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髪結師は竜の番になりました(やっぱり間違いだったようです)  作者: 三国司


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20 髪飾り

 昨晩は大変だった……。

 私は座ってアイロンを当てられているだけだったのだが、非常に疲れた……。

 

『僕がメイナさんの髪に触ると、レイさんが鏡越しに睨んでくるんですけど。メイナさん何とかしてください』

『キリアン、集中して。レイはあっち向いてて』


 そんなやり取りを何度しただろう。だいたい、サリさんだってキリアンが私に触れるたびに私の事を射殺さんばかりに睨んでくるのだ。

 そして結局三十分もせずに、アイロンを熱するためにつけていた暖炉のせいで「部屋が暑くなってきたから」と、レイによって練習は強制終了させられた。

 おまけに、髪結いの練習のためであっても夜にキリアンと二人で会ってはいけないというよく分からない約束をさせられた。疲れた。


 しかしその翌朝には、私の疲れは一気に吹き飛ぶ事になる。

 朝起きて自室を出ると、扉の前にラッピングされた小さな箱が置かれてあったのだ。これをここに置いたらしき人物は廊下にはいなかったが、リボンに隠れて『メイナへ』と書かれたカードが密かに添えてあったので、私はその箱を拾って一旦部屋に戻った。


「何かしら?」


 ラッピングを解いて箱を開けると、そこにはなんと――白虹貝の髪飾りが入っていた。


「これ……!」


 私が昨日欲しがっていたものと全く同じものだ。

 

「やっぱり綺麗……」


 思わず鏡の前に立つと、今つけている髪飾りを取って、その白虹貝の髪飾りをつけ直した。今日の髪型にもよく合っている。

 この髪飾りは派手ではないのに人目を引くし、つけた人を上品で清楚な女性に見せてくれる。

 私は嬉しくなって鏡に映る自分を何度も見た後で、急いで部屋を出た。これをくれた人にお礼を言わなくちゃ。


 そうして、パトリシア様の部屋に向かう途中で、同じくパトリシア様のところへ行ってこれから仕事を始めようとしているレイに出くわした。


「レイ!」


 子どものようにはしゃいで弾むように廊下を駆けると、私は後ろからレイの腕に触れる。


「メイナ。今朝は何だかご機嫌だね」


 レイは振り返ると、私と私がしている髪飾りを見て笑みを深めた。全部分かっているのに、わざと知らないふりをしているみたいに。


「レイ、これをくれたのはあなたね? ありがとう!」


 こんな高いもの貰えない、と言うのが常識的なのかもしれないが、一度つけたこの髪飾りを私はもう手放せそうになかった。

 けれど、ただの知り合いや友人から貰うプレゼントにしては値が張り過ぎているから、後でお金を返すとか、何か別のお返しをするとか考えよう。

 でも、とにかく今はこの髪飾りを手に入れられた事が嬉しかったので、その喜びと感謝をレイに伝えたかった。


「見て! さっそくつけてみたの」

「よく似合ってる。可愛いよ」


 今はレイの褒め言葉も素直に受け止められた。たぶんレイも素直に言ってくれているからだ。私でなく髪飾りが「可愛いよ」という意味かもしれないけど。

 でも私が嬉しいオーラ全開でにこにこしているからか、レイも今はずっとほほ笑んでいる。私につられているのかのように。


「それは君のために作られた髪飾りだね」

 

 レイは髪飾りを貰った訳ではないのに、とても嬉しそうにしている。


「ねぇ、これレイがくれたんでしょ?」

「さぁ、僕は知らないよ」


 レイはそう言うけど、意味ありげに笑っているし、送り主は絶対にレイで間違いない。


「ありがとう、本当に。大切にするわ」


 しかし私がレイを見上げてそう言ったところで――


「あ! メイナさん!」


 廊下の向こうからキリアンがやって来た。彼もパトリシア様の部屋に向かう途中なのだろう。

 しかしキリアンは朝の挨拶をするより先に、こう言って私を戸惑わせた。


「その髪飾り、さっそくつけてくれたんですね! 似合ってますよ」

「え?」


 まるでキリアンがこれをプレゼントしたかのような言い方だ。私は立ち止まってうろたえる。


「どういう事? どうしてキリアンがこの髪飾りの事を知ってるの?」

「どうしてって、それを買ってきて、メイナさんの部屋の前にこっそり置いておいたのが僕だからですよ。びっくりしました?」


 私は困惑して続ける。


「でも、じゃあこの髪飾りを選んだのはどうして?」


 私がこれを欲しがっていた事を知っているのは、レイだけなのに。


「実は昨日、僕も街に出かけていたんです。それでメイナさんとレイさんを見かけたんですけど、二人が仲良さそうに歩いていたので声をかけられなくて……でもデートをしてるのかと気になって、しばらく後をつけていたんです」


 キリアンはそこで少しバツが悪そうに肩をすくめた。


「それで二人が入った宝飾品店に、後で僕も入ったんです。メイナさんに何かプレゼントしたいなと思って。で、店の人に、さっき入ってきた女性は何か気に入ったものを見つけたか? って訊いて、その髪飾りを気に入ったようだと教えてもらったんですよ」

「そうなの……?」


 私が半信半疑でいると、キリアンは拗ねたように唇を尖らせた。


「なんで疑うんですか」


 隣りにいるレイは片眉を上げて訝しげにキリアンを見ている。

 これをくれたのはレイだと思ったのに……。

 何故だろう、贈り主がキリアンだと知ってちょっとだけがっかりしてしまっているのは。

 レイは「髪飾りを贈ったのは自分だ」とは言わなかったけれど、キリアンを睨みつけてこう言った。


「街で僕たちを見かけたのに声をかけられなかった? そんな訳ない。お前は率先して声をかけて邪魔してくるような奴だろう」

「ひどいなー」


 キリアンは困っているような表情で笑う。

 私は髪飾りを外してキリアンに言った。


「嬉しいけど、こんな高価なもの貰えないわ」


 さっきはこの髪飾りはもう手放せないと思っていたのに、今はあっさりとそれを外せた。

 レイからなら貰えたのに、キリアンからこんな高い物を貰えない、と思うのはどうしてだろう。レイは貴族でお金持ちだからと、私が考えているからだろうか?


「メイナさん、そんな事言わずに貰ってください」


 キリアンはこちらに近づいてくると、私の両手を包むように握って、口角を上げて笑う。


「高価だとか、そんな事気にしないでください。番への贈り物をケチったりはしませんよ」

「番……?」


 私は耳が遠くなったかのように聞き返した。キリアンは笑顔だ。


「そうです。メイナさん、初めて会った時から僕に何か感じませんでしたか? 僕もずっとメイナさんに感じるものがあったんですけど、今はもう確信しています。メイナさんは僕の番なんです」


 私は固まる事しかできなかったが、何とか頭を働かせてキリアンと出会ってからの事を振り返る。

 キリアンに何か感じるものがあったかと訊かれれば……確かに彼の黒い瞳を見ていると心がそわそわした。

 今だってそう、至近距離で目を合わせていると、心臓がドクドクしてきてまるで吸い込まれてしまうような――……


「触るな」


 と、その時。

 私とキリアンの間にレイの腕が割り込んできたかと思うと、レイはその手でキリアンの胸ぐらをつかんですぐ近くの壁に勢いよく押し付けた。


「っ……」

「レイ!」


 キリアンは苦しげに呻き、私は焦って声を上げた。


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