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35 戻ってきた青空


 吹雪続きだったドシュネーに青い空が戻ってきた。

 レイエルのトンチキ魔法がようやく効果切れになったらしい。

 気温がぐっと上がって過ごしやすい陽気となった。


 しかし、一日中青空というのもこれはこれで考えものだ。

 雪に反射した陽光でひどく目が痛む。

 ずっとしかめっ面では小じわができてしまうので、結局私はこたつの住人となるのだった。


 やはり、こたつだ。

 こたつさえあれば私はほかに何もいらない。


「タクナ! ねえ、タクナ!」


 暖炉の火を見ながらぐでぇっとしていると、シロが尻尾を振ってやってきた。


「レイエルが光魔法、教えてくれた!」


 まばゆい笑顔でそう言う。

 よく見れば、角が蛍光灯のように発光しているではないか。

 なんだろう、すごいとは思うけれど、ビジュアル的に馬鹿っぽさのほうが際立ってしまっている。

 100均にああいうハロウィングッズが売られていたなぁと思い出す。


 どうせなら光る輪っかを頭の上に浮かべればいいのに。

 翼もつければ天使っぽくて可愛いだろう。

 ケモ耳・角・天使の輪。

 頭の上が装飾過多の天使だ。

 やっぱり馬鹿っぽいか。


「タクナ、シロシッポにはやはり魔法の才能があるぞ」


 レイエルが土間で靴を脱ぎながら言う。

 彼はここのところ毎日のようにウチを訪ねてきていた。

 シロの教育のためだと言ってはいるが、こたつに入っている時間のほうが長い気がする。


「魔法回路が未熟なうちからこれほどうまく魔力を操れるとは。さすがにタクナが産んだだけのことはあるな」


 産んだとか言うな。

 こたつの中で向こうずねを蹴ってやった。


 ドンドンと玄関のほうからノックの音がする。

 客か。

 あるいは、礼儀のいい熊という線も考えられる。


「俺が出よう」


 レイエルが漢気を見せてくれた。

 客に客の歓待をさせるわけにもいかないので、私も玄関に向かう。

 二重の扉を開くと、そこにはレイエルが立っていた。

 つまりはギルである。


「げ、お前、また来たのかよ……」


 兄のほうが不快げな顔をした。

 弟のほうはすまし顔だ。


「要領よく飛べば3刻ほどでつく距離ですので。ああ、お兄ちゃんに会いに来たわけではありませんよ? 私はタクナの顔を見に来たのです」


「もう見ただろ。ほら、さっさと帰れ。タクナからも何か言ってやれ」


「ギル、前に頼んだもの持ってきてくれた?」


「もちろんだ。小麦粉、調味料、香辛料。そのほかにも町でないと手に入らないものを背嚢に入るだけ持ってきた」


「大歓迎するよギル。私、ギルのこと世界で一番好きだね」


「ぐは……」


 レイエルが膝から崩れ落ちた。

 しばらく、そうしていればいい。


 こたつでくつろぐギルを尻目に、私はたぬきのような節操のなさで背嚢を漁った。

 20kgはあろうかというズタ袋の中には白い粉がぎっしりと詰まっている。

 小麦粉だ。

 テンション爆上がりだ。

 米なら宙返りするほど喜んだと思うけど、文句などこれっぽっちもない。


「シロ、今度うどんを食べさせてあげるね!」


「うどん? それって肉入ってる?」


「好きなだけ入れてやるとも!」


「肩揉んでやるっ!」


 シロが擦り寄ってきて肩揉みを始めた。

 ご機嫌を取っているつもりらしい。

 現金な奴だ。


「紅茶を淹れたぞ。茶菓子もある」


 ギルが私の前にティーカップをコトリと置いた。

 紳士的だから執事っぽく見えてしまう。


「遠慮なくいただくよ」


 紅茶なんて転生して以来初めてだ。

 冷めるのを待ってひとくち飲んでみる。


 ……おいしい。


 こんなに香り高く、味わい深いものだなんて思わなかったな。

 茶菓子も最高だ。

 シロがすごい勢いで食べているから、この後、茶菓子を巡って私とシロの間で戦争が起きるかもしれない。


 鎧でも食べられたらいいのに。

 残念無念。


「我が冒険者ギルドは週明けにも特別依頼を発令する。依頼などというが実質的には出動命令だ。ギルドが指名したパーティー及び冒険者には強制力をもって参加してもらうことになる」


 ひと通り世間話をした後で、ギルがそう切り出した。


「依頼内容は新しく見つかったダンジョンの攻略だ。雪解けにより入り口が露出したのだが、それまで山だと思っていたものが丸々ダンジョンでな。最近発見されたものの中では大規模なものと言える」


 それはまた好奇心をくすぐられる話だ。

 お宝の匂いがプンプンである。

 すぐに食いついては足元を見られそうなので、私は平静を装った。


「いいの? 私が先に聞いちゃって。それまだリリース前の情報なんでしょ。不公平にならない?」


「むしろ公平だ。もう町の冒険者たちにはなんとなく話が伝わっているからな」


 そういうことなら気兼ねなく話を聞かせてもらおう。


「タクナにも主要な役割を任せる気でいる。お前は何があっても絶対に死なない駒だからな。使いやすいのだ。悪いな」


「いいや、その使い方は正解だよ。ばんばん使っちゃってくれ」


 ギルはちょっと変なところもあるけど、ギルマスとしては有能なのだろう。

 私の真価をよく理解してくれている。


「詳細は後日話す。準備だけはしておいてくれ」


 戦闘に備えておけ、という意味で受け取った。

 ドンダーフのひげヅラが脳裏をよぎった。

 そういえば、日本刀を作ってくれとオーダーしたまま顔を出していない。

 そろそろ出来上がっているはずだ。

 明日にでも工房に足を運ぼう。


「ダンジョン攻略か。懐かしいな」


 レイエルがぽつりとつぶやく。


「レイエルもダンジョン探索やってたんだね」


「探索というより破壊だな。魔王治世下のダンジョンは凶暴な魔物を生み出す苗床だった。ひとつひとつ最深部まで潜り込んでコアを破壊しなければならなかったから難儀したものだ」


 苗床か。

 巣穴からアリのように魔物があふれてくるのを想像して戦慄を覚えた。

 泰平の世に生まれてよかったとつくづく思う。

 まあ、魔王が健在でもこんな辺境地には目もくれないと思うが。


「シロも冒険したいかい?」


 大人の難しい話においてけぼりを食らっているシロに話を振った。

 反抗的な目が挑むように睨めつけてくる。


「したくないし、そんなもん」


「おお? シロくんは魔物が怖いのかなぁー?」


「はぁー? 別に怖くないし」


 シロはほっぺを膨らませて背を向けた。


「僕、ダンジョンになんかいかない。タクナ、弱っちいから僕がいなきゃすぐやらちゃうし。だから、ここでレイエルと魔法の稽古する」


 あー、それは、つまりこういうこと?

 僕がタクナを守る、――と。

 やだ。

 小さな背中が急にひと回り大きく見えてきた。

 翼はないけれど、頼もしい背中だ。


「レイエル、もっと魔法教えて」


「よしきた。だが、ギルを追い払うのが先だ。しばらくコウルベールから出られないくらいには痛めつけてやらないとな」


「ほう。では、決闘で白黒つけましょう、お兄ちゃん。久しぶりに本気を出せそうです」


「おーし、お前ら全員出てけー」


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― 新着の感想 ―
イケメンでギルマスなのにお兄ちゃん呼びがなんか可愛い(^_^)
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