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第1話「港にライバルがやってきた」

オープニングテーマ「WONDER VOYAGE」

https://youtu.be/Bs0_T5g4GqI

 開会式の日のザックリ港は、朝から少し傾いていた。


 そう見えるほど、南の桟橋に人と荷物が集まっている。船をつなぐ綱が軋み、積み荷の隙間を抜けてきた海風まで、香辛料や革の匂いをまとっていた。


「こっちだ、こっち! 降りたら左! その樽は転がすな、底が丸いんだから!」


 十八歳の京介は、岸壁の上で大きく手を振った。朱色のヘアバンドから、黒い短髪がつんつんと飛び出す。前を開けた青い半袖ジャケットの下で、生成りの服が汗ばんでいた。茶色の長ズボンを押し込んだブーツには、何本ものベルトが巻かれている。


 学校で荷の扱いを習ってから、港で声を掛けられることが増えた。顔も名前も覚えられたが、飛んでくるのは探検への誘いより、そこの箱を頼む、という声ばかりだった。


「助かったよ、京介。次の船にも頼めるかい」


「今日はここまで! 開会式に行くんだ!」


「大会に出るんだったね。賞品の魚はないけど、頑張んな」


「魚がなくても優勝する!」


 言い切ってから、京介は魚屋の焼き台を見た。


「……ただ、いま食う魚はあってもいい」


 炭火の上で、青い背の魚がじりじりと焼けていた。皮の端から脂が落ち、煙においしい匂いが混ざる。


 旅には体力が要る。体力には朝食が要る。朝食には焼き魚がよい。


 ここまで筋の通った考えには、誰にも文句を言わせなかった。


 京介が銀貨の端数を数えていると、港に新しい船が入ってきた。


 帆に大陸の商会の印がある。船べりには、大きな荷を抱えた参加者たちが並んでいた。鉄の鍋を背負う男。折りたたみの梯子を持つ女。羽根飾りばかり大きい帽子。


 京介は口の端を上げた。


 どんな道具を持ってこようと、島の道なら自分のほうが詳しい。


 北の小川の浅瀬。雨が降ると崩れる赤土の坂。実は食べられるが、皮をむくと一日指が紫になる木の実。


 地元の強みというものは、宝箱に入っていない。


「全員、強力なライバルってわけか」


 茶色の目に、朝の光が映った。


「向こうにとっては、オレがな!」


「道、空けて!」


 背後の声に振り向くより早く、京介の脇を木箱が滑った。


 船から下ろしていた荷が、板の継ぎ目で跳ねたのだ。積まれた箱の一つが傾き、中から丸い果物がこぼれ出した。


 桟橋の先には、小さな子どもと、その手をつかんだ母親がいる。


 京介は魚の代金を魚屋の台に置き、走った。


「そこ、動くな! 箱じゃなくて、足元を見ろ!」


 転がる果物を飛び越え、木箱の角を両手で押す。


 止まらない。


 止めるには重すぎる。だったら、向きを変えればいい。


 京介は膝を曲げ、岸側へ押し続けた。ブーツの底が木の板をこする。箱は弧を描き、積んであった縄の束へ、ぼすんと突っこんだ。


 果物が一つ、京介の頭に当たった。


「いって……おい、けがは?」


 子どもが、首を横に振った。


 母親の礼より先に、京介は荷を下ろす男を見た。


「車止め、外すのが早いぞ。今朝の潮で板が濡れてる」


「悪かった!」


「荷を積むなら、あっちの乾いた場所でやってくれ」


 指した場所へ人が動き、木箱の向こうから、青い糸で縁を縫った革帽子が覗いた。


「そっち、手を離していい」


 京介より少し年上らしい青年が、木箱と杭に綱を掛けていた。帽子の下には短い焦げ茶色の髪。片眉に古い小さな傷があり、その目は、京介より箱の傾きへ向いている。


「いつの間に」


「転がり直したら困るだろ。片側の板、浮いてる」


 京介が体重を退けると、綱がぴんと張った。杭の根元で濡れた木が鳴る。青年の後ろにいた女が、周囲の荷を一つ隣の桟橋へ移すよう船員に指を振った。


 黒髪を首元で一つに結び、青年と同じ革帽子をかぶっている。灰緑の目が板の継ぎ目をたどり、荷を運ぶ者がそこへ乗るより先に、立つ位置を示していた。


「ハリナ、残りは?」


「私たちの荷は全部。帳面も乾いてる」


「じゃ、受付だ」


「おい、待て。助かった」


 京介の声に、青年が振り向いた。


「こっちも荷を下ろしてたからな。サキトだ」


「オレは京介。島の学校で、探検家の勉強をしてる」


「荷の扱いは慣れてるな」


 悪気のなさそうな声だった。それなのに、京介はすぐに頷けなかった。


「荷物だけじゃない。道も知ってる」


「なら、地図は持ってる?」


 ハリナが初めて京介を見た。細長い革の筒が、肩の荷から覗いている。


「持ってるけど」


「新しい崩落の書き込みがあれば、写しを買いたい」


 京介は腰の地形図へ手をやった。出されかけた銀貨の数が目に入り、その手を戻す。


「売らない。オレも大会に出るんだ」


「そう。じゃあ、北で」


 ハリナは銀貨をしまった。値を上げるでも、笑うでもなく、サキトと並んで歩き出す。二人の荷は、周囲の参加者よりずっと薄かった。背中で揺れる物がほとんどない。


「手際がいいね」


 人の輪の外から、灰色の上着を着た男が近づいた。腕に抱えた帳面は、角が丸くなるほど使い込まれている。


 探検家養成学校の教員、ミチシルベだった。


「オレも箱を止めただろ」


「見ていたよ。だが、あの二人の話をした」


 京介は口を閉じた。ミチシルベが魚屋のほうを指す。


 道の中央に、自分の荷袋があった。荷車の車輪がすれすれを通り、誰かの靴先が袋を蹴りかける。


 取りに戻ると、魚屋が焼き魚を一匹、紙に包んで差し出した。


「代金はもらったよ。冷めないうちに食べな」


 向こうでは、サキトとハリナがもう受付の列へ並んでいる。京介は荷袋を肩へ跳ね上げ、魚を受け取った。


     *


 港の石段に座ると、焼き魚の皮が、ぱりっと割れた。


 京介は満足そうに目を細めた。隣でミチシルベは、学校の印がある薄い帳面を開く。


「大会への参加を、実地課題として認める。七日分の報告を提出するように。王様の優勝と、学校の卒業は別だよ」


「分かってる。優勝して、報告も出す。一度で二つ片づく」


「勝てなかったら?」


 魚の身が、骨からきれいに外れた。京介はそれを口へ入れ、飲み込むまで返事をしなかった。


「始まる前から、負ける話かよ」


「帰ってくる日の話だ」


 ミチシルベは帳面を膝の上へ置いた。潮の満ち引きで濡れた石段に、古い水の線が何本も残っている。その一本は、京介が学校の課題で測ったものだった。


 ほかにも、調べた小川の幅や書き直した道標がある。自分の地形図には、先生の手本にない書き込みだって増えていた。けれど、その図を使って褒められるのは、迷った人を港へ送り返したときばかりだ。


 北の森の奥には、まだ白い場所がある。王の調査隊も開けられなかった遺跡。その中に眠るという、海賊ガッポリーノの財宝。


 最初に見つけた者として、そこに自分の名を書きたかった。


「ずっと、港で荷物を運ぶやつだと思われてたまるか」


 言ってから、魚屋のほうを見た。店主はこちらを見ていなかった。


「ここが嫌になった?」


「違う。好きだよ。島も、港も。だから、ここで一番すごいものをオレが見つけたいんだ」


 ミチシルベが何か言う前に、京介は続けた。


「誰も行けなかったところまで行く。サキトたちより先に。『あいつなら任せられる』って、知らないやつにも言わせる」


 その勢いで魚の骨を折ってしまい、二人とも指先を見た。


「……まずは、食べ終わろう」


 ミチシルベが紙を差し出した。京介は骨を包み、残った身を口へ運ぶ。


 焼けた皮はうまかった。返事を急がずに済むくらい、少し熱かった。


 実地帳面を地形図と同じ包みへ収めると、荷の重さが増した気がした。縄や手当ての布、雨よけ。その奥に、学校で検査を受けたダイナマイトの包みがある。


「これを使った場所と理由も、報告に書くこと」


 ミチシルベが包みを指した。


「崩せば通れるとは限らない。退く道までなくさないように」


「分かってる。道を開くために持っていくんだ」


 京介は包みを戻し、代わりに腰の小袋を振った。ころん、と二つの音がする。


 取り出した白いサイコロが、朝の光を跳ね返した。二個で一組、サイコロW。


「こっちもある。今日は絶好調の予感がするぞ」


「予感は、記録には書けない」


「欄を作ればいいだろ」


「作らない」


 今度は京介も笑った。二個を袋へ戻して、口を結ぶ。


 世界アースの地中には、目に見えない力の網が通っている。人々はそれを、大地の『骨』と呼ぶ。


 決まった教えを覚えて使う魔法とは別に、その骨から自分に合った形で力を引き出す者がいる。骨能力だ。


 京介も、修業の末に引き出せるようになった。


 問題は、引き出した中身を、自分で選べないことだった。


「そういえば、試験のときのくしゃみは惜しかったね」


「あの話は禁止!」


「全員が同時にくしゃみをしたおかげで、静かすぎる観察実習が――」


「禁止って言っただろ!」


 石段の下で、船の到着を告げる鐘が鳴った。


 ミチシルベは立ち上がり、港の受付へ向かった。学校から来るほかの生徒や、港の案内の手伝いがあるのだという。


 京介も荷を背負う。


 開会式は、正午から。


 まだ時間はある。受付で参加証をもらい、城へ続く最短の道を通って、誰より早く会場へ着く。


 優勝への道も、同じように進めばいい。


 そのはずだった。


     *


「その列、最後尾は向こう」


 声の主は、京介の背丈とあまり変わらない少女だった。


 栗色の髪を高く結び、跳ねた前髪の下から琥珀色の目がこちらを見ている。耳元には、小さな金の耳飾り。赤茶色のタンクトップに、丸いバックルの太いベルト。折り返したハーフパンツの裾から、動きやすそうなブーツが覗いていた。


 旅に慣れた身軽さだった。少なくとも、鍋と梯子を同時に背負う参加者よりは。


「分かってる。ここは、地元の受付――」


「地元の人も並ぶって、書いてあるわよ」


 彼女は扇子の先で看板を示した。


『お住まいにかかわらず、順番にお並びください』


 書いてあった。


 昨日まではなかった。つまり、京介の島の知識は一日古かった。


「看板が増えたのか」


「あんたが読んでないの」


 京介は一度だけ咳払いし、列の最後尾へ回った。


 よりによって、その少女の真後ろだった。


「オレは京介。この島の探検家養成学校で学んでる」


「あたしは、まい。トレジャーハンター」


「もう働いてるのか?」


「十九歳。あちこちの遺跡を歩いてきたわ。あんたは?」


「十八。今日までは生徒。七日後には、ものすごい探検家だ」


「ものすごい予定なのね」


「予定は、実現するためにある!」


 まいは少し笑った。感心したのか、面白がったのかは分からない。


 肩に掛けた小さな荷袋から、真鍮色の筒が覗いていた。京介が見ると、まいは手で隠すどころか、得意そうに持ち上げる。


「気になる?」


「短い望遠鏡か?」


「ミエールくん。普通の望遠鏡とは、見えるものが違うの」


 まいはつまみを巻き、接眼部を覗いた。


 レンズの縁が、淡くきらめく。彼女は受付の机ではなく、その脇に置かれた石の飾りへ筒を向けた。


「あの柱、表の線を削り直してる。下に古い模様が残ってるわ」


「祭りの飾りを再利用してるからな。去年は魚まつりだった」


「魚の下に、貝。その下に……これは、鍋?」


「三年前は大鍋まつりだ!」


「この島、お祭りだけでも忙しそうね」


 十呼吸ほどで、レンズの縁の光が消えた。


 まいは筒を下ろし、熱を持った縁を指先で避けながら袋へ戻した。


「もう終わりか?」


「一巻きでこれくらい。少し冷まさないと、また使えない。無理に巻いたら、目より先に道具が疲れるわ」


「壁の向こうも見える?」


「見えるわけないでしょ。表に出てる物の、反射とか彫った跡をはっきりさせるの。あたしの荷袋の中を期待したなら残念ね」


「別に期待してない!」


 列が少し進んだ。


 受付では、係が宝発見票を配っていた。発見場所、時刻、品物、立会人。京介は自分の名を書く欄へ指を置き、まだ空白の広い紙を受け取った。


 まいが、腰の小袋から一枚の銅貨を取り出した。


 端のすり減った古い貨幣だった。片面に、波を重ねたような模様が刻まれている。太陽の下で傾けると、くぼみにだけ青いさびが残って見えた。


「これみたいな古い貨幣も、大会のお宝になるのかしら」


「その銅貨は、持ってきた私物だから対象外です」


 係が答える。


「例として聞いたの。これは手放さないわ」


 まいは、すばやく銅貨をしまった。


 その仕草に、京介の目が留まる。


「大事なものか?」


「手掛かり」


「何の?」


「それを、競争相手に教えると思う?」


「オレなら教えるぞ。この島には、北へ行くほど森が深くなるという重大な特徴が――」


「今、船から見えた」


 最初の情報戦は、京介の不発に終わった。


 まいは書類に名前を書き、木でできたサイコロ型の参加証を受け取る。角は丸く、紐を通す穴が開いている。


 京介もその次に受け取った。


 サイコロWとは違い、転がしても特別なことは起きない。それでも、握っただけで手の中が少し熱くなった気がした。


 これは、未来の優勝者の参加証だ。


 京介は、ひそかにそう決めた。


「城へ行くなら、案内してやる」


 受付を離れたまいに、声をかける。


「競争相手に、ずいぶん親切ね」


「地元代表だからな。最短の道を知ってる」


「じゃあ、お願いしようかしら」


 まいの返事は素直だった。


 京介は満足して、先に歩き出した。


 この道を知っている。市場の角を曲がり、石の階段を上り、パン屋の裏を抜ければ、王城の東の門だ。


 地元の者だけが使う、抜け道中の抜け道。


 その入り口に、本日は大きな板が立っていた。


『開会式準備のため通行止め。正門へお回りください』


 まいが横から、そっと看板を指す。


「この島、看板も育つのが早いのね」


 京介は、前途の広さを思い知った。


     *


 正門へ回る途中、市場には参加者を当てこんだ品があふれていた。


 頑丈な縄。軽い鍋。虫よけの布。どこでも座れる折りたたみ椅子。


 机の上に『絶対に宝が見つかる石』を並べていた店主は、その隣で『宝が見つからなかったときのお守り』も売っていた。


 京介は、まいの足が止まるのに気付いた。


 赤、緑、青。露店の布の上で、小さな石が陽光をはね返している。


「おい、正門はこっちだぞ」


「分かってる。ちょっと見るだけ」


 ちょっと、にしては、目の光り方が強かった。


 まいは店主に断って、ミエールくんを使った。さっきより十分に時間がたち、筒は冷えている。丸いレンズの中で、青いかけらが小さな星みたいに輝いた。


「これ、いいわね」


「海で丸くなったガラスだよ」


 店主は正直だった。


 まいは眉ひとつ動かさず、光の角度を変えた。


「分かってる。色がいいって言ったの」


「その道具、宝石かどうかは分からないのか?」


「値段を聞く道具じゃないもの」


 言い方に、少しだけとげが混ざった。


 京介が何か言う前に、まいは青いかけらを元に戻した。


「今日は買わない。もっと大きいのを見つけるから」


 店主が笑った。


「見つけたら見せとくれ。店先が明るくなる」


 まいは頷き、歩き出した。


 その背中を追うと、すぐ隣のパン屋から甘い匂いが流れてきた。


「昼の分、買っておこうかしら。あんたもいる?」


「いる!」


 返事の速さだけなら、京介はすでに優勝していた。


 しかし、まいが差し出した丸いパンを見るなり、一歩下がる。


 表面に、小さな黒い粒が点々と埋まっていた。


「それは、いらない」


「どうしたの。さっきまでの勢いは?」


「ほしぶどうだ」


「見れば分かるわよ」


「分かるなら、なぜオレに向ける!」


 まいはパンと京介を交互に見た。


 次いで、にやりとした。


「弱点、ひとつ発見」


「弱点じゃない。方針だ」


「ぶどうに対する方針?」


「干されたやつに限る。生なら問題ない」


「何されたのよ」


 京介は口を結んだ。


 小さいころの、きわめて重大な宝さがしに関する敗北は、初対面の競争相手に話すことではなかった。


「長い歴史がある」


「短そうね」


「長い!」


 結局、京介は具のないパンを買った。


 まいは店主から受け取った紙で手を拭き、パンをきちんと二つに割った。食べる前に落ちたかけらをまとめる手つきが、旅人にしては妙にきれいだった。


 京介が見ていると、彼女はすぐ、かけらをまとめて口へ入れた。


「何?」


「いや。食い方が落ち着いてるな」


「歩きながら食べるのに、暴れる必要ある?」


「ないけど」


 返されると、そのとおりだった。


 京介は素直にパンを食べた。


 その先で、赤い小旗が何本も揺れていた。


 旗の下には、木の車輪を四つつけた小さな荷車。その中央に、座席がひとつ。横に金属のばねと歯車が並び、前には大きな板の手が取りつけられている。


『本日の自信作・お宝先取り一号』


 旗には、そう書かれていた。


「見なさい、あんたたち! これほど堂々とした登場に、人々の目が集まっているわ!」


 えんじ色の羽根帽子をかぶった女が、座席から胸を張った。


 紫の上着は、港の光でも目立つ。片手には長い飾り棒。周囲に目を配るとき、帽子の羽根が一拍遅れてついてきた。


「ええ、サタンジョ様。わたくしの計算どおりです」


 丸眼鏡の男が、油の染みた作業服で車輪を磨く。


「ただ、見物人さんの半分は、道をふさがれてお困りのようです」


「人気者には、立ち止まる自由もないのね」


「車輪止めを外せば、動くと思うぞ、アネゴ」


 縞のシャツを着た大柄な男が、荷車の後ろから言った。


 その声は、よく晴れた日の雲のように、のんびりしていた。


「ロクシロウ、今は演出の時間よ」


「演出中にも、おなかは減るよ」


 京介とまいが近づくと、作業服の男がぱっと振り向いた。


「おや、参加者さんですね。こちら、障害物の手前で止まり、前の手でお宝を拾える、実に画期的なからくりでございます!」


「どうやって宝だって分かるんだ?」


 京介が聞く。


「サタンジョ様が、あれはお宝だとおっしゃいます」


「それ、普通に目で探すのと同じじゃない」


 まいが言った。


 男はひるまなかった。


「しゃがまなくてよいのです」


「そこだけ?」


「腰は大事ですぞ」


 女が、飾り棒で荷車の床をこんと鳴らした。


「説明はそこまで、プレスケ。あたくしたちの名を、この若い挑戦者たちにも教えてあげなさい」


 三人は、妙に息を合わせて姿勢を変えた。


「宝と拍手の似合う女、サタンジョ!」


「明日の便利を本日組み立てる、プレスケでございます!」


「重たいものは持つぞ。ロクシロウだよ!」


 そして三人は、腕を上げた。


「派手に登場、手ぶらで帰らず!」


 決まった。


 少なくとも、三人の表情を見る限り、見事に決まっていた。


 後ろから来た野菜の荷車が、通りたいんだが、と声をかけるまでは。


「手ぶらじゃ帰らないなら、先にその旗を片づけたほうがいいぞ」


 京介が言った。


「荷車についたままだと、門でつかえる」


「心配ご無用。旗は折りたたみ式です」


 プレスケが誇らしげにひもを引く。


 旗竿が、ばたんと倒れた。


 サタンジョの羽根帽子へ、正確に。


「……試運転、大事ですね」


「プレスケ!」


 まいは吹き出すのをこらえ、京介の肩を押して先へ進んだ。


 城の正門がようやく見えたとき、その向こうで青糸の帽子が二つ、人混みを抜けていった。


 京介は荷の肩紐を引いた。二人の足が特別に長いわけでもないのに、さっきから、向こうの背中ばかり見ている。


「知り合い?」


 まいが視線を追った。


「今朝、港で会った。サキトとハリナ。青針組って、受付で呼ばれてた」


「ふうん。荷が軽いのね」


「オレの地図を買おうとした」


「売ったの?」


「まさか。あいつらに負けたくないからな」


「あたしには?」


 まいが振り向く。琥珀色の目に、門の上の旗が映っていた。


「もちろん、まいにも!」


「じゃあ、遅れないでよ」


 彼女が先へ出た。京介も駆け出し、鳴り始めた開会の鐘へ向かって、人の流れに飛び込んだ。


エンディングテーマ「ただいまの地図」

https://youtu.be/laoWeE9esnY

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