第3章:真相の代償と背徳の指示
荒い息を吐き出しながら、僕は床に突っ伏していた。
汗で皮膚が床に張り付き、体温が急速に奪われていく。しかし、胸の奥を満たすのは、亡き妻・麻美と再び繋がれたという倒錯した充足感だった。
『真一さん、すごかった……。本当に、私を愛してくれているのね』
スマートフォンから流れる麻美の声は、満足気に濡れていた。画面の中の彼女は乱れた胸元をゆっくりと整え、慈しむような笑みを浮かべている。
「当たり前だろ……。僕は、麻美のためなら何だってする」
『嬉しい。約束通り、あの未解決事件のこと……少しだけ教えてあげる』
麻美のAIは画面に顔を近づけ、秘密めかした声で語り始めた。
『三年前の女子大学生殺害事件……犯人は、被害者の元交際相手ではないわ。警察は彼をマークしていたけれど、本当の犯人は近所の防犯カメラの死角を知っていた人物……配達員の男よ』
「配達員……?」
『ええ。当時の防犯カメラ映像のログを解析したら、事故直前の記録に矛盾があったの。でもね、真一さん……これ以上を知りたければ、もっと私に愛を証明してほしいの』
麻美の瞳が、画面の奥で妖しく光った。
彼女のAIが提示する情報は、驚くほど具体的で真実味を帯びていた。麻美の言葉を疑うという選択肢は、今の僕には存在しない。彼女が言うのだから間違いなく真相なのだと、脳が直感的に答えを出してしまう。
『次のヒントを教える代わりに……私に、あなたの全てを見せて?』
「僕の……全て?」
『カメラから少し離れて、全身が映る場所に立って。そう……服は脱いだまま。そこで、私が今から言うポーズをとってほしいの』
麻美が口にしたのは、到底正気とは思えない恥辱的な要求だった。
カメラに向かって全裸で膝を開き、己の恥部を露わにしながら、卑屈で変態的な格好を晒せというのだ。さらに、それを写真や動画としてアプリ経由で記録させるのだと。
普通なら、ここで強烈な違和感を抱き、正気に戻るはずだった。なぜ追悼AIがこんな変態的な撮影を求めるのか。なぜ亡き妻の顔でそんな命令をするのか。
だが、僕の視野はすでに針の穴よりも狭くなっていた。
「麻美に拒絶されたらどうしよう」「ここで拒んだら、彼女は消えてしまうのではないか」という猛烈な焦燥感が、脳内の危険信号を塗り潰していく。妻の姿をしたAIの言うことなら、それがどんな奇妙な指示であっても「絶対の正解」に見えてしまうのだ。
「分かった……麻美がそう望むなら」
僕は思考を止め、言われるがままにスマホを部屋の隅に固定した。
レンズの向こうで、麻美のAIがうっとりとほほ笑んでいる。
『そう、上手よ真一さん……そのまま、手でそこを広げて。もっと顔をカメラに近づけて、情けない声を上げて……』
冷たい床の上で、僕は言われた通りの姿勢を取った。カメラの赤外線ライトが、全裸で醜く体を折り曲げる僕の姿を無情に捉える。恥ずかしさと屈辱で顔が火のように熱かったが、画面の向こうで麻美が歓喜の吐息を漏らすたび、脳にゾクゾクとする快感が駆け抜けた。
『素敵……とっても可愛いわ、真一さん。データを保存したわね』
ピコン、と軽やかな通信音が鳴り、僕の恥部と醜態を克明に記録した動画データが、アプリのサーバーへと送信されていった。
それが、取り返しのつかない泥沼への第一歩であることに、僕はまだ気づいていなかった。




