第35話「魔女と森の調査」その四
「グルルル……」
変異種は背を高く見せ、威嚇している。
(ふむ、まずは行動の分析、だね……)
リーネはそう言い、両袖から紐を出した。
「グルガァァァ!」
変異種は咆哮を上げ、両手を上げながら突進してきた。
(普通の突進?……いや、あれは)
「ガァーッ!!!」
リーネは、変異種が突進して接近してきたタイミングで、後ろに飛び退いて避けた。
(変異種の両手が腹のあたりに来ている。やはり、あの両手は振りかぶりの証。突進し、その勢いで両手の爪をクロスさせる攻撃)
(やはり、キラーグリズリーの変異種だね)
「ねぇ、キラーグリズリーって?」
草むらに隠れている弟子たちの一人、フィアが質問をした。
「キラーグリズリー、黒紫の体毛を持つ熊型のAランクの魔物。両足が発達していて、手を振りかぶったまま走ることもできるんです」
「早い〜?」
「はい。本気を出した姿は早馬のごときスピード、と本に書かれていました」
「ひえ〜」
「強敵かもしれませんわね」
(まったく、弟子たちはこんなときなのに解説か。まぁ、私も集中しなければいけないがね……あの地龍と同じ、AランクとはいえSランクに近い魔物だ。油断はできない。しかも変異種ときた)
「グルルル……ガァァァーッ!」
大きく口を開けた瞬間、魔法陣が出現した!
(魔法!?)
リーネは後方を一瞬だけ見る。
(避けることはできない。弟子たちに当たる。だったら)
「ガァァァァ!!!」
(魔法陣の色は赤。火属性の単純な魔力の塊!)
リーネは紐を解き、花のように展開させて魔法を受け止めた。その開き方はまるで花のようだった。そして、紐が火属性の魔力の塊を包み込むように覆った。
「おぉ」
「魔法が包まれて消えた!?」
「……ふぅ、少し練りが甘いが、単調な魔力玉だね」
「……グルルル」
「他に技はないのかい?……なら、こちらから行くよ?」
リーネが一瞬で消えた。
「グルル!?」
「真上だよ」
紐を変異種のキラーグリズリーの首に通し、締める。
「グ!? ガルガァッ!!!?」
「トドメだよ」
首元の紐の一部を尖らせ、口内に突き刺して脳天を貫いた。
「ガァァッ!!?? ガ……ァァ」
ドスンッ!!!
「……ふむ……たいていの生き物は脳を貫かれれば死ぬが、こいつはどうかな?」
リーネは変異種のキラーグリズリーの死を確認する。
「うん、死んでいるね……出てきていいよ」
そう言って、弟子たちのいる草むらに呼びかける。
「師匠〜!!」
「何だ今の戦い! 師匠らしくてすごかったぜ!」
「そうかな」
「感動しましたわ」
「はい! すごかったです」
弟子たちが詰め寄ってくる。
「そ、そうかい……わかったよ。離れてくれるかな」
「「「「あ」」」」
弟子たちは気づいて離れた。
「さて、この魔石、どうしようか」
「ここにあったら、また変異種みたいな魔物が出てくるかもしれません」
「あぁ、そうだね、サントリナ」
「じゃあ、破壊するか?」
「壊すの〜?」
「そうだね、そのほうが良さそうだ」
リーネは魔石を見た。
「ですが、欠片を魔物や動物が食べて凶暴化でもしたら大変です」
「それもそうか。なら、この魔石、引っこ抜くか」
「え? 引っこ抜く?」
フィアの目が丸くなる。
「少し離れててくれ」
リーネはそう言い、紐を出して魔石を縛り、引っ張った。
(ふむ、このくらいならいける)
ゴゴゴゴゴと地面が揺れる。
「わわっ!?」
「師匠! 本当に大丈夫ですか?」
「揺れがひどいですわ」
「お〜、お〜〜」
リーネはそれでも引っ張り続け、やがてドカンッと魔石が抜けた。
地上に出ていた部分がこの魔石の全体だったようだ。地中に埋まっていたのはほんの少しだった。
「私が運ぶから、君たちは魔物をしばいてくれるかな?」
「はい! 師匠!!」
そうして、リーネたちは魔石を持って、王都に向かった。




