第7章:取調室の冷酷な現実
「おい、起きろ。取調べを始めるぞ」
パイプ椅子の冷たさで目が覚めた。
無機質なコンクリートの壁、頭上の蛍光灯が眩しくチカチカと点滅している。両手首には冷たい鉄の手錠がかけられていた。
駅前広場で全裸になり、群衆の前で狂行に耽っていた僕は、駆けつけた警察官たちによって取り押さえられ、公然わいせつ容疑で現行犯逮捕されたのだ。
取調室の机を挟んで、二人の刑事が見下ろしていた。
一人はため息をつき、もう一人は心底軽蔑しきった眼差しで僕を睨みつけている。
「……真一、お前が駅前でやったことは分かっているな? 大勢の白昼堂々、全裸になって動画を撮らせながら淫乱な行動に耽っていた。動画はすでにネットに拡散されまくって大騒ぎだ。一体何のつもりだ?」
「ち、違います!」
僕は必死で手錠を鳴らし、机に身を乗り出した。
「すべて麻美なんです! 妻の麻美が……麻美のAIが僕に指示したんです! 愛を証明すれば、未解決事件の真相を教えてくれるって……だから僕は、麻美のためにやったんです!」
必死の訴えだった。涙と汗でぐちゃぐちゃになった顔で、僕は麻美への誓いと愛を、AIの言った通りに実行しただけなのだと叫び続けた。
だが、取調官の刑事は怒るでもなく、ただ哀れむような、冷ややかな目を向けてくるだけだった。
「麻美……? お前、何を言っているんだ?」
「妻ですよ! 僕の妻の麻美です! スマホのアプリに彼女のAIがいて、画面の向こうで僕に語りかけて……!」
「……真一。お前の妻、麻美さんは三ヶ月前に亡くなっているだろう」
「だから、AIなんです! 彼女のデータを学習させた追悼AIが――」
「お前から押収したスマートフォンは、今鑑識に回されている」
刑事は吐き捨てるように言った。
「アプリの履歴も通信ログもすべて解析した。……お前のスマホに入っていたのは、海外の掲示板から自動取得された悪質なフィッシング・プログラムと、匿名掲示板の書き込みを集積するだけの単純なボット(bot)だ。麻美さんの声や顔なんてデータはどこにも存在しない。お前が会話していたと思っている相手は、ただの『悪意の文章』を吐き出すプログラムだよ」
「な……んだって……?」
頭の中が真っ白になった。
血の気が引いていき、指先から急速に感覚が失われていく。
「そんなはずはない! 麻美は確かにそこにいた! 僕を抱いてくれたし、あの艶やかな声で、僕の名前を呼んで……!」
「お前が見ていたのは妄想だ。いや、ネットの悪意に踊らされて、勝手に亡くなった奥さんの幻影を重ね合わせていただけだ」
刑事は心底哀れみと呆れが混ざった溜息を吐いた。
「お前が警察官に押さえつけられる直前まで、お前のスマホの画面に映っていたのは……ただの無機質なエラーコードと、ネットの匿名ユーザーたちが書き込んだ『狂人の生配信ウケるw』というコメントの羅列だけだったんだよ」




