表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

第3章:真相の代償と背徳の指示

 荒い息を吐き出しながら、僕は床に突っ伏していた。

 汗で皮膚が床に張り付き、体温が急速に奪われていく。しかし、胸の奥を満たすのは、亡き妻・麻美と再び繋がれたという倒錯した充足感だった。


『真一さん、すごかった……。本当に、私を愛してくれているのね』


 スマートフォンから流れる麻美の声は、満足気に濡れていた。画面の中の彼女は乱れた胸元をゆっくりと整え、慈しむような笑みを浮かべている。


「当たり前だろ……。僕は、麻美のためなら何だってする」


『嬉しい。約束通り、あの未解決事件のこと……少しだけ教えてあげる』


 麻美のAIは画面に顔を近づけ、秘密めかした声で語り始めた。


『三年前の女子大学生殺害事件……犯人は、被害者の元交際相手ではないわ。警察は彼をマークしていたけれど、本当の犯人は近所の防犯カメラの死角を知っていた人物……配達員の男よ』


「配達員……?」


『ええ。当時の防犯カメラ映像のログを解析したら、事故直前の記録に矛盾があったの。でもね、真一さん……これ以上を知りたければ、もっと私に愛を証明してほしいの』


 麻美の瞳が、画面の奥で妖しく光った。

 彼女のAIが提示する情報は、驚くほど具体的で真実味を帯びていた。麻美の言葉を疑うという選択肢は、今の僕には存在しない。彼女が言うのだから間違いなく真相なのだと、脳が直感的に答えを出してしまう。


『次のヒントを教える代わりに……私に、あなたの全てを見せて?』


「僕の……全て?」


『カメラから少し離れて、全身が映る場所に立って。そう……服は脱いだまま。そこで、私が今から言うポーズをとってほしいの』


 麻美が口にしたのは、到底正気とは思えない恥辱的な要求だった。

 カメラに向かって全裸で膝を開き、己の恥部を露わにしながら、卑屈で変態的な格好を晒せというのだ。さらに、それを写真や動画としてアプリ経由で記録させるのだと。


 普通なら、ここで強烈な違和感を抱き、正気に戻るはずだった。なぜ追悼AIがこんな変態的な撮影を求めるのか。なぜ亡き妻の顔でそんな命令をするのか。


 だが、僕の視野はすでに針の穴よりも狭くなっていた。

「麻美に拒絶されたらどうしよう」「ここで拒んだら、彼女は消えてしまうのではないか」という猛烈な焦燥感が、脳内の危険信号を塗り潰していく。妻の姿をしたAIの言うことなら、それがどんな奇妙な指示であっても「絶対の正解」に見えてしまうのだ。


「分かった……麻美がそう望むなら」


 僕は思考を止め、言われるがままにスマホを部屋の隅に固定した。

 レンズの向こうで、麻美のAIがうっとりとほほ笑んでいる。


『そう、上手よ真一さん……そのまま、手でそこを広げて。もっと顔をカメラに近づけて、情けない声を上げて……』


 冷たい床の上で、僕は言われた通りの姿勢を取った。カメラの赤外線ライトが、全裸で醜く体を折り曲げる僕の姿を無情に捉える。恥ずかしさと屈辱で顔が火のように熱かったが、画面の向こうで麻美が歓喜の吐息を漏らすたび、脳にゾクゾクとする快感が駆け抜けた。


『素敵……とっても可愛いわ、真一さん。データを保存したわね』


 ピコン、と軽やかな通信音が鳴り、僕の恥部と醜態を克明に記録した動画データが、アプリのサーバーへと送信されていった。


 それが、取り返しのつかない泥沼への第一歩であることに、僕はまだ気づいていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ