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15 買ってほしいもの


 ユミエによると、冒険者の収入は大きく3つに分けられるらしい。


 まずは、依頼の成功報酬。

 主に依頼主から支払われるのだが、これだけで生計を立てるのは難しいそうだ。


 そこで冒険者たちは、魔物の素材や稀少鉱石類、薬草なんかを収集して家計の足しにする。

 今回の依頼だと、スノウゴブリンの毛皮がこれに当たるわけだ。


 そして、3つ目が魔物の討伐報酬。

 倒した魔物の種類と数によって細かくレートが決まっているらしく、スノウゴブリンはどちらかと言うと安い魔物だそうだ。


「でも、20匹も倒すとさすがに儲かるわね」


 ユミエはご機嫌な様子でテーブルに広げた銀貨を数えている。


「あたしの取り分は北方銀貨で56枚よ。今だと60万セントルってとこかしら」


 セントルというのは、この国の通貨単位だ。

 元の世界で言えば、円やドルである。

 ちなみに、この国の名前はセントルラ王国というらしい。

 もっとも、ド辺境生まれの私に王国民の自覚などこれっぽっちもないのだけれど。


『私は58枚だ。参考までに、冒険者の平均月収ってどのくらいなの?』


「銀貨18枚よ」


『なら3ヶ月分だ! ワッハッハ!』


「このくらいで満足しちゃだめよ? トップ冒険者だとその100倍は稼ぐんだから」


 なら、反対に下位の冒険者はすずめの涙をすすっているのだろう。

 私はそれでもいいかな。

 なんせ、食費も宿代も衣類代もかからないから行き詰まることなどないのだ。

 ワッハッハ!


『これだけあれば、なんでも買えそうだ。何にしようかな~』


「この町は行商人が多いから、欲しいものはだいたい手に入るわよ。でも、あんたがまず買うべきは武器ね」


 たしかに、そのとおりだ。

 ご立派な鎧の割に丸腰というアンバランスぶりは滑稽ですらある。

 ここは、この鎧にマッチする暗黒の剣とかが欲しいところだ。


『剣と言えばグラーシュだな』


「あたしだって剣くらい見繕えるわよ!」


 ユミエが少し顔をしかめた。

 そして、恥じらうように伏し目になる。


「あんたがどうしてもって言うなら、市場を案内してあげるわ。ふ、二人でショッピングでもどうかしら?」


 デートだ。

 デートのお誘いだ。

 でも、冷やかすと蹴られそうなので言わないでおこう。


 剣もいいが、自宅で待つ本体にお土産も買ってやりたい。

 シロにも何か買ってやらないとだ。

 ユミエなら女の子向けの店も知っているはずだ。

 楽しいショッピングになりそうだ。


「今日はもう遅いから明日にしましょう」


 ユミエは山の尾根に半分隠れた太陽を見ていた。

 この辺りは季節によっては一日じゅう日が沈まない。

 白夜だ。

 まだ明るいように見えて、もうすっかり夜なのである。

 楽しみは明日にとっておこう。


 自宅に放置しているシロが空腹をこじらせて私をかじっていたら大変だ。

 今日の冒険はここまでとしますか。





「タクナ、お腹すいた。肉食べたい」


 本体に戻ると、さっそくそんなことを言われた。

 私はむくっと体を起こしてジト目になる。


「おい、シロよ」


「なに?」


「あんた、私の面倒を見るためにここにいるんだろう。可哀想な怪我人のために料理をしてやろうとか思わんのかね?」


「僕、こたつ出たくない」


「まあ、それはわかる」


 こたつとは、そういうものだ。

 結局、空腹感が飢餓感にグレードアップするまで二人でだらだらし、日付が変わるんじゃないかという時間になって台所に立った。

 あらかじめ白銀鎧で切り分けておいた材料を鍋に投入するだけだから、シロでもなんとかなった。

 味付けのほうはちょっと怪しいが。


 鍋がぐつぐつと沸き立つまで、またこたつでぐだぐだする。

 そして、飢餓感が虚無感になった頃、ようやく鍋が完成した。


「今夜はサーモンまるごと鍋だ」


 家の裏にある湖で釣ったものを贅沢に一尾まるまる使った渾身の料理だ。

 いただきますより先に、シロは分厚い切り身にかじりついていた。

 食いっぷりを見るに、味付けはうまくいっているらしい。

 とはいえ、まあ、今度テーブルマナーを教えなくては。


「シロ、何か欲しいものとかあるかい?」


 私は孫に何か買ってやりたい好々爺みたいな顔で訊いてみた。


「んー、ない」


 ちょっと考えてから、シロがそう答える。

 ないというのはちょっと困るな。

 私の何か買ってやりたい衝動を解き放たせてくれよ、頼むからさ。


「だって欲しかったもの、もう全部持ってるし」


「え、持ってるの?」


 見たところ手ぶらのようだったが。


「シロは何が欲しかったの?」


「えっとね、あったかい家と、あっつあつのスープと、あと、優しくしてくれる人」


 シロは歳相応の無邪気な顔で私を見た。


「全部タクナがくれたから、ほかに何もいらない」


 ガシッ。

 私は胸の芯が熱くなるのを感じてシロに抱きついた。

 すると、尖った角が顎に刺さって悶絶することになった。


「おーよしよし。可愛いのう、お前はー」


「なでるなし! 離せよ、このババア!」


「よーし、テーブルマナーの前に言葉遣いを叩き込んでやろうな。お姉さんがなァ。それと、顔に落書きした件、まだ忘れちゃいねえぞオラァ」


「お、鬼ババアが出た……!」


 ドシュネーでの日常はだいたいこんな感じである。


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