14 パーティー結成
「ねえ、リズ。パーティー結成用の申請用紙はあるかしら?」
私がピカピカの冒険者記章に目を奪われている間も、ユミエはまだ受付で手続きをしていた。
リズと呼ばれた受付嬢は書類を手に、ニッコリと微笑む。
「仮パーティー申請ですね。こちらにお名前をご記入ください」
「違うわ。正式パーティーよ」
「え、正式パーティーってことは、つまり、正式なパーティーってことですか?」
「それ以外何があんのよ?」
ユミエが呆れた様子でため息をついた。
私も同じ気持ちだった。
あのリズって子、ちょっと寝ぼけているのではなかろうか。
「あの、先輩。ユミエルフィーナさんが正式なパーティーを結成するとおっしゃっていて」
リズが隣にいた先輩受付嬢に助けを求めた。
「え、本当に!? あのユミエさんが?」
先輩氏が目を丸くする。
冒険者ギルドのロビーにどよめきが広がった。
「おい、マジかよ。ユミエが正パ組むってさ」
「はあ? あいつは基本ソロだろ? 組んでも仮パまでだ。龍二級パーティーの誘いも蹴ったくらいだぜ?」
「相手は誰だよ!?」
受付前に人だかりができた。
何を騒いでいるのかさっぱりだが、ユミエが有名人なのはよくわかった。
さすが、龍級冒険者だ。
男ばかりが集まっているのを見るに、美人なのも注目される理由のひとつだろう。
「ちょうどいいわ! あんたたち、聞きなさい!」
ユミエはトンと床を蹴って軽々と受付台の上に上がった。
高飛車に腕を組み、女王様みたいな顔で野郎どもを見下ろしている。
「あたし、あそこにいるタクナとパーティーを組むことにしたの! だから、もうしつこく誘ってくるんじゃないわよ! いいわね!」
目という目が私に向けられた。
上から下まで舐め回すように見られるので、生きた心地がしない。
「見たことねえ奴だな。新参か?」
「佇まいにゃコレってもんは感じねえな。だが、かなり上等な鎧だぞ?」
「そいつ、さっき冒険者登録したばかりだぜ?」
「嘘だろ!? 駆け出しのペーペーがあのユミエを射止めたのかよ。信じらんねえ……」
ユミエは軽やかに人垣を飛び越えると、私のそばに音もなく着地した。
「こう見えてあたし、昔ちょっとすごいパーティーにいたのよね。だから、理想が高いの。これって決めた奴とじゃないと正式なパーティーは組まないことにしてんのよ」
そういえば、グラーシュたちのことも「今回だけの仮パーティー」と呼んでいたっけ。
『これって決めた奴。……それが、私ってこと?』
「か、勘違いしないでよね! 別にあんたのことが好きとかそんなんじゃないんだから! 優秀な人材をほかの連中に取られたくなかっただけ。ただ、それだけなんだから!」
なんだ、そのコッテコテのツンデレは。
ひと工夫加えるとかできなかったのか。
でも、実力を認めてもらえるのは素直に嬉しい。
それに、世間知らずの私にとってベテランのユミエがそばにいてくれれば心強いことこの上ない。
『不束者ですがよろしくお願いします、ユミエ先輩』
私はぺこりと頭を下げた。
「ちょ、変にかしこまんないでよ。やりづらくなるじゃないの……」
ユミエは気恥ずかしそうに口元をムニムニさせている。
からかい甲斐のある先輩だ。
「コウルベール最古参のユミエルフィーナと謎の新米鎧のタッグか」
「またひとつ目の離せないパーティーができちまったな」
「どんな大活躍をしてくれんのか今から楽しみだぜ」
「よっ! コウルベールの超新星っ!」
私が生身なら舞い上がって手を振り返しているところだが、いかんせん、こんな状態だ。
注目されるのは困る。
ボロを出さないように気をつけないと。
「よォ、戻ったぜェ! 笑える額の報酬が手に入った!」
グラーシュたちが換金窓口から戻ってきた。
「見てください、このパンパンの革袋! 来月いっぱい遊んで暮らせそうです! タクナさんのおかげですよ!」
ランズは今にもハチ切れそうな革袋をガチャガチャ言わせている。
「これがタクナさんの報酬です!」
「4等分しきれなかった分はお前さんの取り分にしといたぜ? 感謝はいらねえ。それだけの活躍をしたからなァ!」
私の手のひらにずっしりと重い感覚が乗っかった。
革袋からはみ出した銀貨がてらてらと光を乱反射している。
この世界で私が稼いだ初めてのお金だ。
嬉しい。
「初報酬って喜びもひとしおよね!」
ユミエは私の心境を的確に言い当ててみせた。
ベテラン冒険者の彼女にとっても、きっと初報酬は思い出深いものだったのだろう。
「それじゃ、ユミエさん。おいしい話があれば、また誘ってくださいね。タクナさんも、魔物の生態について気になることがあれば、ぜひ僕を頼ってくださいよ」
「久しぶりに高けェ酒浴びるほど飲めるぜ、フゥー! まったくタクナ様様だぜェ!」
ランズとグラーシュはそれだけ言うと、さっさと引き上げていった。
『なんだか寂しいね。私たち、けっこう相性がいいと思ったんだけど』
「まあ、あいつらとはこの1回限りの約束だからね」
『そんなドライなユミエ先輩は、私とだけは末永く寄り添っていく方針ってことであってる?』
「な、なにバカ言ってんのよ! 張り倒すわよ!?」
そんなことをされたら、兜が吹っ飛んでいくかもしれない。
からかうのは、ほどほどにしておこう。




