繋がりかけていた魔物の頭蓋骨を蹴飛ばしたが、転がっていった先で冒険者の胴体と繋がってしまった。


 ははーん。

 これは床に散らばった魔物や冒険者の亡骸がひとりでに動き出して襲いかかってくるヤツだな。

 という私の予想は見事に的中し、デタラメに組み合わされた残骸が武器を持って次々に立ち上がった。


『これさ、死んだ味方があんなふうに動き出して襲いかかってくるパターンだよ。みんな死なないようにしようね』


「そんなマヌケはあたしの矢で永眠させてやるわよ!」


「ぞい! 腐れエルフのくせにいいことを言いよるわい!」


 ロズフィールが黄薔薇を指揮棒のように振るった。


「さぁて諸君、掃除してくれたまえ!」


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