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21 話し合いならこたつの中で


 レイエルがシロに手を向けたとき、ヤバイと思った私はとっさに彼の袖を引っ張った。

 白い光の奔流が駆け抜け、家の壁に風穴をあける。


「シロ!」


 吹き込んでくる吹雪に向かって私は叫んだ。

 あんな魔法を食らったらひとたまりもない。

 最悪の事態を想像したが、シロは無事だった。

 壁にあいた穴の傍らで腰を抜かしている。


 間一髪だったらしい。

 服の肩口が焦げているのが見えた。

 私がレイエルの袖を引っ張っていなかったら直撃していたはずだ。

 心底ぞっとした。


「……ぇ? ぇ、なに!?」


「仕留め損なったか」


 目を回して泣きべそをかくシロに、レイエルは再び手を向けた。

 手のひらが白く光った。

 そんなもん二度も撃たせるか。


「ッりゃあ!」


 私はレイエルの横っ面に頭から突っ込んだ。

 おでこがゴチンと音を立てる。

 めまいがしたが、我慢我慢。

 私はレイエルを押し倒して馬乗りになった。


「お、お前! タックルするにしても顔狙うか!? それも頭で……! どこの戦闘民族だ!?」


「あんたこそ、魔族だからって子供狙うのか? 失望したよクズが。顔がいい以外はまともな人だと思ったのに」


「顔がいいを短所みたいに言うな! さっきも鼻を殴ったろう! タクナお前、俺の顔に文句でもあるのか!」


 レイエルがお綺麗なご尊顔を真っ赤にして怒っている。

 だが、私の怒りのほうがもっと赤い。


「タクナ、なぜ止める?」


「逆に訊く。なぜ止めないと思った?」


「そいつは魔族だぞ!」


「だからなに?」


「なにって……」


 レイエルは絶句した。

 愚か者を見下すような哀れみの目で見つめてくる。


「魔族は危険なんだ」


「シロがどう危険だっていうの?」


「お前には説明してもわからん」


 レイエルが私の手首を掴んだ。

 力じゃ男には敵わない。

 あっという間に形勢逆転で、私はこたつの横に押し倒された。

 熊みたいな力で押さえつけられ、私は初めてレイエルを怖いと思った。


「タクナ、お前のためだ。悪く思うな」


 そう言うと、レイエルは突然私の胸に顔をうずめた。

 谷間を無理やり広げられるような不快な感覚がして私は戦慄を覚えた。


「うぁ……!?」


 一体こいつは何をやっているんだろう。

 子供に魔法をぶっぱなしたり、旧友の忘れ形見にわいせつ行為をしたり。

 冬の寒さと実験のしすぎで頭をやられてしまったのだろうか。


「タクナに手を出すな、ばかやろう!」


 怒号が聞こえた。

 シロがバッドを振り終えたみたいなポーズで薪を握っていた。

 どうやらレイエルの頭をかっ飛ばしたらしい。

 それで、こいつは気を失って私の胸にダイブしてきたというわけか。

 なんにせよ、赦しがたい大罪だこれは。


「ふんっ!」


 私は変態イケメンエルフの顔を蹴って下敷き状態から脱した。

 シロが半べそで抱きついてくる。


「おー怖かったな、よしよし。助けてくれてありがとね、シロ。ナイスガッツだ」


「うん。僕、タクナが殺されちゃうと思って」


 私もシロが殺されると思って気が動転した。

 本当にどうしたというんだ、レイエルは。

 人に向かって魔法を放つような人物ではないと思っていたのに。

 シロが魔族だからか?

 魔族だったらなんだっていうんだ!?


 考えるのは後だ。

 また暴れだす前に縛り上げてやる。

 私は鎧を操ってレイエルを簀巻きにした。

 ついでに、口に一番汚い雑巾を突っ込んでやった。

 よっぽど臭かったらしく、レイエルは目を覚ました。


「おェ……。臭……なんだ、うわ!? え?」


「イケメンは縛っても絵になるねぇ」


「た、タクナ……」


 ナタを持った私に気づくと綺麗な顔がサッと青くなった。

 鬼子母神にでも見えたか?

 今私はそんな気分だから見間違えではない。


「さぁて、説明してもらおうか。どうしてシロを襲ったのか。納得できるだけの理由があるなら壁を直すだけで勘弁してやる。だが、ロクな理由じゃなけりゃわかってんだろうね?」


 私は顎先でレイエルの背後を指した。

 そこには、斧を振りかざした白銀の鎧が仁王立ちしている。


 これはある種、賭けだった。

 レイエルは魔法の天才だ。

 彼が本気を出せば、瞬時に縛めを断ち切って鎧をスクラップに変えることなど造作もないはずだ。

 こんなの脅したうちにも入らない。

 黙って話し合いに応じてくれ。

 私はそう祈りながらレイエルを睨んだ。


 レイエルは私をしばらく見つめてから視線をシロに移した。

 まなじりを裂いた顔にありありと敵意が浮かんでいる。


 まずい気配を感じて、私は先制攻撃に打って出た。

 大上段に振り上げた斧を渾身の力で振り下ろす。

 ごがん、と空気が揺れた。

 斧は見えない何かに弾き返されていた。

 同時に、鎧がバラバラされて土間に散らばる。

 その一瞬のうちに、レイエルは縛めを解いて立ち上がっていた。


「シロ、さがってな。刺し違えてでも守ってやるから」


 私はナタを構えたが、そのナタはうなぎのようにぬるりと滑って手を離れ、レイエルの手中に収まった。

 魔法か。

 どんな魔法なのかも私にはさっぱりだった。

 ここまで力がかけ離れているとは。

 せめて、使い慣れている暗黒鎧がそばにあれば一矢報いることもできただろうに。


 万事休すだ。

 それでも、私は負けず嫌いなので思いっきり睨みつけてやった。

 もうこれしかできることがない。


「あーもうわかった。負けだよ。俺の負けだ」


 いつシロから鮮血が噴き出すかとビクビクしていると、レイエルが肩をすくめてそんなことを言った。


「説明だな。すればいいんだろ、すれば」


 不貞腐れた様子でこたつに入る。


「なに? 話し合いに応じてくれるの? レイエルなら私なんてひと捻りにしてシロを殺すこともできるんでしょ?」


「できるが、しない」


「どうして?」


「お前に嫌われたくないからだ。さっさと座れ。あったかいぞ?」


 大人の対応をされているようで腹立たしい。

 だが、気が変わったとか言われたくないので私は対座に座った。


「つか、お前。本気で斧を振ったな?」


「正当防衛だろ馬鹿が」


「ば、馬鹿……。くそ。あいつに育てられたせいですっかりエルフ嫌いだな、お前は」


「私が嫌いなのはあんただけだから安心しろ」


「喧嘩すんなよぉ……」


 シロは私の脇の下で猫みたいに震えていた。

 よし、子供の前だ。

 私も少しは大人の対応をしてやろうじゃねえか。


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