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36 日本刀レビュー


 翌日。

 私は朝イチで『よろず鍛冶屋ザコボワリ』を訪ねた。

 ユミエも一緒だ。

 ゆえに、ドンダーフはひどく険悪な顔をしていた。


「おう、失せやがれい。このド腐れヒョロガリエルフが」


「なによ? それが数少ない常連へのセリフなの? あーあ、客が寄り付かないわけだわー」


 お互い憎まれ口を叩いているのに、なんだか和気あいあいとしているようにも見える。

 喧嘩するほど仲がいいとはこのことだ。


『頼んでいたもの、できてる?』


「おう、とっくに完成しとるわい」


 ドンダーフは一度工房の奥に引っ込んでから細長い大風呂敷を担いで戻ってきた。

 それは、陳列棚に置かれるとドゴンと重そうな音を立てた。

 シルエットは注文通りの日本刀だ。

 しかし、この重たげな雰囲気はなんだろう。


「開けてみろい」


『ではでは、遠慮なく』


 いざ、御開帳。

 結び目を解き、大風呂敷をダバッと広げる。


『ほっほう!』


 それは、まさしく日本刀だった。

 朱い竜革の柄巻きに雪の結晶をかたどった鍔。

 金細工を施した黒塗りの鞘。

 いささか和洋折衷感はあるものの、紛れもない日本刀だ。

 心臓もないのに私の胸は高鳴った。


 さっそく持ってみる。


『重っも……』


 私の知る日本刀は1kgチョイのはずだが、これは明らかに10kg後半はある。

 鞘は木製のようだから、重いのは刀身か。


 私は鞘から魔物でも飛び出してくるんじゃないかと身構えつつ、刀を抜き放った。

 真っ黒だった。

 刀身は黒一色。

 そこに、光の反射で波打つ刃文が浮かんで見える。

 夜の海に白いさざ波が立っているみたいだ。

 静かで美麗な刀だった。

 私とユミエは揃って息を呑んだ。


『これ、暗黒金剛ブラック・アダマンタイトだね』


 斧と同じ超重量級金属で、武具の素材としてはトップクラスのレア度らしい。


「おう、そんで芯金には古・白龍石を使っとる。冒険者が好んで使う剣と比べりゃ小枝のように細いが、万に一つも折れることはねえ。同じ材質のものでも斬らん限りは刃こぼれすらせんぞい」


 それほどの頑強さに加えて、この重量感だ。

 こんなもので斬りつけられたらドラゴンの頭ですらクス玉のようにパカンと割れるに違いない。


 私は胡乱な目線を製作者に送った。


『ドンダーフさぁ、ひとつ質問なんだけどさ』


「おう、なんぞい?」


『これって、いくらするの?』


「ざっと1500万セントルってところだい。もっとかもしれん」


『私の予算の50倍なんだが……』


 私はたしかに30万セントルとお願いしたはずである。

 1500万?

 私のどこにそんな金があるように見えるってのさ?


「ウワッハッハ! どうせなら最高のものを作ろうと思ってな! 気づけば予算オーバーしとったわい!」


 ドンダーフは腹を抱えてヒーヒー言っている。

 どの辺がそんなに面白いの!?


「まあ、鎧の旦那、そう身構えるな。金はいらんぞい。オレにとっても勉強になったからな、むしろ指導料を払いてえくれえだい」


『ねえ、ユミエ。この人、怖い。金を取らないばかりか逆に払うとか言っているんだけど』


「ドワーフだもの。頭ン中おかしくなってんのよ」


「おうおう、金床でぶっ叩かれてえようだな。このド腐れ駄馬どもが」


 そんな感じで、ドンダーフは頑として金を受け取ろうとしなかった。

 だが、私も意地になって食い下がった結果、なんとか30万セントルを収めてもらえた。

 それでも、明らかに足りていないので、レア素材が手に入ったら無償で譲渡する約束をしてバランスを取った。

 ドワーフってのは面倒な生き物だ。


「ドンダーフ、例のもの作ってくれた?」


 ユミエも何かオーダーしていたらしい。


「おう、あの風情もへったくれもねえクソみてえな矢のことか? ――ほらよ」


 ドンダーフは忌々しげに矢の束を叩きつけた。

 やじりだけでなく、すべてが金属でできた矢だった。

 溶かした鉄を鋳型に流し込んだだけという見た目である。

 ドンダーフが作ったにしては美麗さの欠片すら感じられない。


『何か特別な矢なの?』


「持ってごらんなさいよ」


 勧められるままに持ってみると、ずっしりと重かった。


「これはね、なまりの矢なのよ」


 鉛か。

 あまり詳しくないが、加工が容易で低コストということは知っている。

 たしか、比重の重い金属だったはずだ。

 釣りのオモリや銃弾にも使われている。


『重い矢ってデメリットしかなくない?』


 運動エネルギーは「質量」と「速さの2乗」に比例する。

 質量を減らしてでも初速を上げたほうが矢の威力は上がる計算だ。

 射程も目減りするし、持ち運ぶのも大変。

 百害あって一利なしのように思えるが。


「あたしはこれでいいのよ」


 ユミエは弓に矢を番えて調子を確かめている。

 いまさらだが、ずいぶんと無骨な弓だ。

 剛弓と呼ぶにふさわしい重厚な作りで、華奢なユミエには似合っていない。

 まるで少女が機関銃を担いでいるようだ。


「あんたにもこの矢のよさがわかるわよ、すぐにね」


 意味深な笑みだった。

 まあ、ユミエは大ベテランだ。

 この冒険スタイルが50年の集大成ならば、素人の私が口を挟むのは釈迦に説法というものだ。


『ありがとう、ドンダーフ。この武器で大物を仕留めてくるよ』


「おう、さっさと使い潰して新しいものを買いに来い」


「あんたの武器は100年先まで使えるから、新調することなんてないわよ。いいもの作ると売上が減るって皮肉よねぇ」


「お前は1000年先まで来るんじゃねえ、クソエルフが」


 いつもの感じで工房を出る私たちであった。


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