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第四十六話

 シロクマ王国の軍人は、主に王族へ忠誠を誓っている。

 しかし王族はレジスタンスへ協力していた。しかしそれは勿論裏で密やかに行われていた事。もし表立っていたならば、既に世界は崩壊していただろう。この国が中立を表立って宣言しているのは、シロクマ王国の軍人への配慮もあるのかもしれない。レジスタンスは魔女への対抗組織。それに準じる一国の軍隊など傀儡でしかない。


 劇団へと出入りする軍人。金髪の長髪に眼鏡をかけた彼はリレイ少尉。その階級とは裏腹に数々の戦場で功績を上げた人物。オズマ程では無いが、各国の軍人に一目置かれている人物でもある。少尉という階級は彼にとって隠れ蓑になっていると。


 そんな彼が、ミシマ連邦の大佐の顔を知らない筈も無かった。劇団へと何故か入団したらしきその大佐へと、意味深な視線を送るリレイ。この男の思考が読めないと、半ば混乱していた。何故一国の大佐が劇団などに身を潜めているのか。


 何かの作戦なのか、というのがリレイの脳裏に浮かぶ。この劇団はアルストロメリアの、しかも魔女のお抱えと来ている。もしもその作戦にアルストロメリアが協力し、シロクマ王国へと入国しているのならば、その目的は? シロクマ王国は中立を掲げる唯一の国。その主義主張が気に食わないと、何か企んでいるのかもしれない。


 しかしそれならば、有名すぎる大佐を潜入させるなど愚の骨頂。しかし自分達にこう思考させるための作戦かもしれない、とリレイは不自由な二択を迫られている気分だった。だがいくらなんでも状況が滅茶苦茶だ。ミシマ連邦ではオズマがクーデターを起こしたという情報は、勿論シロクマ王国も掴んでいた。そんな状況でシロクマ王国にちょっかいをかけるのか? とリレイは思う。アルストロメリアと協力していたとしても、寝首を狩られるリスクもある。ミシマ連邦がそんな選択をする筈はない。


 ならば何故ミシマ連邦の大佐が劇団に居るのか。その答えはリレイがどれだけ考えても答えの出せない物だったが、ここに来て黒蛇と名乗る少女が訪ねてきた。


「俺だ、黒蛇だ」


 リレイは気づいていた。その少女の目が只者では無い事に。そして付け加えるなら、このシロクマ王国には姉妹の怪物がいる。かつて心血武装持ちだった姉妹。その二人の例があるせいか、リレイにとって少女の姿をしていても中身は怪物かもしれないという疑念があった。


 黒蛇、という名はシロクマ王国まではそこまで届いては居なかった。ミシマ連邦の軍の官僚を暗殺した男だが、当然それに関する情報は伏せられている。アルストロメリア内でも、黒蛇の名は噂程度だ。


 だが只者ではない。リレイは黒蛇とミシマ連邦の大佐の間には何か関連がある、そう考えた。当然このまま放置はしておけない。


「すまんが……席を外して貰えるか」


 団長はリレイへとそう打診する。リレイは黙って頷き、部屋から出るが聞き耳を立てる。この劇団は本当にただの劇団なのか? そんな疑念を抱くには十分すぎる要素が揃っている。


「お前、本当に黒蛇なのか? その姿はどうした」


「俺にもよく分からん。それより団長、シロクマ王国の魔女から依頼を受けた。断れば……我らがアルストロメリアの魔女にイタズラをする……だと」


「おい、なんだその話……」


 シロクマ王国の魔女から依頼? リレイは眉を顰める。自分達軍人に魔女は基本的になにかしらの動きは見せない。たまに饅頭を買ってきてほしいと言われるくらいだ。軍の作戦などには一切魔女は関わらない。


 だが何故他国の劇団に依頼なのだ。リレイは魔女への不信感を募らせる。


「で、その依頼ってなんだ」


「……驚いたな。本当に俺が黒蛇だった信じてるのか?」


「何年つるんでると思ってるんだ。姿形が変わっても俺がお前を分からないわけがないだろ。というか、黒蛇に成りすますつもりが無さ過ぎるのが逆に説得力あるわ」


 リレイは黒蛇がどんな人物かは知らない。しかし団長の言葉から、黒蛇という人物の姿形が全く別の物に変化してしまったのだと確信する。それはつまり神化。この国でも、成人すればシロクマの姿へと神化する。だがリレイは人間の姿を保っていた。彼はこの国で生まれ育った人間。しかし神化はしていない。そのせいで出世が遅れた。周りの軍人はシロクマ化しているというのに。


「魔女の依頼は……王族の保護。レジスタンスが王家を近く襲撃するらしい。それを阻止し、誰でもいいから保護してアルストロメリアへ連れ帰って欲しいそうだ」


 その黒蛇の発言にリレイは一瞬我を失う。王族へと忠誠を誓う彼ら軍人にとって、それは無視できない発言。リレイは勢いよく部屋へと戻った。


「今の話、詳しくお聞かせ願う」


 まるで聞き耳を立てているのが分かっていたかのように、黒蛇、そしてミシマ連邦の大佐たるマギスはリレイへと視線を送る。


「聞かなかった事にしておいた方がいいぞ。シロクマ王国の軍人にとって、魔女の立ち位置は微妙すぎるだろ」


 黒蛇の言葉にリレイは素直に頷く。だが魔女の立ち位置などどうでもいい。


「王族がレジスタンスに襲撃されるという話、それは本当ですか? そして王族をアルストロメリアに連れ帰れというのは……」


「全て魔女の言葉だ。というか……シロクマ王国の軍人の方がそのあたりの情報は掴んでると思ったが……。こうなると魔女の言葉の方が疑わしいな」


 勿論、リレイがその情報を知らされていないだけ、という可能性は多分にある。だが黒蛇はリレイが軍人として優れた人間であると一目で見抜いていた。もしも魔女の情報が正しく、尚且つ軍がその情報を掴んでいてリレイに知れてないとなると、シロクマ王国の軍も一枚岩ではない事が伺えた。軍の中にも魔女に忠誠を誓う人間は居る。というかそれが自然ではないか、と黒蛇は改めて思う。


「魔女の言葉が嘘であろうが無かろうが、俺達はアルストロメリアの魔女にイタズラされるわけにはいかん。シロクマ王国の軍人、お前もそれは理解出来るだろ」


「勿論です。そして貴方が黒蛇だという人物と言う事を信じた上で、もう一度言います。レジスタンスが王族を襲撃するとはどういうことか。貴方は魔女から何を聞いたのですか?」


 リレイは黒蛇という人物を詳しく知らない。知らないが、あえて知ってる風に切り出す。初対面、尚且つ敵か味方かも分からない関係で、簡易的に信頼性を生み出す為に。それは気のせいレベルの信頼ではあるが。


 勿論それは黒蛇も分かっていた。シロクマ王国の軍人が、黒蛇を詳しく知る筈がない。しかし噂は流れているのかもしれない。軍人ならば、ミシマ連邦とのごたごたも知っているかもしれない。それにどういうわけか、ミシマ連邦の大佐がここに同席しているのだ。あまりに突飛な存在のため、黒蛇は一時追求するのを止めていたが。


「……条件がある。王族を保護し、その内の誰かをアルストロメリアに連れていく。それを黙認しろ」


 黒蛇は無茶な条件だと思った。王族に忠誠を誓う軍人が、これを容認出来る筈が無い。しかしこのままリレイを軍へ返すわけにもいかない。確実に障害になるからだ。ならばいっその事味方に引き込みたいが、その難易度は魔女の我儘を断るより高いかもしれない。


 だがリレイはこう考えていた。魔女にとって王族は決して対等な存在ではない。遥かに生きている年数が違う。魔女にとってシロクマ王国の国民は、アクアリウムで飼っている魚と大差ないのかもしれないと。そんな魔女が王族を守ろうとしている。しかしそれならば何故軍人を頼らない? 決まっている、シロクマ王国の軍人は一般的に魔女の物ではない。ここで仮に魔女に頼られ、それを熟すような事があれば軍人は結局、魔女の犬であると吐露しているような物。魔女は軍人の対面を守ろうとしている。


「……分かりました。私自身は黙認しましょう。しかし軍全体が黙認するとは限らない……とだけ言っておきます」


「意外だな。頭の柔らかい軍人もいたもんだ。別にあんたは普通に自分の仕事を熟して貰えればいい。ただ俺を自由にやらせてくれってだけだ」


「私にも立場がありますので。それは時と場合によります。それで……レジスタンスが何故王族を?」


「あぁ、ロギン……っていうテロリストがレジスタンスに参加してるらしい。そいつが王族襲撃の元凶なんだと」






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