プロローグ「退屈にはふたをするな」
オープニングテーマ「WONDER VOYAGE」
https://youtu.be/Bs0_T5g4GqI
ザックリ島の王城には、開かずの扉が三つあった。
一つは、雨の日に膨らんで動かなくなる物置の扉。一つは、王様がつまみ食いをしすぎて鍵を掛けられた菓子部屋の扉。
そしてもう一つが、玉座の後ろに飾られた、古代遺跡の扉の写しだった。
最後の一つだけは、どれだけ引いても押しても開かなかった。紙に描かれているのだから当然である。
「むう」
ワクワーク五世は丸い顎のひげをつまみ、三か月前から同じところにある丸い模様を睨んだ。細い線が幾重にも巡り、その下には舟らしき形が刻まれている。ただし、この舟は妙な向きに立っていた。
窓から風が入り、マントの裏地に縫われた星をめくっていく。王は紙を押さえる。その指先に、古いインクが移った。
「あと、ほんの少しだと思うのだがな」
「先月も、そうおっしゃいました」
副官トトノエが机に書類を置いた。角のそろった新しい束が、丸めた紙玉を一つ床へ押し出す。王は足でそれを椅子の下へ追いやった。
「外周の調査記録は読めました。しかし内側への道は見つからず、入口の仕掛けも動かせていません。陛下、地図を逆さにしても、新しい道は生えませんよ」
「分かっておる。違う見方を試しておるのだ」
王は地図を横にした。
トトノエは何も言わず、机から落ちそうになった燭台を遠ざけた。前に王が紙の裏から明かりを当てたときは、消えかけた文字が浮かび上がった。その次に別の紙で試したときは、紙が焦げた。どちらの記録も、今の報告書に挟まっている。
窓の外には、南の港から上る荷車が見えた。帆を下ろす船の列、その向こうの海は、今日は凪いでいた。
潮風に届くほど遠くから、魚売りの声がする。
王は港から視線を上げた。海の果てを越え、雲の切れ目よりも高く。昼の空には何も見えなかったが、そのことが不満だった。
「いろいろな者を集めよう」
地図を机へ広げて、王は言った。
「岩を知る者。古い字を読める者。余の知らぬところを歩き、余の思いつかぬことをする者」
「調査隊の追加募集ですか」
「もっと、わくわくする名がよい」
「調査隊の、追加大募集」
「少ししか増えておらん!」
王は踏み台へ乗った。小柄な体でも、これなら机の地図を隅まで見渡せる。両腕を広げた拍子にマントが燭台へ近づき、トトノエの手がもう一度伸びた。
「宝さがし大会だ!」
窓辺の鳩が飛び立った。
「海賊ガッポリーノの財宝! 眠れる遺跡! まだ誰も見つけたことのない道! 優勝者には、大会で見つかったお宝を、どーんと全部!」
トトノエのペン先が、書類の上で止まった。
「全部、ですか」
「それくらい言わねば、人は海を越えて来まい」
「来た方は、その約束を当てにします」
「もちろん、余がこの目で見て選ぶ。最もすごいものを見つけた者だ。そうだ、七日間にしよう。長すぎても、わくわくが薄まる」
王の指が地図の北を叩いた。何度も折った紙に、爪の丸い跡がつく。
トトノエは、その指が止まった場所を見ていた。
「遺跡の奥に、何があるのですか」
「それを探すのが、大会ではないか」
答えは早かった。王は笑っていたが、地図から手を退けなかった。
副官は机の手前へ新しい紙を引き寄せた。
「探索区域と、水場と、救護の手配をします。他人の品まで賞品に持ち込ませるわけにはいきません。詳しい規則はこちらで」
「頼んだぞ」
「開催費は、今年の催し物の予算内です」
王のマントが、少ししぼんだ。
「……盛大さにも、限りがあるのう」
「菓子部屋の増築よりは、優先できます」
「そこはまだ諦めておらん!」
副官は笑わず、予定していた一行を消した。王は覗き込もうとして、紙を遠ざけられた。
数日後、お触れは船に乗り、手紙に写され、伝書鳩とともに海を越えた。
世界アースのあちらこちらで、人々が顔を上げる。旅の費用を数える者。積んだ仕事を隣人へ頼む者。家の戸を閉め、その取っ手からなかなか手を離せない者。
優勝者は一人。
手に入るお宝は、全部。
同じ二行を読んでも、そこへ重ねるものは人それぞれだった。
そしてザックリ港では、一人の少年が、張り出されたお触れの前で胸を張っていた。
「ついに来たな。オレの時代が!」
その真後ろを通りかかった魚屋が言った。
「その前に、店の空き箱を返しておくれ」
少年が今、堂々と立っている足場のことだった。
エンディングテーマ「ただいまの地図」
https://youtu.be/laoWeE9esnY




